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無双xロジスティクス ~落ちこぼれ部隊?いいえ、最強実践部隊です~  作者: テンチョウ
第二章 ~敷く擬石、咲く造花~

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第45話 三つ組みの造花

「面倒な事になりました」

 まだ日の出前だというのに雍白が基地にやって来て、こう言った。

 突然に彼女が来た時点で、容易ならざる事態だとわかり、隊員たちは誰に言われるでもなく出動の準備を始めた。

 袁勝、馬豹、百鈴は雍白から直接話を聞いていた。

「昨晩、太子が殺害されました。これは私に情報提供してくれた人物の推測ですが、軍部の人間による犯行だと思われます。それはいい──、というか、ひとまずは置いておきます。問題なのは、殺害された太子が青緑の布を握っていたというのです」

「我等を犯人に仕立て上げるということですか」

 馬豹が聞く。

「おそらく──」

 雍白が頷きながら応える。

「でもそれだけじゃ流石に無理筋なのでは?」

 百鈴としては布きれ(ごと)きで犯人にされたくはない。

「それが、太子の別邸、そこで殺害されたのですが・・ 邸宅にあったはずの家財、特に高価な品物がごっそりとなくなっていたそうなんです」

「なるほど。荷を運ぶ我々ならば盗むのも容易(たやす)いと」

 馬豹が言う。

「はい──。協力者の話では、朝一にでも此方(こちら)に軍が差し向けられるとの事です」

 雍白の言葉に。

「事情はわかりました。殿下のお考えをお聞かせ下さい」

 袁勝が言った。


「わたくしとしては、皆さんが捕らえられる事態は避けたいと考えております。この程度の証拠で罪に問われるとは考えたくはありませんが、軍部が責任逃れのため強引に犯人に仕立て上げる可能性もあります。そうなると私の立場も弱くなり、皆さんを救出できぬ(おそれ)があります。なので、何とか馗国へ帰還して頂こうかと思っております」

 この雍白の意見に。

「それでは殿下のお立場と、馗国との関係がおかしくはならないでしょうか?」

 馬豹が指摘する。

 太子殺しの犯人が雍白の私兵で、それが馗国に逃亡したとなれば、先の交易の関係もあり、陰謀めいた何かがあるのではと、要らぬ嫌疑が掛かりかねない。

(もっと)もなことです。ですので、偽装を(ほどこ)したく思います」

 雍白はそういうと地図を広げ、話を続ける。

「今回はあまりに急で、やはり協力者の案なのですが、皆さんには真っ直ぐに南に向かってもらいたいのです」

 彼女は地図上の川を指さしながら。

「ちょうどこの辺りは水深が浅く、屡屡(しばしば)、周国軍が徒渉してくる場所なのです。まぁ浅いといっても、人の腰か胸ぐらいまでは水が来てしまいます」


──まさか、川を渡らせて周国へ行けっての!?

 百鈴が怪訝(けげん)な表情を浮かべていたせいだろう。

「安心して下さい。川を渡るわけではありません」

 雍白は百鈴に優しく言う。

 馬豹はそんな百鈴を、何か言いたそうなジトッとした目で見つめる。

「すみません、続けて下さい──」

 百鈴はとりあえず謝っておいた。

 雍白は頷くと。

「ここよりも西の辺りで皆さんには青緑の装備を外してもらいます。馬も下りて頂いた方がいいでしょう。そして川に沿って西に進んでから、周国との国境沿いを北上して馗国に戻るというものです」

