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いつも以上に念入りに確認する。
本当は念の為予備を持っていきたいけれど、王宮と言うこともあり得体のしれない瓶など持って行けるはずもない。
「...不安すぎて吐きそう...」
変装を済ませて鏡を見る。
そしてメーリン様に成りきった私を見たメーリン様は驚いた顔をする。
「凄いわね、本当に私だわ」
メーリン様に成り代わるのは5年振りくらいだろうか。それくらい久しぶりで本当に大丈夫なのか不安だ。
「メーリン様になりきれるでしょうか...」
そう不安げに言うと、ふと疑問に思った。
「...そういえばこの成り代わりっていつも秘密でしたよね?...今回のお茶会にメーリン様が行くのは知ってるのに、家にもメーリン様がいたら可笑しくないですか?」
あぁ、とメーリン様は呟くと
「大丈夫よ。今日のお茶会のことは父には伝えてないわ」
とはっきりなんでもない事のように言った。
「いやいやいや、流石に無理があるんじゃない!?」
「大丈夫よ、早々会うこともないのに先日のお茶会~なんて父の前で言われても今日だとバレなければ問題ないんだから」
なんて事ないように言うが、本当に大丈夫なのだろうか。
メーリン様のお父様は仕事で家を空けることも多いため毎日のメーリン様の行動は確かに把握されてないだろうけれども。
「...金貨2000枚」
扇子で口元を隠しながらメーリン様に告げられる。
父が帰ってくる前に出なさいな、と急かされ
「...行きますよ...行ってきます...」
私は項垂れながら公爵家の馬車に乗り込んだ。
そうして揺られながら、私はメーリン様を思い出す。仕草、話し方、行動を。
行く前にメーリン様から扇子もお借りした。
大丈夫。
そう言い聞かせ、目を開ける。
そしね馬車も止まり、扉が開けられた。
「メーリン.ヒストリス様、お待ちしておりました」
そう言われた声の先を見ると、まさかの第二王太子のカリス殿下だった。
ヒッと思いながらも微笑みながら扇子で口元を隠し、手を差し伸べ、エスコートされながら馬車から降りる。
「お迎えに来ていただけるなんて光栄だわ」
「お久しぶりですね。貴方に会いたかったです」
会って早々の口説き言葉に私の心は悲鳴をあげた。
メーリン様!!貴方いつの間にかカリス殿下の心を奪っておいでです!!
冷や汗ダラダラで、「あら、まぁ」と笑顔でスルーする。
そのままエスコートされた庭園はそれはもう見事だったのだが、
「こんにちは、メーリン嬢」
第三王太子のフェリクス殿下からの挨拶に、
「お久しぶりですわね」
「こ、こんにちは」
サラサ.カシドール公爵令嬢、イリア.ウィリアム公爵令嬢からの挨拶で私の心は更なる叫びをあげた。
(わ、私が最後ぉぉおおおお!?王太子様だけでなく公爵令嬢様方をお待たせするなんて....!)
恐縮すぎて恐ろしい。
「あら、私が最後なのね。お待たせしてしまいましたわね。」
そう言ってカリス殿下が私のために椅子を引いてくれたのでそちらに座る。
あとは空気になっていれば終わる。
はずだったのに。
「あなたは何のお菓子が好きなの?」
「あなたは休日何して過ごしているの?」
....カリス殿下が私への言葉を止めない。
「...苺のタルトが好きよ」
「...本を読むわ」
私は冷や汗ダラダラなお茶会だった。
何が空気になってればですか!私が話の中心になってます!!
私がそれとなく他の令嬢に話を振れば、終わった頃にカリス殿下は私に話を振って、また私が他の令嬢に話を振ってもまた気づけば私に質問される。
なんなのこれ...!
