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無双xロジスティクス ~落ちこぼれ部隊?いいえ、最強実践部隊です~  作者: テンチョウ
第三章 ~盤面の将、兵の影絵~

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第56話 荒武者

 瀬踏みのような軽い接触が何度かあった。

 互いに(けしか)けた騎馬隊と防御する歩兵、または騎馬同士の牽制のような展開だ。本格的なぶつかり合いに向けての前哨戦であったが、それなりに被害は出ていた。

 それはこの戦いが、もう引くことのできない状態であることを示していた。



 明日明後日にも決戦が始まる。

 そんな予感を皆が持っていたとき、その話は出た。

「萩家は(ライ)国につく!」

 当主、萩淮(シュウワイ)は萩家軍の軍議でそう言った。


──なるほど。違和感の正体はこれか・・

 崔姜(サイキョウ)はようやく理解に到達した。

 彼女は、急にできた親衛隊の存在が()せなかったが、武官を抑える、首輪をはめるという観点に立てば、間違いなく効果的だった。

 家々から跡継ぎ達を集めた理由、それは──。

──ただの人質だ。

 裏切れば、お前達の子供がどうなってもという、お世辞にも君主の所行とは思えぬ蛮行だが、今の萩家と萩淮を考えれば、さもあらんといったところ。

「ハハッ──、これは確かに萩淮殿を守っている。人質の集団に親衛隊などと名前を付けるとは、皮肉が効いているとは思いませんか?」

 崔姜は笑って隣の者に賛同を求めたが、相手は引きつった顔をしていた。

 彼女は別段、声高に言ったわけではなかったが、笑い声など似つかわしくない空気だったので、結果的に目立ってしまった。


 当然、萩淮も崔姜に目を付けた。

「崔姜よ。お主は何か意見があるのか?」

 聞いたが──。その声は冷え切ったもので、周囲の人間は緊張で肌が粟立った。

「意見? そんなものはありません」

「では、私と共に戦ってくれるのか?」

 萩淮の問いに。

「同隊という意味でしたら辞退したいですが、国軍と戦うという意味でしたら、(やぶさ)かでないです」

 崔姜は言ってのける。

 お前のおりをする気は無いという意思表示に、また周囲は凍り付いた。

 しかしこれに萩淮は、あいかわらず冷たい声だったが。

「それは頼もしいな」

 とだけ返した。


──ほぉ、意外に手懐けておるのか?

 居攸(キョユウ)は思った。

 彼は親衛隊を考え、萩家の武官達を掌握しようと画策したが、萩家最強の兵である崔姜に関しては、どのような手立てを講じればいいかわからなかった。彼女は長く萩家に仕える者であるが、家自体は末端の出で、己が武芸だけで()し上がってきた人物だったからだ。

 仮に崔姜が反対や離反をしようなら、見せしめを兼ねて殺すしかないと考えていた。最強の駒がなくなるのは惜しいが、仕方のないことだと思っていたのだ。

 だが居攸の予想に反して、崔姜は萩家の行く末などには興味がなさそうであった。

 そして、これも予想外だったが、萩淮もそんな崔姜の事を理解していたようであった。

 二人の関係性は居攸のあずかり知らぬ事であったが。

──なんにせよ、手間が省けて良かったわ。

 ひとつ懸念が消えて安堵した。

──しかし。やはり蛮人の思考は理解できん・・

 居攸は崔姜の関心がなんなのか想像しようとしたが、これといって浮かばなかった。


 ともあれ──。

 この会議を経て、萩家軍は馗国に反旗を翻すことになった。





 熊収(ユウシュウ)は馬の横でじっと待っていた。

 彼女のいる重騎兵隊は、戦場を縦横無尽に駆けるということはない。戦場に()いてはタイミングを計って待機することが多く、馬の体力を温存するため、移動さえも基本は下馬した状態で行われていた。

 もちろん敵に突っ込めば、それを粉砕し、弾き飛ばす勢いで進むことになるが、あまり長くは走れないため、ここぞという場面のみの疾走であった。


 合戦は払暁(ふつぎょう)より始まり、今、全面的な押し合いに発展したところだ。

 ある意味、均衡の取れている状態であり、このような局面で重騎兵が出る事はない。

 押し込んだり、押し込まれたり、もしくはより激しくぶつかり合ったり、軍勢の力が集中するそのときこそ彼らの出番である。圧倒的な突破力で穿(うが)つことで、敵は自らバランスを崩すことになる。それは重心の掛かった足を払うようなもので、そこからの立て直しは難しく、味方もそれを許しはしない。文字通り戦局に一穴をあける部隊が、重騎兵だった。


 熊収は現在、少尉として小隊を率いている。

 以前、代行役として臨時でなったままである。それは礼国との合戦の気配があり続けたというのは勿論だが、熊収が指揮者としても論を()たない優秀者であったからだ。


 彼女とて(はや)る気持ちはあったが、率いる立場になったからには先に立つ必要があると考え、努めて泰然(たいぜん)としていた。



──もうしばらくは一進一退を繰り返すだろうな。

 熊収は思った。

 その見通しは彼女だけでなく、多くの国軍の指揮者達も同様のものを持っていた。


 しかし、そうはならなかった──。


 ワァッーと、あらぬ方向から喊声(かんせい)が来た。

──敵に別働隊がいたのか!?

