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無双xロジスティクス ~落ちこぼれ部隊?いいえ、最強実践部隊です~  作者: テンチョウ
第四章 ~帰結の門、進発の扉~

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第99話 胴州の攻防

「ほら。食事だ」

 居攸(キョユウ)は言って椀を渡す。

「いつもすみません」

 兵士は受け取りながら頭を下げ、謝意を示した。

 居攸は軽く頷くと、また別の兵にも同じように椀を渡す。更にはその隣の者に、そのまた隣にも、声を掛けつつ椀を渡していった。



 居攸は今、籠城戦の()直中(ただなか)である後越の首都、胴州(ドウシュウ)にいる。

 彼は鍾棋(ショウキ)将軍と作戦を打ち合わせたのち、危険を承知で、再び胴州を訪れた。

 名目は呂国からの目付役という立場で、後越と呂、二ヵ国の調整や将軍の相談相手として滞在する、といった感じのものだった。

 事実それは与えられた任務であったが、居攸にとって、さして重要ではなかった。



「また見ているのですか?」

「ええ──」

「前に出ると危ないですよ」

「はい──」

 近くの兵が声を掛けてくるが、居攸はどこか(うわ)の空だ。

 兵士にとっても、それはいつものことなので、それ以上は拘らない。



 胴州の城壁、その眼下に布陣する五千の謳国軍。

 居攸が眺めるものはそれだ。

 敵軍は輪番で攻め立ててくるが、その交代のためか、ときおり(しば)しの空白が生じていた。彼は、それを見計らって城郭に登り、下方の景色に目をやった。

 食事を運んだり、水を配ったり。

 居攸は進んでそれをやっていたが、それは全て前述の理由づくりでしかない。


 何故そこまでに、居攸はそれを見たがるのか?


 居攸は確信している。

──ここで歴史が動く!


 北部最大の国、謳。その威勢は天下一である。

 過去には西の湯国、東の文国との二正面作戦でも互角の戦いを演じていた。

 仮に謳の南側が、守りと(から)め手を得意とする馗国でなかったならば、(たちま)ちに併呑(へいどん)され、そこから四方の国々も同じく飲み込まれ、世界は今とは全く別の姿になっていたであろう。

 まさに最強の軍事国家といえるのが謳国だ。


──それが打ち破られる。

──属国として(しいた)げてきた小国にだ!

