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無双xロジスティクス ~落ちこぼれ部隊?いいえ、最強実践部隊です~  作者: テンチョウ
第四章 ~帰結の門、進発の扉~

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第78話 馬上の空論?

──俺もどうして読みが甘い。

 袁勝は、事情を知れば百鈴が断ると思った、自分の浅慮を反省した。

 同時に、百鈴の不敵な返答を。

──おもしろい。

 と、思ってしまっている自分にも驚いていた。

 返事を聞いた際の彼の思いも寄らぬという表情は、百鈴に限って向けられたものではなく、袁勝自身の心胆にも及んでいたのだ。



 当初、袁勝から見て百鈴は、刺刺(とげとげ)しい雰囲気を持つ者だった。

 そこには輜重隊に配属となった事への不満と、諦めのような、どこか自暴自棄な部分が垣間見えた。

 しかし、馬豹とよく交わり立ち合いなどもするようになって、棘が程良く抜けた結果。生来のわかり易さが良い方向で作用し、皆の気持ちを(まと)める働きをし出した。

 ひとたび百鈴が気合いを入れれば、それが自然と伝播(でんぱ)し、隊全体が意気を持つような感じになる事が屡屡(しばしば)あった。

 今では彼女は、ある種、第三輜重隊のムードメーカーのような存在になっていた。



──俺も影響を受けたか。

 袁勝は、自分にも百鈴の情調が伝わったのだと臆断した。




 練兵場へ移動したところで。

「時間が掛かっても困りますし、十合までとしたいのですが・・」

 百鈴がそう言った。

 十回馳せ違ったら、勝負が付かなくても終わりという意味だ。

「ああ、いいよ。そっちにも都合があるだろうし」

 顔沖(ガンチュウ)が軽く返す。

──?

 袁勝は百鈴の声に、何か異質なものを感じた。

 おかしな所はないが、それゆえに、妙であった。

 彼女の日頃のわかり易さを、この時は感じなかったのだ。


「よろしくお願いします」

 百鈴があらためて文翼(ブンヨク)に挨拶する。

「こちらこそよろしく」

 文翼も返す。

 袁勝は文翼から静かな闘気のようなものを感じた。

 だからこそ、やはり、おかしかった。

──大人し過ぎる。

 百鈴は自分から喧嘩を売りに行くような好戦的な人間である。戦場に於いては、その()き出しの闘争心で敵を気圧(けお)すほどだ。

 それなのに、先程、袁勝に見せた不敵さが、今は鳴りを潜めている。



 百鈴と文翼は棒を取り、用意された馬に乗った。

 どちらの馬も、名馬の域には届かないが、なかなかの良馬であると袁勝は見た。

 両者は互いに距離を取り準備をする。

 周囲には第三隊の隊員の他、顔沖と同じ卓に着いていた者達、そして多くの顔家軍の兵が見守っている状態だ。

 いつもの訓練でも使っていると(おぼ)しき大きな旗を持つ者がいて、それを振って開始の合図とするようだ。


「大尉、あれは仕掛けますね」

 馬豹が小さく言う。

「だろうな・・」

 袁勝も賛同を示す。

 これは二人だけではなく、輜重隊の者は皆、同じような予測を持った。

 彼らがそのような思考に至ったのは、百鈴の棒の持ち方を見たからだ。

 百鈴は普段よくやる短めのスタイルではなく、ごく普通の槍として棒を持っていたのだ。

──既に始まっていたか。

 袁勝はここに来て、違和感の正体を理解した。

 百鈴の言動は九分九厘、何かしらの誘導を狙ったものであろう。



 一同が、この勝負の始まりを望んだためか──。

 周囲の音がスッと消え、直後。

 バサッ!