 強引に川を渡ったと思わせる、もしくは、そう(よそお)って東の浅い所に行ったのではと考えさせる、二重の偽装という事だ。

「しかし、騎馬で探索されれば見つかるおそれがあるかと」

 馬豹がまた指摘する。

「そこは協力者が一肌脱いでくれます」

 雍白はそのように言った。

──さっきから誰だよ。

 思った百鈴だが、また顔に出るといけないので目をつぶっておいた。



 ともあれ、第三輜重隊は急ぎ荷物をまとめ、南を目指して出発することになった。

 今回は荷車は引かない。兵糧は各自が携帯する形となった。

 あと、百鈴が密かに購入した孟国土産は置いていくことになってしまった。


「この国の恩人である皆様と、このような形での別れとなってしまい心苦しい限りです。最早、私にできることは御座いませんが、皆様の道中の無事を祈らせて頂きます」

 雍白は隊員たちを前に慇懃(いんぎん)に礼をした。

 それは彼らに種々様々(しゅじゅさまざま)な思いを(いだ)かせたが、その感慨に浸る時間は残されてはいなかった。

 馬豹の合図で短く立礼で返すと。

「進発!」

 袁勝の声で、一行は歩み出した。





 伯陽の住民が朝餉(あさげ)を食べ終わったかという頃だった。

 五百を超える軍勢が輸送隊の基地に詰めかけた。

 たかだか四十人ほどの者たちを捕まえるには大仰(おおぎょう)過ぎることであったが、今や青緑の集団の力は正規軍にも広く知られており、一人あたり十人力との計算で編制されていた。

 しかし、基地には既に彼らの姿はなく、彼らの使っている荷車もそのままだった。


 その報告が長陽の軍本部に届けられたとき、同じく青緑の集団に関する情報が意外な方向から入った。


 それは長陽よりも南の地域からの知らせで、四十人程の目立つ武装した集団が、一路南へと早足で進んでいるというものだった。

 本部はその集団を伯陽から消えた輸送隊と断定。彼らの進路から川を徒渉する可能性が高いと考え、丁度良く長陽の南方にて訓練を行っている部隊がいたため、早馬を送り輸送隊の足止めを命じた。




