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無双xロジスティクス ~落ちこぼれ部隊?いいえ、最強実践部隊です~  作者: テンチョウ
第四章 ~帰結の門、進発の扉~

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第86話 行ったり来たり

 あの村に戻ってきた。

 百鈴が胡散臭く感じた村だ。

 (もっと)も、何がどうと説明はできないから、軽々(けいけい)に怪しいなどとは言わない。

 行きは休憩と水を得ただけだったが、帰路の今回、第三輜重隊は村で一泊した。

 自分たちで使う分の物資以外は何も所持していないので、荷の心配はそれ程いらなかったが、百鈴は一応の警戒はした。


 一夜明け、いつも通り日の出前の出発となった。

 村人もこの時間は寝ているようだ。


 日が完全に昇りきってから一時間ほど進んだ所で、真後ろから軍勢の気配が近づいてきた。

 左右は森であったが第三隊は隠れる事はせず、平地に荷車を並べ、あえてそれを背にして待ち構える格好をとった。

 軍勢は距離を縮めると、行軍の体勢から戦闘の陣形に移行し、止まった。

 旗印から、以前戦った反乱側だと推測される。

 この時点で、第三輜重隊には戦うという選択しかなかった。いや、そのために復路も同じ道を通って来たと言って過言でない。



 後越(ゴエツ)国から湯国政府側に、第三隊からの反乱軍拠点の情報が伝えられる事になったが、それらが対処されるのを待つ時間はないと考えられた。

 想定よりも謳国軍の動きが早く、既に(いくさ)は始まってしまったのだ。

 今後、新たなルートと、その調査をしている間に、後越と(リョ)の兵糧が尽きてしまう(おそれ)がある。そうなれば、二ヵ国の独立戦争で時間を稼ぐという馗国の戦略も頓挫することになる。

 この事態に後越の王、華漢(カカン)は、袁勝たちにある提案を持ちかけた──。



 敵の数はおそよ四百。大層な数であった。

 前回の敗北から、此方の戦力を十人力と計算したのだろう。そしてそれは、捕らえた兵から聞き出した限りでは、彼らの拠点に残る、ほぼ全ての兵力と思われた。

 背後から来たことに思うところはあるが、今は眼前の敵に集中するときだ。

 互いに睨み合う形だったが、不意に敵の一騎が前に出てきて。

「我等は、臧範(ゾウハン)様に与力(よりき)する、習泰(シュウタイ)大佐の軍である。うぬらは何者か、なにゆえの輜重か、答えよ!」

 大音声(だいおんじょう)を放った。


 百鈴は詳しくはないが、湯国の王族が『臧』を名乗っているのは知っていた。だから、臧範なる人物が反乱の御輿(みこし)なのだろうと想像した。

 また、大佐の軍が四百のはずがないので、傘下であるという看板に違いないと臆断した。


「今更かよ」

 相手の声に誰かが呟いた。

 全くその通りで、第三隊は既に彼らの奇襲を受けているわけだから、名乗るにしても、問うにしても遅すぎる。

──降伏させたいのかも。

 百鈴は思った。

 多数で威圧し、戦わずして捕らえるというのも一つの作戦だろう。

 無論、第三輜重隊に通用するはずもない。

「十分に引き付けたのち、一気に突き破って位置を入れ替える。その後、俺と馬豹で二隊に分かれる。百鈴は俺に付け」

 袁勝が素早く指示を出し、言うや否や、自身の弓に矢を(つが)えて引き絞った。

 その動作に敵の弁士は慌てて反転した。

 しかし袁勝の狙いはそちらではない。彼の弓は強弓ゆえ、普通に引けば時間が掛かり、咄嗟に射るのは難しい。だがその分、威力と射程はあった。


 ケンッ──!


 弦音だけが響いた。

 矢は誰にも当たらなかった。

 外れであるが、敵兵たちは大いにおののいた。

 袁勝の放った矢は、指揮官の脇をかすめ、旗持ちをしている兵のすぐ側に突き刺さったのだ。その一矢は、この距離がもう安全ではないことを十分に示していた。

 これに指揮官は。

「進撃!」

 と、二の矢が放たれる前に肉薄することを決断した。

 指揮官としては味方が射られることは勿論、それによって浮き足立つ事態は避けたかったのだ。


 喊声をあげながら迫り来る敵に、第三輜重隊はゆっくりと動き出す。



〔 窮鼠噛獣 〕



「かかれ!!」

 袁勝の大喝で、隊員たちは一気に速度を上げる。

 小さく固まった第三隊が竹を割るようにして中央から敵軍を貫いた。すぐに反転し、二手に分かれて激しく襲いかかった。

 敵兵の狼狽(ろうばい)(はなは)だしい。

 事前に十人力の精兵だと聞かされていたが、実際に十分の一の数に断ち割られ押し込まれる事態は、彼らの理解を超えており、人ではなく猛獣を相手にしているような感覚を持った。それは本能的な恐怖として彼らの心胆に訴えた。

