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無双xロジスティクス ~落ちこぼれ部隊?いいえ、最強実践部隊です~  作者: テンチョウ
第三章 ~盤面の将、兵の影絵~

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第71話 物故者

 葬儀はしめやかに行われた。

 王は死の少し前。

「何もなすことのなかった者の為に金を無駄にすることはない」

 そう言って、自分の葬式はするなと命じた。

 然りとて、一国の王の死。

 本当に何もしないわけにもゆかず、最後の王命には反するが、葬礼は執り行われた。


 在位は短かったが、群臣たちにとって王は幼少より知る人物であったため、その悲哀は臣下としてよりも、可愛がった甥っ子が亡くなったような寂しさに近かった。

 平素、憂いの一片も見せない(キョウ)太后でさえ静かに涙を流していて、それが皆の心を(えぐ)った。


──薄情な姉だ。

 呼延吹は、兄、呼延枹(コエンホウ)のときは激しく感情を動かし、ついには軍まで勝手に動かすに至ったが、弟の死に対しては冷静でいる自分に気付いて卑下した。

 彼女がそうなるのは軍人としての成長もあるが、将軍や于鏡と話し合った乱の危惧があり、その警戒心が感傷的な動向を制限していた。

 いや、それはどこか大義名分で──。

 馗国攻めを中断したことによる不満、悔しさを誤魔化し、(もっと)もらしい言葉で言い繕うために、ことさら乱に気を配る振りをしているだけなのではないか?

 そうような懐疑を自身に向けても、否定しきれない事が、呼延吹を自己嫌悪させた。

──やはり、嫌な姉だ。

 呼延吹は皆とは少し違う意味で、沈んだ心をもって参列していた。





 馗国の戦時体制は終了した。

 といっても、すぐに通常通りというわけではなく、徐々に平時の状態に戻していく感じだった。

 さはさりながら、輜重隊の任務は後にも先にも変わりはしない。


「なんか感じ悪かったですね──、やっぱり」

 百鈴が言う。

「それはそうだろう。先日まで殺し合いをしていた相手だからな」

 馬豹があきれたように返す。

 百鈴たちは、東の礼国との国境まで行き、そこで荷を交換しての帰りであった。


 馗国は、礼国と正式に取引することを決定した。

 普通、二ヵ国間での交易であれば、特に国軍の管理するところではなかったが、相手が相手だけに、しばらくの間は兵站部運搬科の仕事となった。

 百鈴たち第三輜重隊は、その記念すべき第一陣となったわけだ。

 礼国側も輸送に軍を使ったので、国境に於いて、馗国と礼国の両軍が向かい合うという事態になった。無論それは、荷のやり取りなのだが、敗戦を喫した礼国軍人としては面白くないのであろう。彼らは、あからさまに不満げな態度をとっていた。

 百鈴たちは直接礼国と戦う事はなかったので、特に思うところはなかったが、不平な感じを見せられるのはイイ気分ではなかった。


「どうなんでしょう。(かえ)って恨まれそうな気がするんですけど」

「そうれはそうだろう。恩着せがましく商売を持ちかけたのだからな」

 百鈴に対し、またしても当たり前の事だといった風に馬豹が応える。

「うーん。うちらの国は何がしたいんでしょうか?」

 百鈴が首を捻るので、馬豹も。

「恨みを買い、結果的に敵を育てるかも知れぬという、お前の心配は当然だ。だが、この国は物を動かし生きている。商売相手が増えることは良いことだ。そしてそれは礼国にとっても同じこと」

 一呼吸置いて。

「取引に軍や国の中枢は腹立たしいかも知れん。しかし彼らは表層であって、馗国にとっての真の商売相手ではない。我が国は、相手国の経済とやり取りをしているのだ。それはその国の商人であり、職人であり、市井の民たちのことだ」

 そのように言った。

「それって、敵国の国民を手懐けようって事ですか?」

「そう(うま)くはいかないだろう。だが、厭戦(えんせん)の雰囲気は生まれるのではないか。失墜した礼国に、それを押して馗国を攻めようという気概が生まれるかどうか。私は懐疑的だな」

