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無双xロジスティクス ~落ちこぼれ部隊?いいえ、最強実践部隊です~  作者: テンチョウ
第四章 ~帰結の門、進発の扉~

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第97話 乱戦の申し子

 中佐の軍は大きく押し込まれていた。

 堅い守りの構えだったが、相手の兵力は千、数の差が如実に出た結果だ。

「呼延吹様、呂軍ではありません。後越軍です!」

 近侍が言う。

──どういう事か?

 思ったが。

「なんでもよい。このまま側面を突き敵を分断します。続けて二手に分かれて頭の方を波状で責める」

 呼延吹は委細は無視し、下知を出す。

 敵がなんぴとであろうと戦う事に変わりない。

「気合いを入れろ!」

「はっ!」

 皆が短く返事をしたが、呼延吹とて千の軍に挑むのは始めてである。その言葉は、自らの憂色を打ち消す意図があった。


 距離が縮まり、後越軍も気付いて迎撃態勢をとるが──。

 時を同じくして中佐の軍の前衛が崩れ、敵はその分押し込んだため、大軍の重心は僅かに傾いた。

 それを見逃す呼延吹ではない。

──ここだ!

 呼延吹を先頭に、遊撃隊の騎馬が突撃する。

 それは文字通り肯綮(こうけい)(あた)る攻撃で、骨肉を分かつが如く大軍を断ち割った。

 騎馬隊は即座に反転すると、ややタイミングをずらした二隊による進撃を放った。それにより中佐の軍は敵の攻撃より逃れ、体勢を立て直した。

 そこに遊撃隊の歩兵が追いつき、騎馬の衝撃から立ち直りきれない後越軍に猛攻する。


 たった百の歩兵──。

 されどそれは呼延吹と于鏡が鍛えに鍛えた精兵である。

 もとより謳国軍の中でも一二を争う部隊であったが、馗国の精鋭や顔家軍との戦いを経て、その実力は謳国最強と言って過言でないものになっていた。

 後越軍の抵抗は空しいほどに通ぜず、歩兵たちは敵を次々に撃殺した。


 呼延吹以下、遊撃隊の者はその姿に、ありし日の強敵を想起した。


 一種の暗示かも知れない。

 自分たちを強豪と(なぞら)えたことで、呼延吹たちの気炎は極めて高まった。

 斯様な熱は中佐の軍まで伝播し、彼らは戦意を取り戻した。


 再度、騎馬隊が波状の構えを見せると、後越も同じく騎馬でそれを阻止しようとしてくる。

 呼延吹は自分と親衛隊を含む十騎で別れて、敵騎馬に正面から行く。

 敵も理解している──。

 呼延吹が倒すべき指揮官であり、この勢いの中心となっている事を。

 両隊が()ち合う。



〔 龍吟轟返(リュウギンゴウヘン) 〕



 鉤鎌槍が疾く伸び、防御をかすめ、瞬時に引き戻された鎌刃が敵を屠る。

 知り得ていても(なお)、対処に難儀する二段攻撃。

