貧乏貴族令嬢のおにぎりにどっぷり惚れ込むぽっちゃり貴族様
「リリーお姉様、マリーお姉様、
お食事の準備が出来ましたわ」
ティアナの呼びかけで、
リリーもマリーも集まってきた。
ティアナはルーヴェン男爵家の三女。
ティアナが3歳のときに母が病で亡くなり、
父は娘たちのためにと、すぐに後妻を迎えた。
その後すぐに父も病で亡くなった。
そのため、ティアナは姉2人と継母イザベラとの
4人での生活を送っていた。
「一階の掃除はどう?マリー」
「さっきやっと終わったわ!リリーお姉様、二階のお掃除手伝いましょうか?」
「いえ、私も終わったので大丈夫よ!お母様はどうかしら?」
3人で窓の外を見る。
イザベラが洗濯物を取り込んでいる。
男爵家ではあるが、
ティアナの父がなくなってからは経済的に苦しくなり、
使用人を雇う余裕はない。
4人で力を合わせて生活をしている。
イザベラは継母なので、
すぐに子供達をおいて出ていくと思われたが、
決してそんなことはなかった。
逆に子供達に溢れんばかりの愛情を注いだ。
そればかりか、貴族でなくなったときに備えて、
娘たちが家事全般をこなせるよう教え込んだ。
「待たせてしまってごめんなさい!
それではいただきましょうか」
イザベラも席に着き、楽しい食事の時間が始まった。
「今日の食事はなにかしら?
ティアナが食事当番の日はみたことのないメニューが多いからいつも楽しみよ!」
マリーがいうと、イザベラもリリーも頷く。
「あら、嬉しいわ!
お母様やお姉様に褒められると自信が持てるわ!
今日はね、東洋の《おにぎり》という料理なの。
中にはご飯にあうものを何でも入れていいみたいで…」
「でも、ナイフとフォークでは食べにくいわ…」
イザベラが困惑すると、
「お母様、お姉様、《おにぎり》は手で食べると
食べやすいようなの!クッキーのように。
さぁ、食べてみて」
ティアナがうながすと、
マナー違反とはわかってはいるが、
可愛い末っ子のキラキラした目をみると
断りづらく、3人とも手でおにぎりをとり、口へ…
「なんてこと!とっても美味しいわ!!
酸味のあるプラム??かしら??
ご飯とマッチしててとっても美味しい」
イザベラがそういうと
「お母様!!私のには、お魚が入っています!
ピンク色…サーモンかしら??
脂身の甘さも相まって…口の中に旨みが広がるわ!」
リリーもマリーも大興奮しながら口いっぱいにほうばりマナーなんてどこへやら。
3人の喜ぶ顔をみて上機嫌のティアナ。
4人の食事はいつも笑顔が溢れます。
———
ある日、珍しくルーヴェン家に手紙が届いた。
もちろん手紙を手に取り一番に読むのは主である継母イザベラである。
「あら、手紙?
