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無双xロジスティクス ~落ちこぼれ部隊?いいえ、最強実践部隊です~  作者: テンチョウ
第四章 ~帰結の門、進発の扉~

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第76話 旨意

──喬太后。噂通りの人物のようだな。

 謳国から突きつけられた最後通牒を知り、居攸は思った。

 呂国も後越国も派兵の要求を受け入れるつもりはない。よって、これよりは独立戦争という形に移行することになる。

──また、歴史が動く。

 それも自分の手によってだ。

 居攸はそのことに愉悦を感ぜずにはいられなかった。


──今度は勝ちたいものだ。

 居攸は思う。

 彼にとって事の成否は大した問題ではない。

 先の戦も、居攸が萩家軍を離反させたことが発端となって、結果的に東の国々のパワーバランスを大きく変様させた。これ以上ない程の歴史的な出来事であり、その切っ掛けを自分が作ったことに居攸は満足していた。

 しかれども、萩家が敗れ、当主萩淮(シュウワイ)が死んだことは、居攸にとって思いのほかショックで。

──もっと強く止めるべきだったか・・

 萩淮の死に、後悔のようなものを感じていた。

 これは居攸本人にとっても意外なことで、情が移ったのかとも考えたが、どうにもしっくりこず。

 彼なりの答えとして、負け戦は面白くないからだ、という結論に達した。

──どうせなら、勝って終わった方が気分がよかろう。

 今回居攸は、単に時代を動かしたそれではなく、勝利に導いたキーマンになる事を欲した。





 潘会(ハンカイ)泡易(ホウエキ)の出会いは偶然であった──。

 だがそれが(たま)さかを装ったものだというのは、すぐに察した。

 なぜなら、泡易が推挙した男、居攸が恐ろしく弁の立つ者であり、各国の情勢なども深く精通していたからだ。彼が只者でないのは明らかで。

──この男が筋書きを書いたな。

 潘会は、居攸が自分を売り込むために、泡易を使っているのだと看破した。


 しかしそれでも、潘会は二人を遠ざけようとはしなかった。

 いや、彼が何かする前に、居攸の方から全て計画だったと打ち明けてきたのだ。

 それだけでも大胆不敵であったが、居攸が萩家と礼国を結びつけ、萩家軍を馗国から離反させたことも包み隠さず語った。

──邪気に満ちた人間だ。

 聞いた潘会は思ったが、同時に、どういうわけか高揚感に似たものも(いだ)いた。

 何が自分の琴線に触れたのか謎だったが、その理解よりも前に。

──この二人を手放しては勿体ない。

 潘会の直感が、居攸と泡易をとどめておくことを訴え、彼はそれに従った。



 潘会は思う。

 全てをわかった自分でさえ、泡易の妖艶さに抗うのは難しい。笑顔を向けられると心が掻き乱される。一度見てしまうと、もう一度見たいという欲が出てくる。

──繰り返せば耽溺(たんでき)し、籠絡されてしまうだろう。

 その自覚があったればこそ、潘会は、泡易を手駒として使うことを考えた。


 潘会は、此度の独立計画に先駆けて、呂国に近い所にある謳国の地方軍営の者を招いて持て成した。

 それ自体は、前々から時折行われていた付き合いであったが、このときは一人の中佐に狙いを定めて、彼を泡易に接待させた。

 その中佐は一昨年に妻を亡くし、以来独り身で、調べた限り女の気配は見当たらなかった。

 潘会は、そろそろ傷心は癒え、心に隙が生まれてもおかしくないと考えたのだ。そして、その逆睹は見事に適中した。

 中佐は泡易に心を奪われ、密かに彼女を訪ねるようになったのだ。

 潘会も気を利かせて、泡易のために屋敷を用意し、二人の密会が恙無(つつがな)く行われるよう手配した。


 泡易は贅沢さえさせておけば言う事を聞く女であったため、潘会としても楽なものだった。



 後越との渡りは居攸が取り付けた。

 馗国との交渉も進んでいる。

 泡易から、中佐を通して謳国の情報も入ってくる。

 全て、潘会の思った通りに動いていた。

──これで一泡吹かせてやれる。

 潘会の中にあるのは謳国への憎悪である。


 それは子供の頃から鬱積(うっせき)したもので──。

 例えば、謳国からの使者が、呂国の王である父に対して尊大な態度を取っていた事や、それに父を始め群臣達が平身低頭であった様などを見て、(はらわた)が煮える思いであった。

 潘会は、自身が王となったときは、このふざけた理不尽を、なんとしてもやめさせなければと強く思っていた。

 しかし、実際に王となった自分は、父と同じように使者に(こうべ)を垂れ、倨傲(きょごう)に対して文句の一つも言えぬ腑抜けであった。

 心に描いた自分と、現実のそれとの乖離(かいり)に、潘会は苦しんでいた。


──今、この機会を逃しては、二度と謳に反抗することは叶わなくなる。

 潘会を突き動かすのは、虐げられた怨嗟(えんさ)の一念であった。


 実はこの点で、潘会の思いは、居攸や、後越の華漢(カカン)とは少し違っていた。

 彼は、良い条件での講和などは端から考えていないのだ。

──何としても独立を果たす。

 潘会の目途はそれである。

 この齟齬(そご)は、潘会自身も自覚するところであったが、それでも構わないと割り切った。



──賽は投げられた。あとはなるようになるだろう・・

 潘会はこのとき既に、捨て身の境地にいた。

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