 初見、まして何も知らざれば、呼延吹を止められる者など存在しないと思われる連撃だ。

 ならばとスキルで応じれば──。



〔 虎嘯風逆(コショウフウギャク) 〕



 最早、回避不可と言うべきカウンターの餌食となる。


 呼延吹の武勇は味方を鼓舞し、敵に(おそれ)を抱かせ逡巡(しゅんじゅん)させた。

 息を吹き返した中佐の軍も敵を押し始め、衆寡(しゅうか)の圧力の差は完全に消えた。五百と有余の謳軍が、千の後越軍を圧倒している。

 事実が味方を更に掻き立て、敵をより一層に萎縮させる。

──この循環は止められない。

 呼延吹は勝ちの流れを掴んだとみた。

「ここで、とどめを刺す!」

 言うや否や、騎馬隊は三つに分かれ疾駆する。

 目指すは華の紋章旗。

 そこにいるのは後越の君主、華漢に違いないだろう。

 敵も座視しない。

 呼延吹たちの進路を阻むように兵が集まるが、騎馬隊は時間差をつけた三連の猛襲で突破する。

 華漢が見えた。

「ハァッ!!」

 呼延吹が気迫を込めて攻め掛かる。

 が、それを華漢の側近二人が身を挺して守る。

──問題ない。

 あとに続くは、分かれた別の騎馬たち。

 もう彼らを止める者はいない──。


 いなかった。


 後越には──。



〔 脱兎捉爪 〕



 一騎、飛ぶように現れた騎兵が、華漢を討たんとしていた味方を突き殺した。

 すぐさま後続の騎馬たちが、それを落としに行くも、電光石火の槍術によって立て続けに返り討ちにあう。その槍は達人の領域にあり、敵わぬと悟った者は手を出すことを控えた。

 結果、それ以上の犠牲は出ず、騎兵も追われることなく駆け去った。

 騎兵の軍装には覚えがある。

──馗国軍。

 この場に()いて、それは(すなわ)ち。

「あの部隊か」

 言ったが、この期に及んでは、どうでもいい。

──今やるべきは華漢を討つこと。

 呼延吹は再び彼に迫らんとしていた。


 だがその時、背後から自身に向けられる強烈な殺気を感じ取った。

 呼延吹が振り返ったとき──。

「ぐあぁ」

 親衛隊の一人が後ろから来た別の騎兵に討たれた。

 その異分子は呼延吹たちの馬群に途中から合流するように入り込んでいた。

 他の隊員がそれに対処しようとするが、騎兵は時間を与えず一人を突き刺し、また一人の攻撃を受け流してから槍を回して落馬させた。

 とたん騎兵は離脱するように横に逸れた。

 後尾の数騎がそれを追って隊列から離れたが、逃げ足は名馬のそれで、かつ中佐と後越の兵達が激しくぶつかり合っている渦中に飛び込んでいったため、追跡は及ばなかった。

──双剣の百鈴!

 間違いなかった。

 何度も夢で戦った相手だ。見紛(みまが)うわけがない。

 一瞬、待てと思わんではなかったが、背中を取られた状態では不利すぎて、そこから脱却できた安堵の方が大きかった。

──いや、何故逃げた?