!!!!!王城から???!」
慌てて中を確認するイザベラ。
読み終わると3人の娘たちを集めた。
「王城から手紙がとどいたの。
今週末行われる王城の夜会への招待状だったわ。
王城から年頃の女性貴族全員に招待状を送ったようなの。
うちは3人とも対象になったみたい。
王太子様の結婚相手を探すそうよ。」
3人は目を丸くして驚いた。
そして、マリーがいった。
「王太子様の?私達には関係ないわ、
それに、うちにはドレスも馬車も…ないわ。」
イザベラは
「王城からの招待状を無下にはできないのよ」
と貴族の誇りを忘れるなと言わんばかりに
まっすぐ3人の目を見つめていった。
そして、3人を亡くなった父の書斎へ連れていった。
父の書斎には父の仕事着をしまうウォークインクローゼットがついていて、
イザベラがその扉を開けた。
3人の娘はここに入るのは初めてだ。
中には、
綺麗に整えられたドレスが3着。
どれも手入れが行き届いていて、
流行に左右されない、品のあるデザイン。
生地も一流。
「こ、これは??」
ティアナが驚いてイザベラにきくと、
「年頃の娘のために用意するのは母の務めです。」
「お母様……」
3人はイザベラを見つめ涙ぐみました。
「馬車もなんとかするから、
今週末、楽しんでらっしゃい!」
母の偉大さを改めて知った3人は
イザベラに抱きつき、何度も感謝の気持ちを伝えた。
イザベラは嫁入りに持ってきていた宝石類を売り、
準備していた。
娘たちはとても優しい。
気にさせまいと、こっそりと。
———————
夜会当日。
ドレスアップしたティアナ、マリー、リリーは
イザベラの用意してくれた馬車にのり、
王城へ向かった。
留守番となるイザベラのためにと、
出発前に、ティアナは《おにぎり》を作ってきた。
《お母様
わたしたちは、お母様の娘で幸せです。》
とメッセージを添えてテーブルに。
おにぎりの具は、新作 鶏の照り焼き である。
作りながら味見をしたら、この上なくおいしくできたので、
ティアナは嬉しくなって、馬車の中で姉たちと食べようと
バックに忍ばせてきた。
「お姉様、これ、道中長いし、
馬車良さの中で一緒に食べない?」
ティアナが嬉しそうにおにぎりをとりだす。
「ごめんなさい、ティアナ、
緊張でそれどころではないわ」
「わたしもよ、ごめんなさい、ティアナ…」
ティアナは残念そうに
おにぎりを包み直し、ハンドバッグへ。
しばらくして王城へ着いた。
3人は馬車から降りた。
母から教わったとおり、
背筋を伸ばして、
凛とした姿で夜会会場に続く階段を登る。
会場につくと100人を超えるほどのご令嬢が列をなしていた。
王太子様へのご挨拶の列である。
もちろんティアナたちも
夜会の運営を任された従者たちに列に並ぶよう促された。
ティアナたちが長い列に並ぶこと1時間。
王太子様へご挨拶の順番が来た。
長女のリリーが話し出す。
「本日はお招きありがとうございます。
お初にお目にかかります、
ルーヴェン男爵家 長女のリリーでございます。」
次にマリーが
「次女のマリーでございます。」
最後にティアナが
「三女のティアナでございます。」
と丁寧にご挨拶をしました。
それに対して王太子は
「今日は来てくれてありがとう、
楽しんで行ってください」
とこたえただけ。
すると側近の方が
「次のかた、どうぞ」
といい、3人は王太子様の前から下がった。
3人は胸を撫で下ろし、ホッとした。
「これでお役目は果たしたわ!」
「それにしても王太子様はお綺麗なお顔でしたわね!」
「サラサラの金色の髪、青い目、すらっとしたお姿は、絵本の中の王子様そのものね!」
3人が雑談できるほどに緊張が解けてきた。
他のご令嬢たちは夜会になれているようで、
仲の良いご令嬢同士で輪になり
何やら社交界の噂やら流行りのドレスのことやらを
話している。
3人は当然輪に入れるわけもなく、
夜会の食事を楽しむことにした。
「王太子様も《楽しんで》っていったらしたし、
ここのお食事を楽しみましょ!」
「あちらのマカロン、今まで食べたことないほどの風味よ!」
「こちらのお肉は口の中でほろほろと崩れて
やわらかいわー」
ビッフェ形式なので、
好きなものをどれだけ食べても大丈夫!
3人は思い思いに食べた。
ティアナはお腹いっぱいになったところで、
中庭の椅子に座ることにした。
「お姉様たち、まだ食べられるの?
わたしも馬車の中でおにぎりをたべていなければ
もっと食べられたのに…
くやしーい!!」
と独り言を言っていると、
フフフッ
と笑い声がきこえてきた。
声の方に目をやると
茂みの中に人影を見つけた。
暗がりで気づかなかったけど、
独り言を聞かれちゃったんだわ!
