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無双xロジスティクス ~落ちこぼれ部隊?いいえ、最強実践部隊です~  作者: テンチョウ
第四章 ~帰結の門、進発の扉~

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第73話 相照

「3ですね」

 係の人間は首を捻りながら。

「すみません。こちらで、もう一回いいですか?」

 再度、百鈴に検査を促した。

 黙って従って測り直すが結果は変わらず。

「ありがとうございました。以上です」

 それでレベル測定は終わった。


 係の者が不審がったのは、百鈴の事を『双剣』の人物であると思ったからだ。

 先の戦に()いて、基地を襲撃した萩家軍を撃退したときの活躍を多くが目撃したことにより、既にあった『双剣の百鈴』の噂話は裏打ちされ、驍名(ぎょうめい)として知られることとなっていた。

 その百鈴がやって来て、自分が検査をするとなった係は、軽い興奮をもって接していたわけだが──。

 測ってみればレベル3で、何かの間違いでないかと考え再計測した。

 しかし目盛りは変化を示さず、係は同名の別人であろうと思い、密かに落胆した。


 なんにせよ、百鈴は今回の検査でもレベル3のままであった。




 百鈴としては残念ではあったが、同時に全く変化がなかったことで、いっそ清々しい気さえして不思議な心持ちだった。

 彼女が兵営に戻ると馬豹から。

「ちゃんと大人しくしてただろうな?」

 と、確認された。前回、クレームを付けられたから仕方がない。

「やだなぁ──、私だって相手が失敬でなければ声を荒げたりしませんよ」

「いや、たとえ無礼であっても恫喝する必要はないからな・・」

 百鈴の返しに、あきれ顔で言う馬豹。


 この日、第三輜重隊の面面は、百鈴同様、身体検査を終えた。

 皆レベルが上昇し、転属の申請を行った者もいたが、次の人事でそれが履行されるかどうかは、怪しいところであった。

 というのも、北の謳国がまたしても軍事侵攻を考えてるらしく、馗国としてもそれに対応するので忙しく、緊急性の高いもの以外は後回しにされるのは必至だった。


「まーた、戦時下になるんですかね?」

「それはそうだろう」

「まぁ、うち等としちゃ~やること変わんないし、手続きが減って楽っちゃー楽ですけどね」

 百鈴の、どこか他人事みたいな言い回しに。

「わかってるじゃないか。しかしどういうことか──、これがかつては前線を夢見たあげく、輜重隊という事がショックで軍を辞めようとしていた者と、同一人物の発言とは思えんな」

 馬豹が皮肉たっぷりに返す。

「ああ──。そこは、触れないで下さい」

 百鈴としても、気恥ずかしい過去だった。


「ところで曹長、肩の具合はどうでしたか?」

 百鈴が聞く。

 馬豹は萩家軍との戦いで落馬した際に左肩を痛めた。

 彼女はあの後すぐに騎乗し、騎馬を率いて敵の指揮官を討つに至ったが、本人は敵の注意を引き付けることに徹して、隊員たちにトドメを刺させた。それは本調子が出せないとの自覚があったためだった。

「特に問題ないようだ」

 馬豹の言葉に百鈴は安堵した。


 百鈴は例によってわかり易い人間であるため、その胸裏は馬豹にも伝わった。それは(ほの)かな嬉しさを(ともな)っていたため、馬豹としても謝意を返したく思い。


「しかし、怪我の功名とはよく言ったものだ──。お陰で私も、自分を囮にして虚を生み出す手管(てくだ)を覚えることができたよ。お前がやってたのを真似てみたのだが、なかなかどうして、決まると心地よいものだな」