 あのまま強引に呼延吹に迫る判断もありえたはずだ。

 疑義の答えはすぐ判明した。

「しまった・・」

 呼延吹が意識を前に戻したとき、華漢の姿は消えていた。





「ここまで精強とは──」

 華漢は続く言葉を飲み込んだ。

──大将が泣き言を吐いてどうする。


 勝てると踏んで、倒すために仕掛けたはずが、横から来た騎馬隊にいいようにやられた。

 新手は寡兵であったが、非常に強く、相次いで敵の攻撃が決まったのもあって、後越軍の士気は大きく下降した。

 後越軍は崩壊寸前で、華漢自身も騎馬隊の餌食になりかけたが。

「二頭の獣に救われたな」

 馗国輜重隊、袁勝の部下のことだ。

 威風ある佳兵(かへい)を体現した者と、兵者凶器(へいはきょうき)()でいく者。強者だと察していたが、単騎で戦場を駆け抜けるさまは華漢の想像を遙かに超えていた。

「助けるつもりが──」

 言いかけて、前にもこんな風なことをと、ぼんやり思った。


 側近たちに誘導される形で、華漢は分断されていた後軍の一団と合流した。

 こちらは謳軍とぶつかっていた前衛の一団に比べて、まだ被害は軽微であり、戦いようはあると思えた。

「やはり性に合わん」

 華漢は、代われと言って馬を下り、馬を失っていた側近を騎乗させた。

「全体の動きは任せる。俺は前に出なきゃ、どうにも調子が出ないからな」

 混乱の最中(さなか)、明るく声にした。

 異を唱える者はいない。

 これが血気なる者、華漢だと知っているからだ。

「承知だろうが、馬は近づくなよ」

「わかっています」

 華漢は頷くと。

「あとは頼んだ!」

 ちょっとそこまで用事を済ませに行くような感じで言って、歩兵たちと供に敵に向かった。





──何処にいる・・

 思ったが、それが誰に対してなのか、呼延吹自身も判然としない。

 遊撃隊の騎馬たちは彼女の指揮の下、縦横無尽に駆けて後越軍を翻弄し、歩兵たちは乱れたところに噛み付き敵を(むくろ)へと変えている。

 謳国軍に支配されつつある戦場で気掛かりがあるとすれば、逃した後越の君主華漢と、例の馗国の部隊の存在だ。

「何処か・・」

「いました! 敵歩兵の先頭にいます!」

 無意識に出た言葉だったが、それを拾うように味方が言った。

「ん!? どっちか?」

 華漢のことか馗国か、呼延吹に判別できなかったのは、指し示された方向を見ても、それらしき影を見つけられなかったからだ。

「騎乗していません。(かち)として戦っています」

 補足により彼女も標的を捉えた。

──馬を失ったか?

──だとしても誰かが譲らぬものだろうか?

 (いぶか)しむ点はあったが。

「あれを討って終わらせる!!」

 その一声で騎馬隊は進路を定めた。



「私が最初に行く。仕留めるつもりだが、二撃目で確実に落とせ」

「はい!」

 それで騎馬隊は二手に分かれた。

 今の勢いがあれば、今度の波状攻撃は防ぎきれない。

 ましてや華漢には馬がない。馬脚の奔逸(ほんいつ)をもって回避することは叶わぬ。終止符の予測は呼延吹ならずとも到達しうるものだった。


「ハァァァ!!!」

 後越軍の注意が集まる程の気合いを放ちながら呼延吹は迫る。

 彼女の目途は華漢だ。

 華漢も呼延吹を見定めた。逃げるつもりはないらしい。

──いと究竟(くっきょう)な・・

 ここに至って諦めない目をしている。

 呼延吹の心に惜別(せきべつ)に似たものが湧いたが、それを汲み取るほど愚かではない。

──討ち果たす!

 殺意を顕現させた。


 しかし──。



〔 号気花断 〕



「おのおの方!!!!!!」


 霹靂(へきれき)の如き励声(れいせい)が戦場の時を止めた。


──なっ!?

 呼延吹は落馬せぬようにするので精一杯だった。

 華漢が発した大喝が馬を驚かせたのだ。


「後越王華漢ここにあり!!!!!!」


「この首討って手柄とされよ!!!!!!」


 続く大音声も轟然と響き、馬たちは脅え、にわかに騎馬隊は混乱した。



 この蛮声こそ華漢のスキルである。

 花をも散らす叫びは、敵を萎縮させ味方を鼓舞するが、同時に目立つことで的になる虞を持っていた。

 自らを囮にする、その姿に、かつての人は彼のことを血気ある者と呼んだ。

 それを真に知るものは、戦場を同じくした者だけだっただろう。


 しかしながら経験は知識として次代に受け継がれる。

 敵として対峙した事を、親より教え聞かされた人間もいる。

 例示すれば、今このタイミングで、混乱する騎馬に駆け迫る者たち──。


 袁勝率いる第三輜重隊だ。




 猛然と迫り来る一団、その中で呼延吹が強く意識する者。

 韜晦(とうかい)という概念など知ったことではないと言わんばかりに敵愾心(てきがいしん)を垂れ流す女、百鈴。

──私を討ちに来たか。

「体勢を立て直せ、このまま迎え撃つ!」

 騎馬隊もなんとか混乱を沈めたが、万全ではない。

 然りとて相手も待ちはしない。

 時を見計らったように攻め寄せて来ているのだ。

「ハッ!」

 呼延吹は馬腹を蹴って敵を迎撃する。

 第三隊と騎馬隊、二隊が正面からぶつかる。呼延吹が相対(あいたい)するのは百鈴だ。

──本懐は同じ!