恥ずかしさで顔が熱いティアナが
両手で顔を隠した。
「ごめん、ごめんなさい、
うっかり聞こえてしまって…」
そう声をかけられ
ティアナが指の隙間から見上げると、
そこには金髪で青目の男の人が。
ティアナが、王太子様?!と一瞬思ったのも束の間、
よくよく見ると、ぽっちゃり体型で
王太子より少し年下にみえる。
その男の人は自分よりも真っ赤になっているのに気づき、
ティアナは顔から両手を離した。
「いえ、私こそ大きな声で独り言を…
お恥ずかしいです」
「横にかけてもいいかな?」
ティアナはその男の人が座りやすいよう
少し横にずれて、頷いた。
「夜会は楽しい?」
つまらなそうな顔で彼はティアナに聞いた。
「えぇ、ご飯が美味しいです!」
笑顔で答えた。
「ご飯?!」
とまた彼は吹き出して笑った。
「また笑いましたね!!
あなたは召し上がりましたか?
とっても美味しいのですよ!」
ティアナが彼に諭そうとすると
「フフフ、わかった、今度食べてみるよ、
夜会のときは食事どころじゃなくて、
食べたことなかったから。今日もまだ何も。」
彼が答えると
「あら、残念。。。
あ!!もしよろしければ
私が作った《おにぎり》が…、、、
いや、だめね、王城のお料理と比べると
まだまだだもの。忘れてください。 」
というティアナのその言葉に
「え!!!!!?
《おにぎり》?!
あの、東洋の料理だよね?!
信じられない!あれを作れるのかい!?」
彼は目を大きく開き、ぽっちゃりした体を
ティアナの方に向けて、興奮気味に質問する。
「え、ええ、作れるわ。
今もバッグに入っているの。」
彼の興奮した姿に驚き、少しのけぞりながら
ティアナが答えた。
「あの、、、初めて会ったご令嬢に
不躾なお願いだとは思うのですが、
是非その《おにぎり》をいただけないでしょうか」
顔を再び真っ赤にしながら
彼は真剣にティアナに頼み込んだ。
「フフフ」
ティアナは笑いが込み上げた。
笑っているティアナをみて
同じように笑ってしまう彼を見つめながら、
さらに笑顔になるティアナ。
「あなたって本当に面白い…、いえ、素敵な方ね!
もちろんよ!
私の自信作を召し上がって!」
そういって、バッグからおにぎりを取り出し、渡した。
手渡されたおにぎりを手に取った彼は
感動したのか、目をウルウルさせながら
おにぎりをパクリ。
「なんて美味しいんだ!!
こんなに美味しいとは、本でよんだ以上の味だ!」
おにぎりを見つめながら興奮している。
「あれ?でも本で見たのは中に酸っぱいプラムがはいっていた。これは…鶏肉か!?」
「そうよ!!そうなの!!
プラムも美味しいのだけど、
私が考えた創作おにぎりなの!
これは鳥の照り焼きといって、甘辛く焼いた鶏肉なの。
どう?あうでしょ?美味しいでしょ?!」
自信満々にティアナがいうと、
「うん!最高だよ!!!!
こんなに美味しいものはない!!」
あっという間に完食した彼の姿をみて、
とても嬉しい気持ちになったティアナは
「本当にありがとう!!
美味しそうに食べてくれて、とっても嬉しいわ!
人をこんなに幸せにできるあなたはとても素敵だわ」
と感謝の気持ちを述べた。
ティアナの満面の笑顔が月明かりに照らされて、
とても美しい。
彼はティアナに見惚れ、また真っ赤になっていた。
すると、リリーの声が
「そろそろ帰るわよー」
「わかったわーー!!」
ティアナがリリーに返事をした。
「ごめんなさい、もう帰る時間のようだわ、
素敵な夜をありがとうございました。」
丁寧にお辞儀をしてティアナがバルコニーから離れた。
彼は真っ赤な顔のまま、お別れの挨拶もできないままでいた。
———
それから数日、王城は大騒ぎになっていた。
特に国王の興奮がおさまらない。
「セドリックにやっと気になる令嬢ができたのに、
まだ見つからないのか?!
