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無双xロジスティクス ~落ちこぼれ部隊?いいえ、最強実践部隊です~  作者: テンチョウ
第四章 ~帰結の門、進発の扉~

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第92話 肚を据える

 段昂(ダンコウ)なる謳軍の諜報員より情報が来た。

 それによると──。

 今現在、呂国にて諜報活動を行っている者は彼一人で、他は後越国と馗国の関係、湯国経由で運ばれたと思われる兵糧の詳細を調べるため、後越以南にいるのだという。


「単独行動を許されるほどの者が・・」

 潘会(ハンカイ)は──。

 続く、こうも簡単に籠絡されるとは──、を口にする事を控えた。

 泡易(ホウエキ)の魔性は、潘会自身も知るところである。羞恥や屈辱の共感に似た、名状しがたい気持ちが、彼に言葉を飲み込ませた。


「なんにせよ、呂は謳軍の視野の外側にいるという事だ」

 潘会は思考を戻す。

 ひとつ懸念することがあるとすれば、段昂が二重諜報を行っている可能性だ。もっとも、今のところ、それらしき結果も兆候もない。

 呂の森に埋伏している後越軍など、丁度いい情報だが、()れた気配はない。

「だが、油断は禁物だ」

 潘会は段昂でさえ気付かぬよう、(ひそ)やかに影の如く動くことを決めた。





「兵が少ないように見えますが、何かありましたか?」

「敵の輜重を発見したので、それで百名ほど出ているところです」

 于鏡の問いに、担当者で、この軍の副官でもある男は答えた。


 于鏡は呂軍を警戒する軍と呼延吹軍、二つが上手く連携できるように事前の打ち合わせに来ていた。

 彼が陣に到着し幕舎に案内されるまでの間、ざっと観察して気になったので尋ねたのだ。


「敵は馗国軍の可能性があるはず。彼らの輜重隊が精強なのはご存じでしょう。百では少なすぎます」

 于鏡は危機感を呈して言葉にした。

御尤(ごもっと)も──。それが発見した部隊は連絡にあった百名規模ではなく、四十人程だったようで、こちらも騎兵を二十入れた編制で出しました。(ゆえ)に数としては問題ないかと──。また、一人二人を捕らえれば良いという指示でしたので、過度なぶつかり合いには発展しないとみております」

 副官の男は、于鏡の心を(なだ)めるように穏やかに語った。

 物腰の柔らかさから、他の部隊との、この手のやり取りは熟練なのかも知れないとの想像をさそった。


──ならば、問題ないとするか・・

 そもそも、役割としたら遊撃隊である呼延吹軍に任せてよい話であり、手柄欲しさに先走った感が否めない案件である。しかし、これから連携しようというのに、枝葉をつついて関係性を悪くしたくないという思いも、于鏡にはあった。


 斯様(かよう)にして于鏡が一定の納得と妥協を持ったとき、にわかに外が騒がしくなった。

「おや、なんでしょう?」

 副官はスタスタと幕舎の外に向かう。

 これを切っ掛けに、一旦話を終わらせようという意図かも知れない。

 于鏡も彼にあわせて外に出てみる。



 そこにいたのは敗走してきた兵達であった。

「な、何があった!?」

 副官の男は駆け寄って兵に問う。

「隊長がやられました──。騎兵は全滅──、歩兵は十九死亡、負傷は多数です──」

 応じた者も浅いが複数の傷を受けていた。

「敵の数は? 多かったのか?」

「いえ──、数は四十程──、情報に間違いはありません。ただ、異常に強く──、為す(すべ)なく蹴散らされました」

「馬鹿な・・」

 副官は兵の言葉を受け入れられずに困惑していた。


「すまん、私は遊撃隊の者だ。確認したいのだが、その部隊は輜重隊で間違いないのだな?」

「はい、確かに荷車を引いておりました」

 于鏡に兵が返す。

「敵に騎馬がいたと思うが、覚えていることはあるか?」

「はい──。指揮官と他二騎、二騎は女で、それも異常な強さで──、逃げる味方の騎兵もあっという間に討たれました」

「わかった。御苦労」

 兵をねぎらうと于鏡は副官の方を向き。

「件の輜重隊については、我等、遊撃隊が受け持つ」

 異議を認めぬ目で言った。





 鍾棋(ショウキ)は感心をもって敵陣を眺めていた。

 彼から見て、胴州(ドウシュウ)を囲んでからの謳軍の動きは完璧に近いものだった。

 鍾棋は知らぬが、知らずとも、これが喬太后の采配と理解した。


 生粋の軍人であり、長らく隠棲していた鍾棋には要人の評など縁遠いことであった。彼がそれに触れたのは、呂国から来た居攸(キョユウ)という男の語りからだ。

 かの男は各国の情勢から為政者の実績、人となり、関係する出来事についてよく知っていた。

 見てきたわけではないのだから、それは仄聞(そくぶん)でしかないはずだ。

 しかしながら、独自の取捨選択があるのか。

 話を聞く限り、正しく記録された歴史書のような整合性を感じさせるもので、事実に届いている印象を受けた。

 無論そこには、居攸が能弁家であった事もあるだろう。


 ともあれ、鍾棋が持つに至った喬太后という人物像をひと言で表せば・・

──適宜の人。

 包囲から兵糧攻めではなく、即、攻城を選択する判断。

 それはひょっとしたら誰かの献策かも知れないが、以て是とする意思決定力は、喬太后その人に違いないと鍾棋は思った。


「であればこそ、間隙が生じる」

 盤上の勝負であれば最善手を指せば勝ちであろうが、実際は複雑だ。時として最善が、(あやま)った結果を招くこともある。

 ましてや、その最善が予測されているならば・・


 ワァッ──。

 喊声(かんせい)と共に謳軍の攻撃が再開された。


「さて──、その為にはしっかり守らねばならんな。面倒な事だ」

 のんびりとした口調だったが、後越軍は苦闘を強いられていた。

 謳軍は近衛を除く四千が輪番で攻め掛けてくる。

 対する後越の城に残るは千三百、数の不利は敵の想定などより(はなは)だしいのだ。

 しかしそれを悟らせるわけにはいかない。二千三百の兵による奮闘と思わせる。

 そして程良く疲れを見せたとき・・


「最善の一手を打ってくる──、それまでの辛抱だな」

 鍾棋は溜息が出るのを打ち消すように言葉を放った。

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