メーリン様に好意があるってことなのは分かるけれど、ここで私が避けなければいけないこともわかる。
メーリン様はミリオン様に夢中だから。
ど、どうしたらいいのよ...。
「良かったら庭の散歩でも行かないか?」
カリス殿下が私を見つめながら言う。
ここで断ることはできないと分かっている。
「そうですわね。見たいわ」
そう告げ席を立とうとしたが、
「あら?皆様どうかして?」
私とカリス殿下以外は席を立たない。
「...?兄様はメーリン嬢を誘われたのですよ。二人でという意味で」
そうフェリクス殿下に告げられ私はヒュッと喉が音を鳴らし、ギギギと効果音が鳴りそうな動きでカリス殿下の方を見ると、彼は目が合った私に微笑んで手を差し伸べた。
ヒッと思いながら私はその手に自分の手を重ねた。
無言で庭を歩き、ひまわりの花の前に足を止めた。
「あなたは花は好きか?」
そう庭の花を見ながら問われる。
「...そうね、薔薇とかが好きよ」
メーリン様は赤や濃い色の花が好きだ。
だから薔薇が好きだと以前言っていた。
「薔薇も似合いそうだが、あなたにはひまわりとかよく似合うと思う」
え!?あのメーリン様に!?ドレスも常に濃い色を好んで着ているのに?ひまわりとかメーリン様と真逆のイメージなんですが!?メーリン様は黒髪で白い肌に紫の瞳。明るい色より深い色の方があの方をより美しく見せるというのに。
この男の見る目のなさにげんなりする。
「あらそう。あなたの方が似合うんじゃないかしら?」
私はカリス殿下を流し目で見る。キラキラした銀色に輝く髪に、碧眼の瞳。見目麗しいこの男にこそ明るい色は似合いそうと思った。
「そうかな?」
そう言いながらひとつの花を摘み、私の頭に挿した。
そして微笑んで私に言った。
「桃色の髪色とかにも似合いそうだよね」
そう問われ、私の動きは止まった。
桃色、それは私の隠された髪色だった。
幼少期に私は珍しい髪色と瞳の色で誘拐されたことがある。珍しいものを集めるのが趣味の貴族の指示だった。
その人は私の誘拐を失敗したにも関わらず何食わぬ顔で私を買おうとしたり、妾にまでしようとした。大の大人がまだ5歳の子供をだ。
今思い出してもゾッとする。そしてメーリン様に助けられ、私はある人に教えてもらった髪を染めたり、瞳の色を変えたりすることを覚え、それからはずっと外では髪を染め続けている。
「桃色、ですか。珍しい髪色のことを言うのですね。」
「そうですね。でも似合いそうと思ったもので」
次の庭園は大きな噴水があるんですよと、そう手を差し出され、戸惑いながらも手に触れる。
「先程エスコートさせていただいた時も思ったのですが、手が冷たいんですね」
「そうかしら」
「はい。以前エスコートさせていただいた時はどちらかと言うと体温は高そうにお見受けしたのですが今日は...」
カリス殿下が言葉を言い終わる前に私は咄嗟に言葉を被せて言う。
「緊張しているからではないかしら」
落ち着かない心臓がバクバクと鳴っている。
普通に危険信号がなっているのではないか?心の中で問う。メーリン様あまり面識がないと言っておられませんでしかね?てか人の手の体温とか覚えてるものなの?メーリン様ではないと気づかれたの?
グルグルと考えていると足元が疎かになって、カツンッとなにかに躓き、ぶつかるっと目を閉じるも衝撃を感じず目を開けるとカリス殿下が支えてくれていた。
思わずお礼を述べたが、己の失態に気づき、顔をサーと青くする。
「...ところでメーリン嬢はそんなに身長が低かったんですね?160はあると思っていましたが」
そうカリス殿下に指摘され、私の顔色は青くなった。
ドレスから飛び出た高めのヒール。
そう。躓いた拍子に靴も脱げてしまった。
誤魔化せるなんて思えるはずもない。
「...私、少し体調が悪いみたいですわ。今日はこの辺で帰らせていただきたく思いますわ」
そう言ってお辞儀をして、帰ろうと足を急かしながら門へ向かう。
「そんなに急いだら危ないですよっ!」
と叫ばれた時、私の横からなにか柔らかいものがくっついてきた。
「きゃっ」
咄嗟に驚きの声をあげる。
そしてまた足のバランスを崩して、咄嗟に私を抱き抱えてくれるカリス殿下だったけれど、私は噴水に引っかかり、そのまま2人とも噴水に飛び込んでしまった。
「つ...めた...」
と自分が今濡れていることに、どんどん私の顔色は悪くなる。
そして自身が飛び込んでしまった噴水の色が少しづつ黒くなっていく。
「あ、あぁ...」
まずい。まずいまずいまずい。
私が染めてる髪と瞳の色は水で簡単に落ちてしまう。
これは私の元の髪色になるということだ。
ここ何年も地毛を外で晒したことなんて無かったのに。