急げ!セドリックの気が変わらぬうちに!」
従者たちは国王の命令とあって
試行錯誤しながら、寝ずに令嬢を探していた。
「殿下、大変申し上げにくいのですが、
ご令嬢の名前がわからないことには…。」
「セドリックの話によると
見惚れてしまって名前を聞きそびれたそうだ。
あのセドリックがだぞ!!」
「はい…。セドリック王太子様のお話ですと、
そのご令嬢は貴族にもかかわらず、
料理が得意とか。」
「そうなのか!?それなら……
国中の料理自慢の令嬢をあつめよ!
そして、料理を作らせよ!」
————
それからまもなく、
料理が得意な令嬢が王太子妃になれる
という話は瞬く間に国中に広がった。
国中の令嬢は夜会で会った素敵な王太子とのご縁を求め、
必死に料理を練習し始めた。
もちろんティアナの耳にも噂は届き、
「料理を振る舞う?? 料理の祭典かしら?!」
「だとした、ティアナ!挑戦してみなさいよ^_^!」
「そうよ!そうよ!
この前作ってくれた鳥の照り焼き入りのおにぎりなんて、最高に美味しかったわ!
あなたなら、絶対に一位よ!優勝よ!」
ティアナの母や姉たちが盛り上がる。
「そうかしら?
そうね!楽しそうだわ!!」
そういってティアナは市場へ向かった。
市場はいつにも増して賑わっていた。
新鮮な食材を我先にとご令嬢たちがひしめき合っている。
その様子にティアナも気合いが入る。
「よし!!私も負けてられないわ!」
———
料理の祭典当日
(…実際には王太子の結婚相手探し当日)
会場にいる令嬢たちの顔は真剣そのもの。
もちろんティアナも。
「よーし!美味しいおにぎりを振る舞うわよー!」
と腕まくり。
それぞれ自慢の一皿をテーブルに並べた。
テーブルは何卓も用意され、
そのすべてのテーブルにずらーーーっと料理が並ぶと
まるでパーティー会場のようだ。
鴨や仔羊のロースト、オマール海老やスズキのローストに趣向を凝らしたソース。盛り付けも一流。
そんな料理が多い中、
おにぎりはなんとも見栄えもなく、貧相にみえる。
ティアナの料理をみるご令嬢たちは
クスクスと笑う始末。
それでもティアナは気にしない。
このおにぎりはどこかの貴族様も美味しいと
感激してくれたことがあるのよ!
と強気でいられた。
「ご令嬢方は料理の前にお立ちください。
国王陛下と王太子様がおこしになるまで、
今しばらくお待ちください」
その言葉をかわりきりに、その場にいたご令嬢たちは
手鏡をみて前髪を直したり、口紅を塗り直す。
専属のメイドを呼びつけ念入りに確認するものも。
一方ティアナは、
「審査員さん!早くこないと冷めちゃうわよ!!」
とイライラ。
やっと、国王陛下と王太子様が到着した。
先日の夜会でご挨拶したとおり
王太子はサラサラの金色の髪、青い目、
すらっとしたお姿はご健在。
国王陛下も金髪で青いキラキラした瞳は
王太子様とそっくりだわ!
でも王太子様とは違って国王陛下はぽっちゃり体型ね!!
きっと美味しいものをたくさん食べていらしたんだわ!
審査員にピッタリね!!!