 ほどなくして逃走をはかる兵が現れ、指揮者たちの声もむなしく、その流れはあっという間に伝播し全軍が戦意を失った。


 第三隊が並べた荷車は、馬が走り抜けるのにも十二分な間隔が空いており、敵兵たちは、その間を通って逃げた。だが、歩兵が殺到したことで必然その隙間は埋まり、騎馬の者達の退路は消えた。

 森に逃げることもできなくないが、騎馬で進むのには不向きである。

 結果、指揮官始め、騎乗の隊長格の退()き口は正面となり、それは即ち、第三輜重隊を突破しなければならないという事だった。

 彼らの多くは(ばら)ける事を選択した。いくら強いといっても人数は少ないのだ、散り散りになった者を追えはしないとの判断だ。

 それは正解で、固まった者らは、隊員たちの槍で容赦なく落とされた。

 それでも、指揮官とその護衛は、(まと)まったまま第三隊の攻撃を巧く(くぐ)り抜けた。


「馬豹、ここは任せる。百鈴は追走だ!」

 袁勝は言って駆け出し、百鈴もそれに続く。

「指揮官だけを狙って他は無視しろ、俺が相手をする!」

 袁勝の下知に百鈴は疾駆した。

 二人の馬の足は名馬のそれであり、逃げる騎馬との距離はすぐに詰まった。

 百鈴は言われた通り、指揮官以外には目もくれず騎兵達を追い抜いていく。

 敵も黙ってそれを許すはずもなく、馬を寄せて百鈴を落としにかかった。



〔 抑梟扶雀 〕



 ケンッ! ケンッ!

 立て続けに袁勝が矢を放ち、百鈴を妨げる者を射殺す。

 この場に於いて最もレベルが低いと思われるのが百鈴だ。彼女を守ろうとすれば自然と〔抑梟扶雀〕の発動条件を満たす。

──(こだ)らず、囚われず、持てる全てを出す。

 かつては自ら封じた忌むべきスキルだったが、もはや袁勝に、そのような感慨はない。

 レベル3にして驍名(ぎょうめい)()せる百鈴の存在は、袁勝の中にあったスキルを使うことへの一種の罪悪感を完全に打ち払った。

 そしてこの組み合わせは敵にとって、これ以上ない脅威であった。

 百鈴に近づく者は(ことごと)く袁勝の強弓の餌食となり、彼女は難無く指揮官に追いついて槍を突き出し、相手は応戦する暇もなく討たれた。




 第三輜重隊は少し休憩を挟んだのち、来た道を戻り、あの村を再訪した。


 敵軍が村を通過して来たことは、ほぼ間違いがなく、事情を聞くという(てい)で主立った者を集めた。

 村長以下の動揺は酷く、彼らはおのずから第三隊の事を反乱側に知らせた事を白状した。

 これに袁勝は、拠点や勢力の情報を確認した上で。

「おそらく、もう連中は残っていない」

 と、拠点が落ちたことを示唆した。


 今回袁勝たちは、敵に発見されやすいように行動し、彼らを(おび)き出したのだ。

 その間に、後越の精鋭が拠点を攻める手筈(てはず)になっていたが、敵が予想よりも多くの戦力を第三隊に向けたため、攻略は容易(たやす)くなったと思われた。


 袁勝の推測はその通りで、馬豹が馬を飛ばして後越軍と連絡を付け、夕刻前には村に帰参したことで明らかになった。


「隊長、敵の拠点に物資が大量にあり、それを運ぶのを手伝ってくれないかと華漢殿より言われました」

「よもや、当人が参戦されたのか?」

「そのようです」

 馬豹の言葉に、袁勝は軽く首を振るようにして。

「湯国の地で後越軍が動くこと自体、危うい話だが、そこに国王がいるとは──。これを報告するのは気が重いな・・」

 言って弱く笑った。

「村の扱いはどうされますか」

「輸送隊が何事もなく通ればそれでいい。村がどちらに(くみ)するかは、極論、馗国にとってはどうでも良いことだ」

「では、その旨を私が言い含めましょう」

「疲れているところ悪いが、まかせる」

 袁勝は馬豹の達弁に期待し、彼女に説得を一任した。



 再び一夜を村で過ごした第三輜重隊は、華漢の要望通り、拠点の物資を運び出すため移動を開始した。

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