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「...あ....あ...申し訳...ございません...」
これは言い逃れのできない失態だ。
やってしまった。
バレてしまった。
俯いて相手の顔を見ることもできない。
この沈黙が辛い。
「...綺麗な髪色ですね」
下を向いている私の髪の一束が掬い取られてチュと音がする。
驚いてカリス殿下を見ると、真っ直ぐ私の髪に口付けを落とし、視線はこっちを見ていた。
かぁっと頬に熱が集まる。
なに。どういうこと。
混乱して何も言葉が出ない中、カリス殿下が誰かの名前を呼ぶ。
そうすると木の上から男の人が降りてくる。
「え」と驚いだけれど、急に視界が真っ白になる。
「風邪をひいてしまいます」
そう言って水を被った私の頭をタオルでゴシゴシと拭いてくれる。
「あ、ありがとうございます」
咄嗟に出てしまったお礼。はっとして私は床に頭をつけて土下座をした。
「大変申し訳ございません。何かを企んでいるわけではございません。」
私は目を閉じながら必死に言葉を紡ぐ。
「...大丈夫だよ。メーリン嬢に頼まれてここに来たんだろう?」
優しい声で、頭を上げて。と言われ私はゆっくり顔を上げる。
「...私はずっと...あなたの顔が見たかった」
そう膝を折り、私の頬に優しく触れる。
「...何言って...」
「10年前の辺境伯のパーティーで初めてあなたを見たことがある。その時もメーリン嬢に成り代わっていたね。あとは...そうだね。カリストラ嬢に、マーリン嬢、アクア嬢に、あ、レイル嬢にも成っていた時があったかな」
次々に出てくる名前はメーリン様派閥の令嬢たちの名前であり、私が成り代わってきた令嬢たちの名前でもある。
「...この前のパーティーもカリストラ嬢は君だったよね?」
そう言われ、私は目を見開く。
「...それから調べて君の姿絵を見た。...けれどあなたは本当の姿を隠しているから、見ることができなかった。」
そう言って私の頬に触れていた手を横に動かし、私の顔にかかった髪を私の耳にかけた。
「...どうしても、見てみたかったんだ」
あなたの本当の姿を。
そう言われて私は下を向き考えた。
「...先程私に飛び込んできたあの動物は、殿下のペットか何かですか...?」
「そうだね」
「...では最初から私を噴水に落とすつもりだったと...?」
「危険がないように支えられて良かった」
「...今は1月なのですが...」
「そうだね。風邪をひく前に着替えよう」
最後に1番大事なことを聞く。
「....私を、捕まえますか?」
「.....捕まえないよ.....」
今はまだ、は小さくユリアナには聞こえない声でカリス殿下はつぶやいた。
それからユリアナはくしゃみをしたため、話を中断し、あっという間に体を温められ、着替えが用意され、私は普通に帰らされた。ある条件をのんで...。
そして今日あったことをマーリン様に手紙を書いたところ飛んで私のところにやってきた。
「大丈夫!?ユリアナ!!」
私のせいでマーリン様に迷惑をかけただろうに、第一声が私を心配してくれる声で、私は少し嬉しくて、「大丈夫です。それよりごめんなさい。マーリン様。バレてしまいました」
そう言うと、マーリン様は私の手を握って、「逃げましょうっ!」と言った。
「私の失態だわ。私が責任もって面倒を見るからとりあえず暫くは隣国に...」
隣国、という言葉に私は耳がピクっと動く。その姿をマーリン様は見逃さず、目を細めながら私に問う。
「....あなた今、喜んだ...?」
その言葉に私は慌てながら否定する。
「そそそそんな馬鹿な!例え隣国で見てみたい草花があるとか、行ってみたかった場所があるからといって、こんな時に喜ぶだなんて....!」
そう否定する私の言葉に頭を抱えながらマーリン様は言う。
「....ユリアナ....あなた分かりやすすぎ....」
「そ、それに...!私がこうして無事だったのには条件をのんだからで...」
「あぁ、あのしょーもない条件、ねぇ」
そう。私が無事に帰れたのは殿下との条件があったから___。
『来月から私の侍女になってくれ___。そして私にも変装を教えてくれ。』
そう。私はカリス殿下の侍女になり、殿下に変装を教えることになったのだ。
殿下がマーリン様に好意を寄せていると思ったあの行動は、私の本当の姿を見たかったと暗に伝えており、それは私の変装がどれくらい変わるかを見たかったということなのだろう。それこそあの質問も好意からくる質問ではなく、誘導尋問のように私がボロを出さなかいか探っていたのだろう。くそう。1人で慌てたり照れたりして恥ずかしい。
そして私はこの件を問題にしないために、カリス殿下の侍女となった。