 牙をむくのはお互い様だ。



〔 虎嘯風逆 〕



 百鈴の鋭い突き出しにカウンターをあわせるが。

──違う。

 鉤鎌槍はただ相手の攻撃を()なすにとどまる。

 呼延吹は不意を突かれた状況と、百鈴の殺気に(ほだ)され、読み違えたのを自覚した。

 刹那、すれ違う二人の視線が交差した。

──これが百鈴。

 知っているが、知らなかった、強敵の顔だ。

 自分と同じくらいか、幾分か若いかも知れない。そのような思考がよぎるも、すぐに意識の外へ追いやられる。

 敵は百鈴だけではない。

 精鋭部隊の歩兵が(きびす)を接して繰り出している槍を打ち払いながら、呼延吹は大きく回避する。彼女は、それで事なきを得たが、後続する味方の騎馬は次々に落とされた。

「おのれ・・」

──逃げるべきだったか。

──いや、どのみちか。

 いずれにせよ犠牲は出ただろう。ならば、すぐに反攻の体勢をとれる現状を最善とみなす。

 呼延吹の騎馬隊は、素早く集まり、百鈴たちの背後を突くべく速度を上げた。

 そこに──。

 後越軍が騎馬隊の進路を遮るように立ちはだかる。

「突破する!」

 呼延吹の言が、とりもなおさず結果である。ここまでの戦いで、騎馬隊の者はそのように認識していた。

 だがしかし。

 敵軍は堅固な壁のようにびくともしない。

 それどころか、騎馬隊を圧殺しようと攻め掛けてきた。

 これにはたまらず。

「距離を取れ!」

 呼延吹も逃げを選択せざるを得なかった。




 ありていに言えば戦場の流れが変わっていた。

 華漢の大喝、騎馬の混乱、そこからの第三輜重隊による攻撃と撃破。拍子に掛かって続けざまに起きた出来事に、後越の兵達はその心胆を取り戻した。

 たったそれだけ──。

 言い換えれば気の持ちようでしかなかったが、兵達の間で互いに伝播し、大きな意気へと変様したそれは勝機をたぐり寄せる力を生んだ。


 しかしながら、これは俯瞰(ふかん)の見解である。

 謳軍、後越、呼延吹、第三隊が入り乱れた戦場に、その理解に届いた者が何人いただろうか。


 中佐率いる謳国軍は、はたと攻撃が通じなくなったことを受け入れられず、守りを捨てて、強引に相手を鏖殺(おうさつ)せんとばかりに攻め立てた。無理攻めであるが、その自覚は彼らにはなかった。

 後越軍は押し込まれながらも、それを逆用。数に物を言わせ謳軍を囲い込んで返り討ちにした。

 防御が薄くなれば、待っていましたとばかりに第三隊が突撃。懐に入って徹底的に暴れまくり、中佐の軍は乱れに乱れた。

 間、髪を入れず華漢たちが果敢に切り込み、中佐の軍は完全に崩壊した。





 俄然(がぜん)、息を吹き返したばかりでなく、中佐の軍を潰走させた後越軍。

 途中までは圧倒していただけに、この急展開は、呼延吹以下遊撃隊としては痛恨であった。

 されど今は悔やんでいるときではない。

 そもそも遊撃隊は中佐を止めるという名目で、彼らを救出に来たのだ。この上、中佐たちまで討たれるわけにはいかない。


 逃げる軍勢の中に、統制をもって動く集団。旗などはないが中佐がいるとみられた。

 呼延吹は頭を切り換え、彼らの逃走を援護することに徹した。

 近づく後越の兵に騎馬を(けしか)け、その頭を砕く。

 それで彼らの追撃は足を止めたが──、止まらぬ一団もいる。



──またも。

 呼延吹たちの因縁の相手、第三輜重隊だ。

「歩兵は中佐の軍に付け。騎馬は横槍を入れる!」

 言って呼延吹は馬を走らせる。

「三段に分かれる。左右から挟んだところを叩く!!」

 すばやく指示し、騎馬隊たちは三つになった。


 闘気を感じ取ったか、第三隊は向きを呼延吹たちに変えた。

「今度こそ倒す!」

 心の声のつもりが口をついて出ていた。

 敵は前進しつつも左右に対処する受けの構えを取った。

 そこに一段目、続けて二段目の騎馬の突撃が加わり、隊形は崩れた。

「好機!」

 呼延吹が更に加速する。

 眼前に迫るは双剣の百鈴。

 両者が搗ち合う、ほんの寸前、百鈴が槍を短く持ち替える。

──それだけではない!