 皆が最初に思ったのがそれである。

──どうやって近づいたんだ?

 次に疑問が生じた。

 発見されずに、よくこの戦場まで移動できたと不思議だったのだ。

 その問いの答えはすぐに明らかとなった。


 側面から味方に襲いかかる軍勢、その旗印は──。

「萩家軍だと!?」

 熊収も、最早ただ待っているわけにはいかなくなった。

「騎乗!」

 重騎兵全隊としては、まだ指示がなかったが、それを鶴首(かくしゅ)するほど熊収は間抜けではない。

 他の小隊も熊収の隊に続いて騎乗した。

 この時点で熊収の小隊は言うに及ばず、他の隊員も、彼女を頭一つ抜けた指揮者だと認識した。それは中隊を預かる者も同じだったようで。

「伝令。熊収少尉は三小隊を率いて動くようにとのことです」

 彼女に複数の小隊の臨時指揮権を与えた。

「了解です」


 現状の戦局は──。

 拮抗した押し合いのさなか、馗国軍が萩家軍の裏切りにより側面を崩され、正面からも礼国に大きく押し込まれる展開になっている。このままでは潰走は必至であり、重騎兵隊としては、味方の二正面状態を緩和するため、礼国か萩家のどちらかを叩く必要があった。

 礼国は六千、萩家は千、とすれば、叩きやすい方から先に叩くのが常道。

 重騎兵隊は、ゆっくりと萩家軍へ向けて進み出した。

 すぐにでも加速したいところであるが、彼らは機動性よりも攻撃力に割り振った部隊であるから、危機的状況であっても──、いや、だからこそ、力の出しどきを見計らう必要があった。


 重騎兵隊は萩家の脇を突く位置を取った。

 が、そこに萩家軍の騎馬隊が妨害にやって来る。重騎兵は軽騎兵とぶつかっても十分力を示すが、牽制するだけの相手には追い(すが)ることは難しく、厄介だった。

「熊収少尉、萩家の騎馬を抑えよとの指示です」

「了解!」

 素早く熊収たちは全隊から離れ、二小隊を以て敵騎馬の進路を妨害、熊収率いる小隊が直接相手を叩く展開に持ち込んだ。

 敵も割り切ったのか、正面からの()ち合いを選択したようだ。


 熊収隊と敵がぶつかり合う。

 敵がよく見える。

 先頭は、斧槍をもった女──、並の者ではない。

 熊収は一目で、これまで戦ってきた者の中で最強の存在だと洞観した。

──出し惜しんでいたら死ぬ!

 そう思い。



〔 錠除利剣(ジョウジョリケン) 〕



 スキルで肢体のリミッターを外す。

 互いに肉薄する。

 目が合う。

──笑っているのか。



〔 針立雷(ハリタテイカズチ) 〕



 敵は不敵な笑みと共に斧槍を突き出す。

 熊収の槍と合わさる。が、相手の方が若干強い。熊収はやや押し負ける形となった。

 次の刹那──。



〔 針立雷 〕



 敵は瞬時に斧槍を振り上げると、即座にそれを叩き下ろした。

 クンッ──!

 熊収は咄嗟(とっさ)に槍の柄でそれを受け止める。凄まじい衝撃だ。体勢が崩れたが、なんとか持ちこたえた。

 両隊のぶつかり合いは、味方が敵を幾つか落としたようだ。

 馳せ違った後、二隊は離れた。

「金飾りがなければ折られていた・・」

 熊収は自身の槍を見て呟いた。

 彼女の槍の柄には部分的に金属が巻いてあり、一応強度をあげるという意味であったが、ほとんど飾りとしてしか機能していなかった。それが本来の役目を果たし、彼女を守る働きをした。

 それでも、金属は少し切れてしまっていたので、ギリギリのところといえた。

──スキルを使っていて正解だった。

 でなければ、やられていた。

 それは熊収にもよくわかった。それ程の敵だ。

──もう一合やるには厳しい相手だな。

 熊収は苦戦を覚悟したが。

 時を同じくして、重騎兵の本隊が萩家軍に突入し、彼らを大いに崩した。それに乗じて国軍も立て直し、不利な状況ながら、守りを固めて踏みとどまることができた。


 重騎兵たちは合流し、再び機を(うかが)う形になった。

 だが、これという時には、やはり騎馬の妨害が入り逆転の芽は(ことごと)く摘まれた。


 国軍はじわじわと押され続け、日が落ち、両勢力が引くまでの間に、千以上の犠牲が出た。



 国軍は戦線の維持を諦め、前線基地を放棄し、その後方に新たに陣を敷いた。

 この日の合戦は、馗国軍の負けであった。

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