 旗が大きく振られ、百鈴と文翼が馬腹を蹴る。


 両者はすぐにその速度を上げた。

──馬術は互角。

 袁勝から見てまだまだだった百鈴のそれは、この一年で大いに成長していた。

 注目の一合目。

 二騎が()ち合うその直前。

 百鈴はシュッと棒を後ろに捨てるかのように素早く引くと、左右の持ち手の順手と逆手の上下を入れ替え、且つ棒の前部分、槍で言えば穂先に当たる方を持つ格好になった。

 そして次の瞬間、百鈴は唸るような振り下ろしを放った。

──斧槍のつもりか!?

 槍でも薙刀でもない、斬るというより断ち割りにいく動きのそれは、文翼が突き出した棒の持ち手に強烈な一撃を叩きつけ、彼の体勢を崩した。

 刹那、百鈴の棒は相手のそれを踏み台にしたように軌道を変え、一転()く伸びて、文翼の肩を鋭く突き打った。


「なるほど──、それで十合か」

「とことん慮外な者です」

 袁勝の言葉に馬豹が応じる。


 十合まで粘って終わりなどとは微塵も考えてはおらず、百鈴は(はな)から一合で終わらせるつもりだったのだろう。

 彼女は引き分けの含みを持たせることで、相手に無意識の二択を迫った。

 百鈴の言葉に乗って合を重ねて様子を見るか、長引かせる余地など与えず速攻するか。

 おそらく、あらためてした挨拶で、百鈴は文翼の戦意の度合いを測り、彼が一合目に力を入れてくる事を察したに違いない。

 いや──。

 文翼は輜重隊を侮っていたから、時間を稼いで勝負を持ち越そうとする意図は、逆に彼の神経を逆撫でしたはずである。となれば、速攻を狙うように仕向けられたとも言える。

 百鈴の振り下ろしは様子見の相手には通じない。文翼が仕留めに来たからこそ成立した。しかし彼女の事だから、きっと逆のパターンの対処も用意していただろう。

 なんにせよ、百鈴は立ち合う前から相手を翻弄していた──。袁勝はそのように捉えた。



 勝負は百鈴の勝ちであった。しかしながら──。

「待て! 今のはおかしい!」

 文翼が声を荒げる。

「あれでは槍の穂先を手に持つことになる。そんなことは不可能で、実戦ではありえない動きだ。振り下ろしの後に続けて突きを放つ動きも、本物の武器ならば難しいはずだ!」

 彼はそう言った。

 これに百鈴は。

「これは実戦ではありませんから」

 と、返す。

「はぁッ!? 話にならない、実際を考えずに立ち合うことに何の意味がある」

「この立ち合いに意味なんてないと思いますが」

 百鈴は言って馬を下り、棒を返して。

「終わりました」

 と、顔沖に告げた。


「ふざけるなッ──」

 文翼が尚も言い募ろうとしたが。

「文翼、それ以上は見苦しいよ。流石に僕も恥ずかしいから、やめてもらえるかな」

 顔沖が、それまでとは少し違った音で文翼に言って、これには文翼も黙らざるを得なかった。


 ここで袁勝が。

「顔沖殿、我等はこれで失礼させて頂きます。帰って雑務も残っておりますので」

 そのように言い。

「ああ──。なんか悪いね、変なことになっちゃって・・」

 顔沖は頭を掻いて返した。

「いえ。食事、ごちそうさまでした」

「懲りずにまた来てよ」

「それは任務次第ですね」

「大丈夫。僕の方から指名するから」

 顔沖は笑って言い。

「では──」

 袁勝は深々と頭を下げて、隊員たちを引き連れてその場を後にした。




 第三輜重隊は、どこか逃げるような早さで準備を終え、九門への帰路に就いた。


 帰りは空の荷車であったから、馬豹、百鈴は騎乗せず、隊員たちも雑談しながら進んでいる。

 誰かが。

「曹長はあれを(かわ)せましたか?」

 馬豹に聞いたようだ。

「当然だ」

 彼女の自信たっぷりな声が聞こえ、それで少し盛り上がっていた。



 袁勝は馬上の背中越しにそれを聞きながら、独り、顔をほころばせた。

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