表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無双xロジスティクス ~落ちこぼれ部隊?いいえ、最強実践部隊です~  作者: テンチョウ
第四章 ~帰結の門、進発の扉~

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

85/104

第85話 裏方

 後ろ髪を引かれる思いがあったが、段昂(ダンコウ)は男の後を追った。

──二度も見過ごすわけにはいかない。

 諜報部としての矜恃により、彼は本来の役目を全うするに至った。



 泡易(ホウエキ)の屋敷を出入りしていた男は、やはり謳国の軍人で、それも中佐であった。

 地方に勤務しているとはいえ、中佐ともなれば、全軍の情報を(つか)むのもそれほど難しい話ではない。むしろ裁量権の関係で、中央にいる者より調べやすいとも言えた。

──間違いない。この中佐が泡易に情報を流している。

 先の後越での敗戦で情報漏洩の疑いは高く、呂国の関係者と密接な中佐は、その容疑者と見られても仕方のないことであった。

 ()りとて、ただ女と会っていたというだけで、断言するほどの証拠がないのも事実だ。

 それでも、段昂が確信するのは。

──泡易への手土産だ。

 そう考えることで全てを納得できるからだ。


 だが、こんな事を報告しても。

──泡易の微笑を知らぬ者には理解できまい。

 段昂は、誰も得心がいくことはないとも思うのだ。

 だから彼は、泡易に関する部分は伏せて、中佐の行動が疑わしいとだけ連絡することにした。



 段昂からの情報で中佐は査問を受けたようだが、これといった決め手もなかったため、彼が罪に問われることはなかった。

 ただ、一時的に中佐には監視がついて、準軟禁のような状態になった。その所為(せい)だろうか、そのあと監視が解かれても、彼が泡易の屋敷に向かうことはなくなった。


 ともあれ、これで段昂の仕事は一段落となるはずだった。

 証拠こそないものの中佐は疑わしく、十分に手柄といえた。

 しかし、段昂は呂国への潜入、泡易の屋敷を見張ることを続けることにした。

 諜報部は、別段それに異を唱えることはなかった。これまでも、そして今回も、そうであったように、また何かを嗅ぎ付けたのかも知れないと考えたのだ。

 それだけの信頼と実績が、彼にはあった。


 段昂自身も、それに誇りを感じていた。はずだった──。





 周図(シュウト)は馬の買い付けを終えたところで顔沖(ガンチュウ)に声を掛けられ、共に顔家軍の訓練を眺めることになった。

 自分が見たところで、という思いもあるが、顔家当主の誘いを断るわけにもいなかった。

 飄々とした顔沖の意図は推測できないので、周図は元よりそれは考えない。


「私は文官ですから素人目になってしまいますが、以前にも増して気合いの入ったように見受けられます」

「そー思います? 流石、袁家の(ゆう)を取り仕切る周図サン。見るとこ見てるね」

 周図の言葉に、顔沖は(おだ)てで返し。

「ほら、前に呼延の軍にさ、ウチの本隊が結構やられたじゃない」

「あの呼延は、私共の本拠に攻めてきた軍と同じと見られています。手強いので仕方ないことかと」

「あー。今更だけど先代のこと、お悔やみ申し上げる」

「いえ、あの時も馬を送って頂きました。こちらこそ、あらためて御礼申し上げます」

 周図は慇懃に礼をした。



 顔家と袁家は軍閥同士であり、売り手と買い手という関係に加え、昔からそれなりに家同士の付き合いがある間だった。一応、姻戚関係もあったりする。

 以前、袁策が死んだときに、顔沖は袁家軍に馬を送ることで、香典の代わりとしたのだ。



「うん──。でさぁ、やる気が出てくれたのはいいんだけど。一方で、礼国の方では驃騎(ひょうき)兵が割と活躍しちゃってさ、そっちは何て言うか、調子に乗ってるっていうか。早い話、増長気味だったのね」

 顔沖は周図の礼を終わらせるためか、軽く返して、すぐに話を戻した。

「戦捷の者達なら無理からぬ話ではないでしょうか。倨傲(きょごう)の態度では困りますが、ある程度の分別があれば、味方にとって頼もしくもあるかと」

 周図はそう応えた。

 精兵というのは軍内で支柱的存在となり、彼らの自信は周囲に伝播し自然と味方を鼓舞する。直接軍務に(たずさ)わらない周図でも、それくらいの理解はあった。

「それもそうなんだけどさ。ウチの連中のなかで内部格差みたいな、エリート意識というかさ、前から多少あったんだけどね。この前の勝ち負けで、それが悪化した感があったのよ」

 対礼国は勝利、対謳国は敗北、というのが馗国の軍人の共通認識だった。

 顔沖は一呼吸あけて。

「で、先日、調子こいてる驃騎兵のリーダーにお灸を据えてやったの。そしたら、えらく頑張るようになっちゃって、それが気合いの理由ってわけ」

「顔沖殿は、そのお灸のことを聞いて欲しいのでしょうか?」

「へへッ──、まぁ、そーなんだけど。面白いのに話せる相手がいなくてね、周図サンなら、まったくの無関係ってわけでもないからと思ってね」

「それはそれは」

 周図はどういう意味かわからなかったが、生返事だけは避けた。


 顔沖は嬉々として、第三輜重隊との出来事を話した。


「なるほど──。袁勝殿の部隊だから、無関係でないと」

「そうそう。ウチの家宰がね、恥ずかしいから関係ない人には言うなってうるさいから。周図サンならセーフだと思って」

「私としては、家宰の方の苦労に共感いたします」

「あー。周図サンもそっち側なの」

「そっちがどっちか、わかりかねますが、確かに膾炙(かいしゃ)される話とは違うかと」

 周図の言葉に。

「やだ──。周図サン、ウチの家宰と同じこと言ってる」

 顔沖が言うので。

「優秀な方のようですね」

 と、周図は返した。


 これに顔沖は笑ったが、スッと真顔になって。

「それでさ、その袁勝クンの部隊だけど。またヤバそうな任務を押しつけられてるみたいなのよ」

 と、切り出し。

「僕もさ、彼の力は買ってるけどね。国軍が、あんまりにも無茶させる気なら、強引にでも引き抜こうかと思ってんのよ」

 と、続けた。

 顔沖の言は、第三隊が孟国での輸送に従事したこと、そして後越への先遣隊となったことを指したものだ。

 これに周図は考えるようにして。

「袁勝殿は望まないかと思いますが・・」

「だろうね──。でもさ、僕としても()()()()()が安く使われるのは腹立たしいのよ。まぁ、こっちからも釘は刺しておくけどね」

 国軍にという意味だ。

 ちなみに袁勝の母は、顔沖の従妹にあたる。

「そういうわけで周図サンにはさ、もしウチで引きに抜くって事になったら、袁家とややこしくなったりしないように、ネマワシして欲しいんだよね」

 顔沖は言った。

「果たせる(かな)、顔沖殿はつかみ所がないお方ですね。そのような事をお考えになっていたとは・・」

 周図は感心するように言った。

「あー、今ならおまけも二人付いてくるって打算もあるよ。むしろ、発想としては、そっちのが先かな」

 顔沖は申し訳なさそうに言った。

「先程の話にあった、騎兵の方ですか」

「そう。(なび)かないなら、袁勝クンごと取っちゃえってね」

 顔沖はそう言って笑った。




 顔家からの帰り道。

「徹頭徹尾、掴めぬ人だ」

 周図は顔沖とのやり取りを振り返り、独り呟いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