 そのように言葉にした。

 百鈴は屡屡(しばしば)、派手に動いて自分に意識を釘付けにする方法をとる。それを見ていたからこそ巧くいった。ある意味、百鈴のお陰だと馬豹は言外に語ったのだ。

 百鈴も朴念仁ではないので、その辺りは程良く察し。

「当主を討ち取るとか、私も出藍の誉れで鼻が高いですよ」

 平素、馬豹が百鈴にやるように、殊更(ことさら)自慢気に返した。

「フンッ──。言うようになったな」

 馬豹は言ってニヤリとし。

「曹長の薫陶(くんとう)賜物(たまもの)です」

 百鈴もそれに(なら)って口角を上げた。





 華漢(カカン)は人里離れた森の中に来ていた。

 供回りは二人だけ、身形(みなり)も庶民の平服で、所謂(いわゆる)お忍びというやつだ。

 ここに隠棲(いんせい)している戦士に会いに来た。

「失礼──。鍾棋(ショウキ)殿はご在宅か」

 家の前にいた小間使いと思われる女に、華漢は声を掛けた。

「はい。どちら様でしょうか」

「昔、命を救われた出しゃばりな若造が来たとお伝え下さい」

「はぁ──。少々お待ちを・・」

 女は困惑しながらも礼を忘れず家の中に消えた。


 しばらくして女と共に、禿()げ頭で白髭の男がやって来た。

「誰かと思えば、若様でしたか・・」

「御無沙汰しております、鍾棋殿」

 言って華漢は深く礼をする。

「茶の用意を──」

 鍾棋は小間使いに言って。

「狭い所ですが、こちらへどうぞ」

 手ずから華漢たちを招き入れた。


「しかしまぁ──。綺麗に禿げましたな」

 あらためての挨拶もそこそこに、華漢はそう言った。

「わか──、いや、華漢殿のまっすぐなところは好むところですが、容姿についてとやかく言うものではないですぞ」

「ああ、これは失敬・・ つい懐かしく、軽口を叩いてしまった。許されよ」

 鍾棋に叱られるように言われ、軽く頭を下げる華漢。

「うむ──。行儀は良くなったようですな。あと、禿げているのではなく、剃っているのです」

「そうでしたか。いや、失礼つかまつった」

 言って頭を掻く華漢を見つめながら。

「して──。一国の王が、この老人に何の御用ですかな?」

 鍾棋は問うた。


 これに華漢は居住まいを正して。

「単刀直入に申し上げる。鍾棋殿、貴殿を将軍として迎え入れたい」

 鍾棋の目を射貫くように見返して言った。

 華漢は続けて。

「謳が再び馗国を攻める準備をしてることは、既にご存じの事と思う。後越(ゴエツ)にも七百の兵を出すよう言ってきた。俺はその要請を断ろうと思う。これは隣の(リョ)国と一緒にだ。でだ──、それが受け入れられなかった場合、俺たちは謳国からの独立を掲げて起つつもりだ。そうなれば、寡兵(かへい)で大軍を相手にすることにもなるだろう」

 ここまで聞いた鍾棋は。

「なるほど、わしのスキルを当てにしに来たというわけですか」

「わし──、いいですなぁ。白髭の御仁にはよく似合う一人称ですな」

 華漢が笑って言うが、鍾棋は泰然としている。

「華漢殿。悪い事は言わない、素直に兵を出されよ。兵力二千数百の後越には大きな負担ですが、それでも、最大で七百でしかありません。いざ戦となれば、千を超える犠牲が出てもおかしくはないのです。どのみち負担があるならば、面倒の少ない方が良いではありませぬか」

 鍾棋は静かにそう言った。

 これに華漢は。

「最大ではありません。今回は七百というだけです。謳国はこれまで何度も、今こそは、この機会を、などと言って馗国を攻めましたが、うまくいった事などありません。おそらく次も失敗するでしょう」

「馗国は多くの兵を失い。文も湯も介入する余裕はないのでは? 侵攻が成功すれば、それこそ後越は目も当てられぬ扱いを受けることとなるかと。兵を出していれば、失敗しても、それ以上悪い事にはなりますまい」

 鍾棋は返すが。

「それでは、じわじわ国力を奪われるだけだと考えております。ならばいっそ謳に国を譲ろうとしても、連中はそれを受け入れません。属国のままの方が都合がよいのでしょう。生かさず殺さず搾り取り続ける。それさえも、無闇な馗国攻めに起因するところが大きい。今、(あらが)わねば、次には戦う力さえ持たざる者となってしまいます」

 華漢は破顔をやめ、再び強い目で言った。


 鍾棋は黙って華漢の瞳を見ていたが──。


「負けた場合の事は考えておられるのか?」

 そう問うた。

「俺の首一つでなんとかなりましょう。小さくとも国王ですからなぁ」

 明るく言う華漢。

 聞いた鍾棋は静かに首を振ると。

「一つでは足りますまい。もう一つ、格のある首が必要でしょうな」

 と、言った。

 これには流石の華漢も困った顔をして。

「ならば、息子にも死んでもらうしかないか・・」

「幼子の首など、なんの価値もありはしません」

「では──」

 華漢が何かを言いかけたのを遮って。

「歴戦の将軍の首などで良いのではないですか。立派な髭を蓄えた、禿げ頭の者ならば格好がつくでしょう」

 鍾棋が不敵に言うので。

「剃っているのではなかったですか?」

 華漢も負けじと返す。

「生首になれば、関係ないことです」

 鍾棋が応えたところで。

「かたじけない!」

 言って華漢は、深々と頭を下げた。


 しかし鍾棋は動ぜずに。

「そのためには、それなりに勝たねばなりませぬな──。面倒な事です」

 茶をすすりながら、そう言った。

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