 呼延吹は、百鈴が左で、剣に手を掛けたのを見逃さなかった。同時に肌に突き刺さるような鋭い殺意を感じながら、彼女は想起する──。


 最初に相見(あいまみ)えた一戦を。


──すれ違いざまの抜剣からが本命!

──ならば、その前に掻き切る!!



〔 龍吟轟返 〕



 勁疾(けいしつ)なる突きが百鈴を襲う。

 彼女は短く持った槍を絶妙に操り、その威力を後方へと往なす。

──見事!

──だが!!!

 呼延吹の鉤鎌槍は一転、逆風となって溯る。

 (かえ)しの刃が百鈴の首を刈り取りにいった、そのとき──。



 ガッ──。



──!?

 鎌刃は何かに阻まれた。


 そのまま、再びすれ違う呼延吹と百鈴。

 百鈴は、剣を鞘ごと背中に持っていっていた。鉤鎌槍の引き斬りはそれによって止められたのだ。

──知っていたのか!?

──だとしても!

──こうも・・

 呼延吹が渇望のすえ得た力は、あっさりと退けられた。


 彼女は視線を送ったが、相手はもう、自分の方を見ていなかった。

 その瞬刻の世界が、呼延吹には酷く遅く思えた。


 が、現実は速い。

「ぐはッ」

 呼延吹のすぐ後ろにいた者が百鈴に討たれる。その隙に彼女を突かんとした者には、逆手の抜剣から相殺し、すかさず刺し殺す百鈴。そこから(いとま)を与えず、彼女と接触した者は皆、命を落とした。

 呼延吹は味方に気を取られた。そこに雷神の槍が来る。

 もう一人の強敵、かつて于鏡の肩を穿った女。

「呼延吹様ぁ!」

 親衛隊の者が馬をぶつけるように身を挺して割って入り、次の瞬間には絶命した。彼は呼延吹のことを命を賭して守るため近侍する最後の者だった。


 束の間、呼延吹の周りには誰もいなくなった。


 そこにすっと駆け来る一騎。

──近い!?

 気付くのが遅れた。

 百鈴や雷神に比べれば無色ほどの気配しかない男。かの部隊の指揮官が今、目前にいる。

──反撃を・・いや、ちがう!

 呼延吹は相手を攻め倒すと決めた。

 そこには集団スキルの使用者を始末するという意図もあったかも知れない。

「ハァァァ!」

 鉤鎌槍の迅速なる突き。


 ギンッ!


 指揮官は剣を大きく斬り上げ、鉤鎌槍は跳ね上げられた。

 互いに攻撃態勢を崩し勝負は持ち越された──。そう呼延吹は思ったが、相手は勢いのまま剣を一回転させるようにし、強引に二の太刀を放った。

「くっ!」

 呼延吹は鉤鎌槍の柄を引き付けて防御したが、勢いを殺しきれず馬から落ちた。

「がぁ!!」

 咄嗟に受け身はとったが衝撃は尋常ではない。

 骨身が悲鳴をあげ、存在しない味か匂いを感じるほど神経は混乱している。

 呼延吹は動けないことを悟った。





 袁勝との攻防で騎馬の女は落馬した。

 そこに第三隊の隊員が近づこうとしたとき、逃げていたはずの謳国軍が引き返し反攻の体勢を取った。

 第三輜重隊は疾く集まり密集形態で突撃、一撃で敵を粉砕した。

 しかしその間に呼延の軍によって彼女は回収された。

 第三隊は尚も追撃の構えを見せたが、呼延の歩兵が立ちはだかり、袁勝もそれに対して動こうとはしなかったので、両者の距離はじわじわと開き、戦闘は静かに幕を下ろした。



 対峙が終わったあと──。

「どうかされましたか?」

 馬豹がいつになく心配そうに袁勝に聞いていた。


 百鈴は、敵の歩兵に強そうなのがいたから、警戒して深追いはしなかったと思っていた。

 だが馬豹は、袁勝に何か問題が生じたと考えたようだ。



「弟がいた」

 袁勝はじっと敵の去った方を見ていた。

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