あ〜早く試食してほしいわー^_^
ワクワクがとまらないティアナ。
順番に食べすすめていくお二人の審査員。
ティアナの前に陛下たちが立ち、
おにぎりをみて、
「…?」
沈黙。
見たこともないこの料理を
どうやって食べるのか、
食べ方がわからず困惑しているのだ。
そこへ、
「次のご公務の時間が迫っておりますので、
そろそろ…」
と小声で従者が声をかける。
急かされるようにその場を離れる陛下たち。
「…」
ティアナの料理にだけ、
手をつけることすらしてくれなかった…
ティアナは怒りよりも悔しさが募り、
涙を目に浮かべ、おにぎりを見つめた。
「今回お目に留まった料理をつくられたご令嬢には
改めてご連絡をいたします。
今日はご足労いただき、誠にありがとうございました。」
お開きとなった。
どんどん会場が片付けられる中、
ティアナは自分が心を込めて作ったおにぎりを
ハンカチで丁寧につつみ、
大事そうに抱えた。
「さて、帰りますか!」
そう立ち上がり、会場をでたところで
「あ、あの…、もしかして…」
と後ろから声をかけられた。
振り向くと、
そこには夜会でおにぎりを褒めてくれた
ぽっちゃりな彼がいた。
「あら!!お久しぶり!!
夜会のおにぎり依頼ですわね!」
ティアナが笑顔で応えると
夕日のせいか赤らんだ顔で彼も応えた。
「は…はい、お久しぶりです。」
「ねぇ、少しお時間あるかしら?
今日はとても…色々あったの。
モヤモヤしちゃってて、
話し相手になってくださらない??」
そういって、彼の手をとって、
広場のベンチを指差した。
ティアナは彼の手を握ることに深い意味を持たなかったが、
握られた彼はティアナと自分の手を見つめながら
真っ赤な顔をさらに真っ赤にて、
ソワソワしながらベンチへと歩いた。
2人で腰掛けると
ティアナはせきをきったように
今日の料理の祭典について話をした。
心をこめて作ったこと。
審査員にたべてもらえなかったこと。
ティアナの目から涙が溢れてきた。
ぽっちゃりの彼は
黙ってその話を聞いていた。
彼はそっとハンカチを差し出してくれた。
ティアナはそのハンカチを受け取り、
涙を拭いた。
「ありがとう。
でもね、いま、冷静に考えてみるとね、
私にも落ち度はあったと思うの。」
「え?そんなことはないよ、
審査員は失礼すぎるよ!
なんてことだ!!」
ティアナが温厚で優しそうな彼が怒ってくれて
より落ち着きを取り戻した。
「いえ、
おにぎりを知らない人が食べ方に
困惑するのは当たり前よ。
ナイフやフォークは使わないで
手で食べるものって分からないし、
見たことない料理に抵抗もあるはず。
おにぎりは東洋ではポピュラーな食べ物だという
言葉も添えればよかったわ!
ねぇ、そう思わない?」
「そ、それはそうだけど、
でも君の心のこもったおにぎりが…」
「あら、おにぎりを心配してくれるの??
だったら…」
そう言ってティアナは
ハンカチに包んだおにぎりを取り出した。
「2つあるの。
2人で食べない?」
彼は嬉しそうにうなづいた。
2人で並んでおにぎりを食べた。
ティアナは彼が美味しそうに食べてくれる顔をみて
あったかい気持ちになった。
最悪の出来事が、巡り巡って幸せな出来事につながった。
彼の横顔を見つめると
心地よい時間が流れることにティアナは気づいた。
「あなたって素敵な人ね。」
ティアナが少し頬を赤らめて
彼の顔を覗き込んだ。
彼は目をまんまるにして、
「あ、ありがとう。君もね。」
と小さな声でつぶやいた。
「さて、帰るとしますか!
今日は急にごめんなさいね、呼び止めてしまって」
「あ、うん、そんなことは。
あの、えっと、、、
名前をきいてもいいかな?…」
「あれ?まだ言ってなかったかしら。
ごめんなさい。
私の名前は ティアナ よ!