「ハハッ・・」

 居攸は想像に思わず笑いがもれる。

 ありきたりで、単純な筋書きだが、小さいものが大きなものを倒すのは実に小気味がよい。ましてそれが、歴史的出来事として眼下で起きるというのであれば尚更だ。

「フフッ・・」

 事が成ったとき、世界はどう動くであろうか。

──謳でも乱が起きるか、属国たちが離反するか、文国あたりが横に伸びるか・・

 ひょっとしたら、何も変わらないかも知れない。

──それもまた良し。

 結果が大きな事に越したことはないが、元より多くを望まぬのが居攸である。

 既に、歴史に残るであろう動きの渦中。それで彼の半分は満足した。

 残りはシンプルな勝利だけだ。



「もう始まります」

 兵が言う。

「ああ──、戻ります」

 居攸も変に我を通したりしない。戦場では自分が役立たずだとわかっている。

──掃除でもしておくか。

 幸か不幸か雑用は多い。

 居攸が時間を潰すには丁度良く、次の景色を見るのを楽しみに彼はそれらを(こな)した。


 不思議なことに、斯様(かよう)な居攸の振る舞いは兵達に真摯(しんし)な姿として映った。

「あの人、よく働くな~」

「だな──」

 居攸は知らぬ間に、後越軍の士気を維持するのに、ひそかに貢献していた。





 日が沈み、本日の戦いが終わろうとしているときだった。

 北方より駆け来た早馬が謳国軍に衝撃を与えた。



「まこと、後越軍に相違ないのか?」

「間違いありません。軍装は確かに後越のものでした。また、華の紋章旗があり、後越王華漢が率いていると思われます」

 将軍の問いに、激走を続けてきた者は、思いのほかしっかりとした声で答えた。

 というのも──。

 走者は自力では歩けぬほどに疲弊しており、本来は直立を以てするところであったが、椅子に座らせられた上に、後ろから体を支えてもらう格好での報告だったのだ。

 身体の困憊(こんぱい)とは裏腹に頭の方は冴えている様が、偽らざる姿に見え、話を聞いた一同は彼の言葉を信用した。こういった心身の乖離(かいり)は、しばしば極限の者にあらわれると軍人たちは知っていて、それがより現実感を持たせた結果だ。



「千の軍勢であれば、中佐も無事では済むまい」

「華漢が討ちに来たのは明白なのだから、時間を稼ぐつもりだろう。そのための早馬だ」

「しかし呂軍を止める者がいません」

「ああ。遊撃隊だけでは厳しい」

「では足止めに人数を()きますか」

「いや、目の前の敵に集中するべきだ。敵が半分なら多少強引でも通じる」

「だとしても、呂軍が到着する前に落とすのはギリギリです」

「そうなると二正面で不利になり、もたもたしてると華漢まで来るぞ」

 将軍、佐官たちは、この事態にそれぞれ意見を出し合う。

 彼らも自分たちが何をすべきかはわかっている。

 胴州を落としてしまえば、敵が何処に何人いようと勝ちだと理解している。

 さはさりながら、軍人たちの心頭に浮かぶのは──。


──流れが悪い。


 対後越の戦いが始まって以来、謳軍は常に後手である。

 早い話、いいようにやられっぱなしだ。

 よくない負の循環が起きていて、今後良くなる見通しが立たない。そんな風に考えてしまう。


 それはどこか厭戦(えんせん)の匂いに似ていた。


 そこに──。

「やめよ」

 (よど)んだ臭気を浄化する、喬太后の声。

 一同は彼女の言葉通り発言を止め、体の向きを正面に戻した。

「確認する。勝利を収めるには胴州を落とす。これに誤りはあるか?」

「ございません」

 喬太后に視線を送られた者が答える。

「後越王華漢を討つ、もしくは捕らえるのどうか?」

「華漢はこれまで潜伏していました。また身を隠されれば難しいかと」

「呂、または華漢の軍が来るまでの時間はいかほどか」

「どちらも二日、急ぎに急いでも一日半は掛かると思われます」

 ここまで問答をしてから、喬太后は目を閉じ黙考に入った。


 幕舎の中は静まりかえり、将軍たちは、外の兵士たちの立てる物音が気になるほどだった。


「近衛を出します」

 喬太后の言葉にどよめきが起きる。

「陛下の周りを固める数十を残し、それ以外を城攻めに使います。この場合、敵の陥落は如何ほどになるか?」

 彼女は続けて問うた。

「一日あれば事足りるかと」

「明日からか」

然様(さよう)にございます」

 その言に喬太后は首を振り。

「遅い!」

 やや怒気のこもった声で言った。

「これまでの後越の対応を(かんが)みなさい。敵はこちらの予測を超えてくると考えるべきところ。一日という目処は正確か。一日半という予断に油断はないか。本当に、悠長に次の日を待つ余裕はあるか?」

 これには将軍たちも返答に窮した。

 喬太后の言う予測を超えるは、ありのままの現実で、自分たちの見立てが正しいとは世辞にも言えない。

 一同に再び沈黙の時間が訪れた。


 喬太后は一度呼吸をし直すと。

「今より、夜を徹して攻めよ。そして明日の朝──、遅くとも昼までに決着を付けなさい。それが成らぬならば撤退とする」

 そのように言った。

「御意」

 将軍は返し、すぐさま攻撃の差配を始めた。



 にわかに騒がしくなった謳軍のそれは、城の後越軍にも届いた。

 両軍の兵達は、長い夜になる事を悟った。

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