 百鈴にも馬豹の解釈は理解できた。

 それが正解なのかどうかはわからないが、これまでも、馗国が独特の処世術で四方八方の国々を相手に生き残ってきたのは事実であった。


「萩家は国軍になるんですよね」

「一応な。代表者は萩家の先々代から分かれた家の者が就くらしいから、実態はそう変わらんのではないか」

 あまり自信はないのか、馬豹にしてはぼんやりした音で返ってきた。

──萩家については言いたくない可能性もあるか・・

 と感じて、百鈴は少し迷ったが。

──もうこの機会しかないかも。

 と考えて。

「崔姜さんとの戦い、邪魔するような形になって申し訳なかったです」

 馬豹に対して、そう話を切り出した。

「あー。別にいいさ、お陰で楽に勝てた」

 馬豹は言って笑い。

「あれはお前の判断なのか?」

 と、尋ねた。

「隊長から、相手が仕掛けるタイミングでと言われていたので・・」

 百鈴は事実であっても、何か袁勝の所為(せい)にしてるような感じがして、複雑な心境で答えた。

「うん──、流石は袁勝大尉だ。よくわかってらっしゃる」

 馬豹は殊更感心していた。


 百鈴としては馬豹のリアクションが思ったのと違ったので。

「あれ? 邪魔しても良かったんですか?」

 聞くと。

「邪魔も何も、あんな面倒なのを相手にする身にもなってみろ」

 馬豹は首を振りながら言った。

「私はてっきり、二人はライバルみたいなものだと思っていたんですけど・・」

「百鈴。お前は根本的に勘違いしてる。私は、お前たちのような戦闘好きではない。危ない相手と好き好んで戦ったりしない」

 百鈴に据えた目で返す馬豹。

 続けて。

「それに崔姜にしてもそうだが、あれも私の事などライバルだとは思っていないよ。彼女は私に視線を向けてはいたが、その実、私を見てはいなかった」

「じゃあ、誰を見てたんですか」

「自分自身だろうな。崔姜は自分に匹敵する者との戦いを望んでいた。だから私に目を付けた。そして、自己の勝手なイメージを投影させたのだろう。互いに全力を出せる相手を求めてる的なやつだ。彼女は私と戦いながらも、自分の作り上げた強者像を相手にしていた。そしてそれは崔姜そのものでもある。死んだ者に何か言うのは気が引けるが、私に言わせれば、あれは自分が可愛いだけの女さ」

 馬豹の崔姜に対する声は、思いのほか冷たかった。


 それは百鈴には少しショックであった。

 彼女には、崔姜の悦びのようなものが伝わっていたからだ。


 馬豹にもそれがわかったのか。

「百鈴。お前は戦った者からよく吸収する。それでよく自分を見失わないものだと感心するが、思考に関しても同じ様にできるのか? あまり人の心をなぞると、それこそ己を喪失するぞ。そして知らぬ間に、逆のことをしてしまうようにもなるかも知れん。自分の心を相手に押しつけるようにな」

 釘を刺すように言った。

 百鈴は、どこか穿たれた思いがしたが、なにがどうとは判然としなかった。ただ、馬豹が自分のことを案じてくれているのはわかった。

「大丈夫ですよ。襲ってきた人に同情するほど、私もお人好しじゃありませんので」

「そうか──。ならいい」

 百鈴の返事に、馬豹も特に(こだわ)らなかったが──。


「ところで百鈴。思い出したが、お前、あのとき、私のことを呼び捨てにしたな」

 と、馬豹はジトッとした目を向けて言った。

 崔姜との戦いのときの話だ。

「えっ!? あ、あれは、相手に考える暇を与えないようにですね、注目させる狙いですよ」

 突然の事に、百鈴はややどもりながら応えた。

 それを獣の目で見つめていた馬豹は。

「いや──、よくやったと思ってな」

 言って優しく笑った。



 このとき百鈴は、自分の心中をうまく整理できなかったが。

──無事で良かった。

 馬豹の笑顔を見て、あらためてそう思った。




 短い休憩を終え、第三輜重隊はいつも通り動き出した。

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