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無双xロジスティクス ~落ちこぼれ部隊?いいえ、最強実践部隊です~  作者: テンチョウ
第二章 ~敷く擬石、咲く造花~

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第43話 積怨

 朝議は追求の場となった。


 太子派は周国と密かに交易をしようとしていると、雍白派の高官が言い出したのだ。

 最初は。

「ふざけたことを言うな!」

 と、威勢良く反論していた太子派だったが、雍白派が用意してきた幾つかの証拠によって、その言葉の出は次第に悪くなっていった。

 それに(ともな)って、二派に関わり合いを持とうとしなかった中立の者も、徐々に太子派に対して疑念の言葉を掛けるようになってきた。

 その中には。

斯様(かよう)にして秘密裏に交易をしようとし、あまつさえそれを指摘されれば、声を荒げ事実無根と(のたま)う。これを見るに、事ここに至っては貴殿たちの主張する周国への割譲すら、なにがしかの見返りがあると思わざるを得ない」

 太子派の我田引水を洞察した言葉が放たれた。

 これを皮切りに、議場の流れは一気に雍白派に傾いた。


──いったいどうやって手に入れた?

 田牽は首を捻った。

 雍白派や、軍の中にも、太子派の交易を探る動きはあった。しかし、当事者である田牽を除いては、数名しか関わっていないわけで、証拠の入手など不可能に近いと思われた。


 ここで、雍白派の者が更に追い打ちをかけるように。

「先程、見返りという言葉が出たが、私が入手したこの約定書には、将来的に我が国全土を譲渡する事を条件に、協力者は周国の爵位を得るという旨が書かれている。これにより太子派の売国は明らかである」

 そう言い放ち、持っていた約定書を他の高官に見せだした。


──馬鹿な!?

──それを持っているのは、私の他には・・

──どのような手妻を使ったというのだ!

 田牽は答えを求めるように雍白を見た。

 彼女は真っ直ぐに視線を送っている。その先にいるのは──。

──太子!?

 彼は微動だにせず、じっと下を見ている。

 そしてその横には、馬車を動かせないから宜しくと言っていた男。


──そうか、そういうことか!!