そういえば、あなたの名前も聞いてなかったわ、
教えてくれない??」
「ティアナ…だね。
ありがとう。
僕は………リック。」
「そう!わかったわ!
また会えるかしら?」
「あの…今度、おにぎりのお礼をしたいんだけど、
うちに遊びに来てくれないかな?
見せたい東洋の料理本があって、
あと、おすすめの東洋のスイーツもあるんだ!」
「そうなの?もちろんよ!!楽しみ!!
是非お邪魔させていただくわ!」
「明日、馬車を迎えに行かせるよ!」
「本当に?!やったー!
うちはあの丘の上よ!
じゃぁ、また明日ね。」
そういってティアナはリックに手を振って
歩いて帰って行った。
リックはその後ろ姿が見えなくなるまで
ティアナを見つめていた。
————
翌日。
リリーもマリーも料理の祭典の出来事を
許せない様子で朝からプリプリ。
「ティアナのおにぎりを食べないなんて
どうかしてるわ!」
「こんなに美味しいおにぎりを食べ損ねるなんて
無知も甚だしいわ!」
「2人とももうその辺で」
イザベラも2人の娘に同調したそうだが、
グッとこらえてなだめ役に徹する。
「そうよ、お母様のいうとおり。
料理の祭典のあと、素敵なお友達もできたのだから!」
ティアナは嬉しそうに鏡を見つめながら
会話に参加する。
「ところで、、、
何でそんなに鏡を見る必要があるの?
今日お友達の家に行くだけなんだよね??」
ニヤニヤした顔で
リリーとマリーがティアナの顔を覗く。
「え!?…だって…」
と顔を真っ赤にしたティアナがうつむいたとき、
馬車の音が聞こえてきた。
「あっ!リックのうちの馬車だ!!」
そういって、ティアナはあわてて
キッチンに置いてあった今朝作った大量のおにぎりを
とりにむかった。リックへの手土産だ。
リリーとマリーのニヤニヤが止まらない。
イザベラはすっと立ち上がり、窓から馬車の方を見た。
馬車をみたイザベラは慌ててティアナを呼んだ。
「ティアナー!ティアナー!!!」
「はーい!お母様どうしたの?そんな大声をだして…」
「早くこちらへいらっしゃい!
着替えるのよ!!」
そういって、あれよあれよと寝室は連れていかれ、
夜会の時に着た上等なドレスを着せられた。
「え?」
あっけに取られるティアナ。
無心に髪を整えたり
アクセサリーを身につけさせたり
無言でティアナを整えるイザベラの迫力に、
ティアナは なすがまま。
「さ、お行きなさい。
誇り高きルーヴェン家の娘として。」
「大げさよ、お母様。
ただ、友達の家に遊びに行くだけなのに。
でも、可愛くしてくれて、ありがとう。」
ティアナは丁寧に、そして綺麗にお辞儀をして見せた。
—————————
「馬車は無事ティアナのところに着いただろうか、、、
本当に来てくれるだろうか、、、
あっ!!ねぇ!!
どら焼きや羊羹の準備はできてる??」
「はい、問題なくできておりますよ、
ご心配なさらずとも全て大丈夫でございます」
リックは自室の窓から外を眺めては
行ったり来たり部屋中を歩き回り落ちつかない。
「あっ!!きた!!きたぞ!!
出迎えてくる!!」
そういってリックは自室を飛び出した。
リックは馬車から降りてくるティアナに手を差し伸べ、
ティアナの手がリックの手に重なる。
2人とも頬が赤くなるのを自覚しながらも、
目を逸らさず、少し見つめ合ってから、
恥ずかしそうに笑いあった。
そこからはリックもティアナも
東洋の料理本を並んで読んだり、
和菓子を食べたりと
2人の時間を穏やかに過ごした。
心が満たされる思いだった。
そこに突然ノックも断りもなく、
部屋の扉が急に開いた。
「今日こそ話がしたい!」
大声で入ってきたのは
リックに似たぽっちゃりした人と
スラっとした金髪のイケメン…
《あれ?》
ティアナは顔が真っ青になった。
《見たことある顔だ!
