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無双xロジスティクス ~落ちこぼれ部隊?いいえ、最強実践部隊です~  作者: テンチョウ
第三章 ~盤面の将、兵の影絵~

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第59話 萩、袁、顔

 文国が介入した。

 それで補給が滞ることはなかったが、その懸念は付きまとった。

 礼国陣営は、本国からの補給が途絶えた場合の次善の策として、現地調達をすることにした。そしてその役は、地理を知っている萩家軍が担当することになった。また、萩家の本拠にあった備蓄はすべて運び出される事にもなった。


 前線の指揮を離れた崔姜(サイキョウ)は、国軍の輸送隊を襲撃する役となった。

「つまらん・・」

 思わず言葉が()れる。

 実際、輸送隊を発見するかしないかの話でしかなく、見つけた後は、襲う構えをとるだけで敵は荷車を置いて逃げ出した。

──これならば、雑魚でも戦えるだけマシというものだな。

 前線の事を思ったが。

──いや、そうとも言い切れんか・・

 (かえ)って憂鬱が募るのを想像し、考えるのをやめた。


 ともあれ、この日崔姜は物資を手に入れ、それを自陣に運んだ。




 戦線はやや膠着状態に(おちい)っていた。

 馗国軍は増援を出し、五千弱の兵力で守りを固めた。礼国六千と萩家千の七千でも、防御に徹せられると容易には崩せない。

 馗国はその位置ゆえに、古来方々から侵攻されてきた歴史がある。その戦いは、相手を粉砕して勝つというよりも、守り抜いて勝つというパターンが多く。消極的な戦いこそ、ある意味、彼らの真骨頂でもあるのだ。

 そういう観点では、輸送隊を狙うというのは有効な方法でもあった。兵糧攻めができれば敵を弱らせることも期待でき、それならば亀のようにしてくれていた方が楽でよいとも言えた。



 任務を終えた崔姜は独り斧槍を振っていた。

 体力が有り余っているのは勿論だが、少しでも屈託を紛らわそうとしての行動だった。

「隊長、よろしいでしょうか?」

 部下が声を掛けてくる。

「どうした」

 崔姜はそのまま鍛錬を続けながら応える。

「実は、鹵獲(ろかく)した荷車に輸送計画と思われる書き付けが挟まっていたのですが、確認をお願いしたく」

「書き付け?」

 崔姜も手を止め、部下に歩み寄り、彼の渡すそれを手に取る。


 目を通した崔姜は。

「妙だな──」

 と、言った。

 そこには確かに日程とルートが記されていたのだが、(シン)門から前線までの計画ではなく、九門や他の街からの輸送や、交易品の輸送と思われる予定が書かれていた。

 真偽のほどはともかく──。

 輸送計画自体があってもおかしくはないが、崔姜が(いぶか)しむのは、震門を中心とした輸送を担っている部隊が、あまり関係のなさそうなそれを所持していたという点だ。

「とりあえず上に提出しておけ。まぁ、戦場で交易品を手に入れてもしょうがないと思うが・・」

 崔姜はそう命じ、以降、関心を失った。


 しかしながら、逆に大いに興味を抱く者もいた。


 軍議の席で崔姜を責めたため、指揮を外されてしまった利いた風な男は、彼女と同じく敵の物資を奪取する任に就いていたが、標的を発見することができなかった。

 彼は崔姜が成果を得たことを悔しがり、自分も早く結果を出さなければと焦った。

 そんなとき、崔姜隊が入手したという書き付けを目にした。

──これがあれば探す手間が省けるではないか。

 そう思い、更に。

──他の奴に利用される前に、俺が使ってやろう。

 そう考え、こっそりとそれを懐に忍ばせた。


 一部、書き付けがなくなった事に気付いた者もいたが、もともと真偽不明の物であったし、下手に騒ぎ立てて紛失の責任問題になっても面倒だと考え、黙過(もっか)することを選択した。