 田牽全てを理解した。

 交易の証拠は、(ぎょ)せぬ男が渡したのだ。

 おそらく、先日の敗戦で臆病風に吹かれた男は、保身を図ろうと雍白に擦り寄った。証拠は、その手土産というところだろう。

 そして雍白は交易の証拠を太子に突きつけ、決断を迫ったはずだ。

 このままでは太子も売国奴の汚名を着せられ廃嫡となる、太子派の高官たちを切るか、それとも共倒れになる道を選ぶのか、と・・

 それで太子も保身を選択し、約定書を雍白に渡した。

──やはり表層だけの男、新道を切り開く者ではなかった。

 田牽は、太子を優れた者と思っていた過去の自分を、呪わずにはいられなかった。


 その後太子派は沈黙した。

 反論の仕様が無いのは勿論、多くの者が己が立場に絶望した結果でもあった。

 彼等の面目は潰れ、主張していた割譲案、李代桃僵(りだいとうきょう)の策は完全に消えた。



──おのれ・・

 周国との交易を言い出したのは太子だ。

 失敗に終わった襲撃と陽動も、太子の持ってきた手紙が切っ掛けだ。

 そして田牽らを切り捨てた男。

──ただではおかん。

 田牽の中で、怨情の炎が燃え上がった。





 百鈴たちの任務は終わりを迎えようとしていた。

 太子派の主張は潰え、孟国は周国との決別姿勢を鮮明にした。

 当初の目的である雍白派への援助は不要となり、交易はいずれ以前と同じ状態になる予定だ。

 現在は組んでしまった輸送計画分を消化する日々であった。それも、あと少しで完遂に至る。


──今のうちに孟国土産でも買っておくか。

 百鈴は、そんなことをぼんやりと考えていた。


 そんなとき、基地に雍白がやってきて袁勝と何やら話していった。

 そして翌日から第三輜重隊の運行ルートは、周国との国境に沿った遠回りの道に固定された。

──これは面倒な事になりそう。

 数日後、百鈴の予感は的中することになる。



 荷を交換し、帰路に就いていたとき襲撃を受けた。

 太子派は既に崩壊しており、当然、彼等ではない。

 百鈴の知らぬ軍装であったが、そこには、はっきりと周の字を模した紋章旗があった。


 喊声(かんせい)を上げながら向かってくるが、そこに覇気は感じられない。

──虚仮威(こけおど)しだ。

 百鈴は明察した。

 一斉に迫れば、恐れて逃げ出すと考えている。その事から、相手の目的は百鈴たちというよりも、その運ぶ荷を強奪することにあると思われた。

「総員、戦闘準備!」

 袁勝の声で隊員たちは臨戦態勢をとる。

「機先を制す。歩兵で当たり動揺した隙に旗印を騎馬で叩く。馬豹たちは後方に付き、機を見て飛び出せ」

「了解!」

「敵は周国軍だ、これまでとは違うが、だからといって(りき)み過ぎるな」

「はい!」

 皆の声に袁勝は頷くと。

「進撃!!」

 それで第三輜重隊は戦闘速度で駆け出した。


 百鈴は馬豹らと輜重隊の後ろに位置取る。

 敵には既に困惑が見て取れる。



〔 窮鼠噛獣 〕



 密集した歩兵がクサビとなって敵に食い込む。そして一気に周囲に広がり、敵軍をこじ開ける。

「いくぞ!」

 馬豹の声で、百鈴たちは生じた間隙(かんげき)を走り抜ける。

 目指す先には周の旗。

「私は先行する、任せたぞ百鈴!」

 馬豹は返事を待たず。



〔 脱兎捉爪 〕



 バンッと加速し、遮る敵を弾き飛ばす。

 百鈴たちはそれを懸命に追い、同時に敵を見定める。

──指揮官のまわりに三騎、強兵だ。

 百鈴は槍を短く持ち、剣を逆手で抜いた。

「私が護衛を引き付ける。三人は指揮官を狙え、一撃当てるだけいい!」

「はい!!」

 命じた百鈴は、一瞬、自分の姿を馬豹と重ねた。

 騎馬のスキルのような圧倒的な飛び出しはできない。だが、タイミングをずらす程度のそれならば、馬の力を引き出せばいける。

「はっ!」

 気合いと共に加速し、一歩前を駆ける。

 それに続く三人。

 敵も気付いて向かってくるが、二騎だけだ。一騎は指揮官から離れない。

 百鈴と敵が肉薄する。

 相手の恐ろしく鋭い槍が迫る。

──スキルか。

 短い槍でギリギリに()らす。

 その隙を狙って、もう一騎が百鈴にまた鋭い槍を放つが、今度は剣でその軌道を変える。そしてすれ違いざまに、一方は槍を回し石突きで打ち落とし、一方は素早く剣を持ち替えて斬った。

 直後、三人が敵の指揮官に迫るが最後の護衛が立ちはだかり、身を挺して攻撃を防ぎ絶命した。

 指揮官はその間に逃げようとしたが、そこに馬豹が戻り退路を塞いだ。すぐに百鈴が詰めて一閃、首を()ね、勢いそのままに旗持ちに迫ってこれを突き倒した。

 周の旗印が倒れると、敵は我先にと逃げ出した。


 百鈴たちは袁勝と合流したが、彼は追撃の指示を出さなかった。

 隊員たちは意外な面持ちだったが、ほどなくして、その理由を知ることとなった。


 逃げた周軍の退路に、孟国の正規軍が現れたのだ。

 数は千を超えるであろう大軍であった。

 彼等は逃げ惑う周国軍を次々に討ち、あちこちに(むくろ)の山を築いた。そのありようは、逃げ延びた者は数える程ではないかと思われる徹底ぶりで、殲滅を目的とした戦いであった。


 平素、やや好戦的な百鈴をして。

──戦意がすごい。

 そう思わしめる程の、孟国軍の意地尽(いじず)くな行為であった。

 そこには長年積もり積もった悪感情に加え、割譲案をめぐっての周国の暗躍に対する怒りもあり、それがこの機に噴出した結果の姿であった。



 袁勝は事態が収束に近づくと構えを解き。

「輸送を再開する」

 と、言って、荷車は再び動き始めた。

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