国王陛下と王太子様だー!!》
席を立ち、慌ててご挨拶しようにも
口いっぱいの和菓子たちが邪魔をする。
一方ティアナ以外の3人はというと、
ティアナ以上にフリーズしている。
急いで和菓子を飲み込み、
「こ、こんにちは、、、
ルーヴェン家三女のティアナでございます」
とご挨拶。
「や、やぁ!!」
ぎこちない国王陛下。
「王城の離れでしたので、まさか客人が
いらしているとは思いもせず、失礼しました」
礼儀正しい王太子様。
《え?!ここ王城の離れなのー!?》
と困惑顔を必死に隠しながら
「いえ、とんでもございません。
リックは国王陛下と王太子様とお約束があったのですね、
長居をしてしまいすみませんでした。
それでは、私はこちらで失礼させていただきます。」
厳かなるメンバーが並ぶこの部屋で
息をするのもやっとなティアナが
やっとの思いで部屋から出ようとした時、
「ま、まって!!」
リックが呼び止めた。
「ティアナ、待ってほしい。
少し話がしたいんだ。
父上もいいかな、
エドも。」
「???」
ティアナの頭は ??? でいっぱいになった。
混乱しすぎて、考えることをやめたのも一因である。
皆が席についたところで
リックが話を始めた。
「ごめんね、ティアナ。
話していないことがあったんだ。
ぼくの名前はセドリック、この国の王太子なんだ。
」
「え?でも、王太子様はこちらの…」
とティアナが金髪イケメンに目をやる。
「いや、実は…
一夜の夜会で王太子妃を選ぶという
とんでもない企画に僕はうんざりしてしまって、
その日、夜会の時間に逃げたんだ。
まぁ、正確には君も知っての通り中庭に隠れてた。
そしたら、父が体裁が悪いと騒ぎ出し、
いとこのエドワードを代役に立てた。
まぁ、見た目的にも僕より王太子って感じで
しっくりきたようだけど。」
「とんでもない企画って…おまえ!
これは、わしの企画だぞ!!
妃選びも大事な公務だ!!」
国王陛下が口を挟んできた。
「まぁまぁ、セドリックも陛下もお客様の前ですよ!」
エドワードがなだめる。
ふぅーと深く息を吐いてから
セドリックが言った。
「僕はね、前々から思っていたんだ、
妃選びはね、結婚はね、
本当に大切に想う相手としたいと。
で、つまりはね…
その……」
国王陛下もエドワードも息を呑む。
「ティアナ嬢、
僕と結婚を前提に
お付き合いしてくれないだろうか」
真っ赤な顔で真剣な眼差しで
そしてどこか不安そうなセドリック顔を
ティアナは瞬きを忘れて見つめた。
ティアナの心が高鳴る。
その高鳴りを自覚するのと同時に、
無意識にセドリックの手を握っていたことに気づく。
そして、セドリックを改めて見つめ直し、
幸せいっぱいの満面の笑みで大きくうなづいた。
それを見ていた国王陛下とエドワードは
滝のような涙を流しながら、
顔を見合わせ、うんうんと
うなづきあっていた。
2人を祝福するかのように
部屋に光が差し込んだ。
「あっ!そうだ」
セドリックがおもむろに国王陛下とエドワードを見た。
「昨日、料理の祭典を行ったそうじゃないか!
そこでティアナのおにぎりに手をつけなかったそうだね!!」
2人はキョトンとした。
「はて?料理の祭典??」
ティアナは持参したおにぎりをテーブルに並べた。
ティアナとセドリックが声を合わせて
「さぁ、召し上がれ!!」
自信たっぷりに両手を広げておにぎりを勧める2人は
もはや料理の祭典の優勝者の顔だった。
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