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無双xロジスティクス ~落ちこぼれ部隊?いいえ、最強実践部隊です~  作者: テンチョウ
第四章 ~帰結の門、進発の扉~

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第90話 第二陣

 六千の謳国軍は後越に向けて出発した。

 その内の千は国王、呼延鼓(コエンコ)(キョウ)太后を守る近衛兵で構成されており、まさしく親征の軍であった。

 また独立遊撃隊という位置付けだったが、王の姉、呼延吹の軍が参加していることも、謳国をあげての進軍であると印象付ける働きをした。

 この事から、かの華漢(カカン)をしても神妙せずにはいられまい、との観測がなされた。

 果たして、後越軍は動かず、六千の大軍は歩みを止める事なく、後越の王城たる首都胴州(ドウシュウ)に迫らんとしていた。




「このまま行くと攻城戦ということでしょうか?」

「はい。想定通りというわけです」

 呼延吹の問いに答える于鏡。

「そうなると私達に出来ることはありませんね、やはり」

「はい。ですが、陛下を守護するという役目は果たせます」

「それは勿論です」



 呼延吹率いる五百は野戦で勝つことを目的にした軍であったから、城攻めの訓練などしておらず、元より考えてもいない。

 それは呼延吹や、軍を組織した呼延枹(コエンホウ)の性格によるところが大きい。加えて、その理念は馗国を攻める事にあり、かの国は経済活動を優先するため籠城戦には消極的なもの関係していた。



「兵糧が運び込まれたという話がありましたが、特佐殿はどう考えますか?」

「未だ確認は取れておりませんが、情報通りなら囲んですぐ終わりとはならないでしょう。とは言え、これまで発覚しなかった事を考えますと、報告にあるように百人規模の輸送と見られますから、十分な備蓄には届かないかと」

 後越に湯国側の道を通って輜重が運ばれているという報が入ったのは、此度の軍が動き出す少し前の事であった。

 それは驚きを以て伝わったが、同時に納得でもあった。

 呂と後越が反抗する上で最大の問題が兵糧だったからだ。糧食の確保という算段があっての、派兵拒絶からの独立戦争という筋書きだったのなら、あながち無謀とも言い切れない。

「軍の動きが早かった事が救いですね」

「はい。太后様の慧眼でもありましょう。のんびりと交渉などしていたら、知らぬうちに大量の兵糧を運び込まれる事態にもなったやも知れません」

「どのような展開になると見ていますか?」

「無難に囲んで様子を見るでしょう。相手の備蓄がどれ程かわかりませんが、戦わずして降伏してくれるならそれが最上です。また囲むことで心理的圧迫を強いて、敵兵を疲弊させることも可能かと」

「呂国からの援軍はどうでしょう?」

「ありえます。ただそれには別途、千ほどの兵が警戒に当たるようなので、呂軍総出でもない限り突破される事はないでしょう」

 ここで呼延吹は少し考えるようにしたので。

「何か気になることでも?」

 于鏡は、呼延吹の勝負勘が働いたのかと、発言をいざなった。

「いえ──。話に聞く国王華漢や、鍾棋(ショウキ)将軍にしては、ここまでの道程に何ら仕掛けがないのが少々不気味だと・・」

「確かに、この先に、何かが待っているという気もしてきます。ですが呼延吹様、前回の後ろに伏兵がいると思わせた誘導の例もあります」

 これに呼延吹は、はっとして。

「確かに、このような思考でさえ鍾棋将軍の狙いかも知れません」

 噛みしめるように言った。



 実のところ于鏡としても順調な行軍は、やや(いぶか)しむところがあった。

 幸か不幸か、此方は親征の軍。

 軍事行動とまではゆかずとも、時間稼ぎに講和の使者でも送ってくるかと、于鏡は考えていたのだ。

 斯様な観点からも、後越の動きの無さは、呼延吹の言ったように不気味だった。



 謳国軍は警戒を密にしながらも進み。

 胴州の城下に布陣するまで、(つい)ぞ何人にも阻まれることはなかった。





 潘会(ハンカイ)は、客間に入ってきた男を手ずから出迎えた。

 呂の国王である彼がそこまでする相手。

──何者であろうか。

 事情を知らぬ者は潘会の行いに首を傾げたが、客人を見るに並の位ではない覇気があり、余計な詮索をして王の不興を買ってもと、それ以上考える事をやめた。


 人払いをした潘会は再びの挨拶もそこそこに。

「よもや、華漢殿がお越しになるとは思いも寄りませんでした」

 そう切り出した。

「ハハッ──、今や鍾棋将軍の方が名が通ってますからな。ここいらでいい加減、活躍せねばと思ったまでです」

 冗談のつもりか、明るく笑う華漢に圧倒されながらも。

「いえいえ、血気ある者を知らぬ人物は、この北の地にはおりませんでしょう」

 潘会は世辞を返しつつも、予定にはなかった事態に、自分が動揺したように映ってはいないか、慎重にあいての表情を窺った。



 此度の謳国軍第二陣に対して後越軍は、およそ千の兵を密かに城外に出し、少数に分かれる形で呂国の森に身を潜めた。

 来たるべき謳国軍との戦闘に備えて隠れているわけだが、事前の打ち合わせでは、大佐の位に就いている者が軍を率いる事になっていて、当然、潘会との面談も、その大佐が頭を下げに来るはずだった。

 ところがどういうわけか、後越軍を率いてきたのは国王華漢で、数人の供だけ連れて潘会の所まで挨拶に現れたのだ。

 潘会にとっては寝耳に水であったが、同じく王としての矜恃から、取り乱してなるものかと努めて泰然と迎え入れていた。



「いやはや──、実際のところ用兵に関しては鍾棋将軍に任せればよく、俺としてもやる事がないのです。ならば城にいるより此方に来た方が、仕事があるというのは本当のこと。不測の事態でも動きやすいですからな。ですが──、このように突然の訪問になってしまったこと、今更ながら申し訳ない」

 華漢は言って慇懃(いんぎん)に頭を下げた。

 これには潘会も恐懼(きょうく)し。

「どうぞ頭を上げて下さい。私としましても華漢殿とまみえる事ができて大変光栄であります」

 敬意をもって応じた。



 二人の王の関係は一応対等だが、華漢の方が遙かに年上であり名代(なだい)の君主でもあったから、慣習的に潘会が礼を尽くすのが妥当だった。しかし華漢は気にした風もなく、あっさりと頭を下げる。

 潘会はそんな華漢の姿に、どこか勇敢さに似たものを感じていた。


 そして、その気質に直に触れたことで、潘会の心胆のありようにも変化が生じた。

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