 (オウ)国は三千の大軍であった。

 千ぐらいまでなら、袁家軍単独でも一応対処できると思われるが、その三倍なら意地を張る必要もない。国軍の千五百と合流し、二千二百の軍として布陣していた。

 数の不利はあるが。

「うちの厳しい訓練に堪えたお前らだ、謳国の雑兵などに負けるものか! 国軍にも、流石袁家と言わせてやろう!」

 袁雄(エンユウ)は兵をそう鼓舞した。

 軍議やら作戦やら、細かな話は当主となった甥の袁略(エンリャク)と、その側近に任せておけばよかった。自分はただ、兵と共に駆けるだけだと袁雄は思い定めている。


 袁雄は後悔していた。

──袁策(エンサク)が死んだのは俺のせいだ。

 彼はそう考えている。

 自分が勝手に手勢を率いて追撃に出たものだから、弟はそれを見過ごせず軍を動かした。

 袁雄は自分が動くことで、袁策がそれに続くとわかっていた。彼は、弟の兄を思う心を利用したのだ。

 そしてその結果、罠に嵌められ、袁策は殺された。その罠さえ、ほどんど袁雄が引っかかったようなものであったから、自分がいなければ弟は死ななかったと思わざるを得なかった。


 斯様なわけで。

「俺に全隊の指揮などできんし、意見もできるはずがない」

 と、袁家軍の動向に、一切の手出し口出しをしないと明言するに至った。



「敵の中軍に、呼延(コエン)の紋章旗があるそうです」

 袁略は全軍の軍議で知り得た情報を話した。

 当然、前に本拠を攻めてきた軍かどうかを問う声があったが。

「これは袁家の戦ではなく、馗国の存亡をかけた戦いの一部です。たとえ相手が先代の(かたき)であったとしても、我々がそれに(こだわ)れば、勝機を逸する可能性もあります。おのおの肝に銘じ、軽挙妄動なきようお願いする」

 袁略は淡々と言った。

 袁雄もそれに異を唱えるつもりはなかったが。

「一つだけいいか?」

 その必要はないかも知れないが、発言の許可を求める。

「どうぞ、伯父上」

「もし、敵があのときの女指揮官なら、向かい合ってもスキルは使うな。奴はこちらの技にカウンターを返してくる。先代もそれにやられた──」

 袁雄は皆にそう言った。

「わかりました。それも覚えておきましょう」

 袁略が返し、あとは作戦の話がなされた。





 敵は守りを固めている。

 呼延吹(コエンスイ)の軍を含む謳国軍はそれに正面から向き合う格好だ。

 彼女の軍は中央よりやや西側に配置されて、袁家軍は敵軍の東側を担当しているようで、仇敵同士の直接対決は今のところなかった。

 両軍入り乱れるという展開ではなかったので、遊撃隊である呼延吹軍は、イマイチ本領が出せてない感じであったが、それでも連携してよく動けている方だった。


 丸一日戦った。

 しかし、戦果のほどはあまりなかった。じわじわと削ってはいるが、味方にもそれなりの被害が出ていて、痛み分けといった感が強かった。


 三千という規模での押し合いは呼延吹としても初めてだったのもあるが、一貫して守勢を取られると、こうも手応えが悪いのかという、一種のもどかしさがあった。

 それを見透かされた、というわけではないだろうが。

「これが馗国の戦い方だ。みっともなくても、ひたすら守ってくる。袁家軍はもっと積極的に動いてくると考えていたが、今回はそれもなかった」

 将軍は軍議でそう言った。

 呼延吹を始め、列席している中には馗国との本格的な戦闘は初めてという者もおり、それらに向けられた言葉であると思われた。

 将軍は続けて。

「先程来た知らせによると、東の礼国との戦闘は膠着しているとの事だ。こうなると、馗国としてはどう動くと考えるか?」

「先に我等に対処しようとしてくるのでは」

 一人が答える。

「私もそう思う、こっちの方が数は少ないからな。しかし、基本的に奴らの行動は変わらぬと考える。守りを固め続けるだろう。ただ、此方の攻めを妨害するような動きはしてくるはずだ」