「少佐、準備調いました」

 部下が言う。

「よし。相手は徒渉を狙っているとの事だ。少数ゆえ移動も迅速であろう。訓練の疲れもあるが、やや強行軍で行く」

 程軫(テイシン)はそう言って三百の軍を動かした。

 一人十人力の計算では足りぬゆえ、援軍が来る事になっている。彼女の役目は青緑を捕捉し、先に進ませないことだった。


 軍は駆け足で素早く進んだ。

 しかしながら、この日は朝から通常よりもハードな訓練を(こな)していたため、体力の消耗は著しく、追いついたときには戦えないおそれがあった。

 何人かの武官は、程軫の強行軍を(いぶか)しんだが、それも援軍を当てにしたことだろうと臆断し、それ以上は考えなかった。


「報告。前方の川辺に軍馬が数頭とどまっている模様。周囲に青緑の装備が散乱しております」

 斥候はそのように言った。

「よし。それを調べてみよう」

 程軫たちはその場所へ向かった。



「確かに彼らの装備で間違いないな」

 程軫がいう。

「しかし少佐、徒渉できる地点はもう少し東です。ここでは深すぎます」

 部下が指摘する。

「確かにな。だからこそ防具を外したのであろう。馬を置いていったのもそれで説明がつく」

「ここを泳ぐのは大変だと思いますが・・」

 別の部下が言う。

「それは私もそう思う。だが彼らの強さはお前たちも知っているだろう」

 程軫の言葉に。

「あー、彼らなら()もありなんという事でしょうか」

「そうだ。だが、断定するには少し早い。これが偽装である可能性は当然ある。馬で探索したいところではあるが、それなりに疲れも溜まっているだろう。そこでだ──」

 程軫は輸送隊が置いていった馬の中から一頭を選び、跨がった。

 そして。

「お前と、あとお前、そっちの馬に乗れ」

 と、二人を騎乗させると。

「軍はここで(しば)し休憩をとる。お前たちは東に行き移動した痕跡がないか探れ。私は西に行き調べてくる」

 そのように言った。

態態(わざわざ)、少佐がゆかれなくとも、誰か適当な者に任せれば──」

 部下が言うが。

「ハハッ──。このようなときでもなければ、これ程の馬に乗る機会など滅多にあるものか。少しぐらい楽しんでも(ばち)はあたるまい」

 これには聞いた部下たちも、顔をほころばせた。

「安心しろ。戻ったら、お前たちも乗せてやる」

 程軫はそれだけ言うと、馬腹を蹴って西に向かった。

 彼女に指示された他二名も、東に向かった。





 百鈴たちは駆け足で移動していた。

 雍白の言葉から、騎馬での探索はなさそうではあったが、念のために距離を稼ぐための歩速だった。

 防具は捨ててきたので、身軽と言えば身軽なのだが、同時に心許(こころもと)ないともいえ、百鈴には何とも言えない不安感が付きまとった。


 馬を置いてきたので、当然、袁勝も自分の足で駆けているのだが──。

 彼が隊員たちと一緒に走るという、今まで見たことのない絵面(えずら)に、百鈴はおかしなものでも見ているような気分になった。

 百鈴の感性は脇に置くとして。袁勝は常に騎乗であったから、殊更めずらしかったのは確かだ。


 百鈴はいつも通り隊の最後尾だった。

 なので、真っ先に気付いた。

──!?

「隊長! 馬が向かって来ます!」

 すぐに報告したが、運が悪いことに、どこにも隠れる場所がない。

「駆け足をやめ、通常行軍に戻す」

 袁勝は歩速を落とし、様子を見るようだ。

 偵察の騎馬だとしても、それだけで仕掛けてくることはない。必ず本隊か騎馬隊に連絡し、それらを待つはずなので戦闘が起きるとしても、それからだ。その時に備えて、力を温存しようというのだろう。


 百鈴は対騎馬の戦い方を頭の中でおさらいした。

 騎兵は落馬や、馬を失う事も想定しておく、武官学校で騎馬訓練の最初にいわれたことだ。輜重隊に来てからも、百鈴はそれを忘れていないが、歩兵として騎馬を相手にした実戦経験は無いので、いつもより緊張感は高まった。


 馬蹄の音がはっきりと聞こえる。

 追ってきているであろう騎馬にも此方の姿が見えているはずだが、それでも軽やかな音は止まらず、更に近づいてくる。

 袁勝は一旦行軍をやめ、その騎馬を待つことにした。


 馬具には青緑の装飾が見てとれる。

 百鈴たちが置いてきた馬だ。これまで馬豹が乗っていたもので間違いない。

 隊員たちは、それに乗っている人物にも見覚えがあった。

「袁勝殿、待って頂いてかたじけない」

 程軫は言った。

「いえ──。なるほど、少佐殿が殿下の(おっしゃ)っていた協力者ですか」

「私にはそんなつもりはないよ」

 程軫は軽く首を振った。そして──。

「単刀直入に言おう。袁勝殿、並びに輸送隊の面面よ。どうだろう、この国にとどまる気はないだろうか? 貴殿らがいてくれれば、これからの周国の圧力にも(あらが)い易くなる。しばらくは私の配下という形だが、いずれは袁勝殿には、少佐待遇で指揮を執ってもらう事になるに違いない」

 そのように、孟国軍への勧誘をした。

 これに袁勝は。

「我々は馗国の国軍の者なのです。ありがたい話ですが、(うけたまわ)るわけにはいきません」

 と、返した。

「やはりな──。貴殿らほどの者ならば、とうの昔に噂になっているはずだと思ったのだ」

 程軫は、百鈴たちの詳細は知らなかったようだ。

 彼女は続けて。

「国の事情はどうにもならんが、できれば、貴殿らと戦う事にならないことを祈るよ」

 そう言った。

「俺も、三重の偽装を思いつく貴方とは、戦いたくありません」

 袁勝もそう言った。


 程軫は無言で頷き。

「達者でな」

 短く言って、馬腹を蹴って元来た方向へ駆け去った。


「移動を再開する──。進発」

 袁勝が言って、第三輜重隊は再び歩み出した。



 馬蹄の音は遠ざかり、聞こえてくるのは、自分たちの足音と息づかいばかりとなった。

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