 ここで将軍は呼延吹の方を向いて。

「おそらく明日は少佐の軍に動いてもらうことになる。いつでも対応できるように、準備を怠らぬように」

「はい。了解しました」

 呼延吹の返事に将軍は頷いた。



 翌日も、昨日と同じような戦いだった。

 守り縮こまる敵を、少しずつ剥がすように削っていく。全体の数で上回るから成立しているが、効率の悪い、苛立ちが募る戦闘でもあった。

 将軍は動いてもらうと言っていたが、日が傾きかけても敵に変化はなく、これといった出番はなかった。

「呼延吹様、()んではおられませんか?」

 于鏡(ウキョウ)が聞いた。

「すみません。そう見えましたか」

 呼延吹は態度に出てしまったのかと思った。

「いえ。表に出さずとも、そのような心持ちは油断を生みます。お気を付け下さい」

「はい──。特佐殿は敵は動くと思いますか?」

「動くでしょう。ただし、それがいつかはわかりません。もしかしたら今日はないかも知れない──、そう考えたときが一番危ないと思っております」

 これは呼延吹の胸裏を穿(うが)つ言葉だった。


 そしてそれは、現実のものとなった。


 突如、激しい馬蹄の音が響いてきた。

 位置は後ろからだ。

「伝令。呼延吹軍は後方の顔家軍に対処せよとのことです」

 将軍からの指示がくる。

「了解した」

 于鏡が応え、軍は素早く本隊から離れた。


 敵は全て騎馬の集団、数はおよそ三百。時間をかけて気付かれることなく背後に回り込んだと思われた。それが二手に分かれて襲いかかってくる。

 相手も呼延吹軍を最初に排除する気のようだ。

「ギリギリまで引き付けて、こちらも二手に分かれます。特佐殿は半数の指揮を」

「はっ」

 呼延吹の指示に、于鏡が短く返す。


 敵の二隊が、ほぼ同時に仕掛けてきた。

 呼延吹達はそれに合わせて分離し、それぞれに歩兵で敵の攻撃を()なす。そして駆け去る敵に、騎馬で追い打ちをかける。

 しかし深追いはしない。あくまで騎馬と歩兵の連携が呼延吹軍の戦い方なのだ。あたかも間合いの違う二つの武器を(つか)(こな)すような戦闘。これは呼延吹自身が構想したものであったが、本人の自覚はさておき、どこか百鈴の武技を彷彿とさせるものだった。

 敵はまた二隊でそれぞれに突っ込んで来たが、呼延吹側に向かって来た方は途中で方向を変えた。結果、于鏡の部隊が、二隊による波状攻撃を受ける形となった。

 これに呼延吹は騎馬単独で、先に仕掛けた方の相手の退路に先回りし、正面から()ち合った。



〔 虎嘯風逆(こしょうふうぎゃく) 〕



 呼延吹はカウンターを当てるスキルを使い、敵の先頭を(ほふ)る。彼女に続く騎兵達もぶつかり合いでスキルを駆使して戦う。

 歩兵達は于鏡隊のフォローに入り、もう一方の騎馬を追い払う。

 互いに距離を取り、両軍は様子を(うかが)う状態になった。

 そしてそのまま日は落ち、謳国、馗国、両陣営は引いた。



 結果はやはり痛み分けであった。

 呼延吹軍と顔家軍のそれは勿論であるが、本隊も人数が減った影響で、その攻めは鈍化したため、成果は少なかった。

「少佐、相手はどうだったかね?」

 将軍が呼延吹に聞いた。

「手強いと感じました」

「そうであろう。顔家軍は馗国でも最強を自称する者達だ。私としては、少佐はよく抑えてくれたと思う」

 将軍は彼女を励まそうという意思があるのだろうか、そのように言葉にした。


──いや違う。

 呼延吹は知っている。馗国最強は他にいると。

──しかし、この敵を倒せずして、彼らに届くことはない。


 呼延吹は顔家軍を通るべき関門の一つと捉え、将軍の激励を余所に、独り闘志を燃やした。

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