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無双xロジスティクス ~落ちこぼれ部隊?いいえ、最強実践部隊です~  作者: テンチョウ
第二章 ~敷く擬石、咲く造花~

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第41話 二重のかかし

 日が傾き、両軍の距離は開いた。



──このまま何事もなく終わる。

 それは、両軍の対峙を見守ってきた程軫(テイシン)と彼女の部下、そして兵達の共通認識だった。

「明日からどうなるか・・」

 程軫は呟いた。

 雍白(ヨウハク)派の交易はこれで難しくなった。となれば盛り返していた勢力も、また衰えるだろう。

──本当にそれでいいのか?

 そう思う。


 太子派は周国への割譲を主張している。

 それは軍人である程軫にとって屈辱的な話だった。今まで守ってきたものを、くれてやれという。それも寄越(よこ)せと脅しをかけてくる相手にだ。

 ふざけるなという思いは彼女だけでなく、軍部の者の多くが(いだ)く感情だった。

 それでも、国を守り維持するためには、時としてそのような選択も必要かも知れないと、自分自身を説得しつづけてきた。

 それなのに──。

 太子派は事もあろうに、周国と密かに交易を始めようとしている。そして、それを知り得てなお、軍上層部は中立という立場に(こだわ)る。


──太子派はその(じつ)、売国奴ではないのか?

 ここに至っては、これまでの彼等の主張とその論説は、我田引水と牽強付会(けんきょうふかい)、詐取と詐術、猫糞(ねこばば)と屁理屈、それらの関係であると思わざるを得ない。自分を利するために、(もっと)もらしい言葉を並べていただけであろう。

──本当にいいのか?

 また思う。


 程軫の中の軍人としての報国心と、同じく軍人としての規範意識が、一方を立てれば一方が立たずという二律背反の構図を形成し、彼女を苦しめた。



「少佐、我等はどうしましょう」

 部下が聞いてきた。

「今日は星も出そうにありませんし、暗い夜になりそうです」

 他の者が言う。

 今から長陽(チョウヨウ)への帰路に就けば夜になるが、本日の移動は難儀しそうだという指摘だ。

「ずっと待機で兵も暇疲れしただろう。日の落ちる直前まで移動し、そこで野営とする」

 程軫はそう応えた。


 しばらくして軍は静かに動き出した。

 程軫は最後にもう一度、太子派と雍白派の両軍を眺めた。

──おや?

 太子派の方は、あいかわらず戦意はなく、いつでも撤収するという雰囲気でじりじりと後退していた。ところが一方の雍白派は、動きこそないものの、何やら先程までとは異なる気配を出しているように思えた。


『手出しはするな。我々が戦う相手は国内の者ではない、それを忘れるな』


「忘れるものか・・」

 軍部からの言葉を思い出し、程軫は独り呟いた。

 以降、彼女は止まれの合図を出すまでの間、沈黙し続け、最後に。

「今日は(かがり)は使うな」

 とだけ言った。





 田牽(デンケン)たちは自分たちの兵と共にいた。

 彼等は軍人ではないのだから、ここにいても何もできないわけだが──。

 陽動として数を揃えるため、持てる全ての兵を出したことで身辺が手薄になる事を恐れた。

 自分たちが常にそうであるよう、雍白派の者も、こちらを監視している。特に田牽のような派閥の重鎮となれば尚更と思われた。目敏(めざと)い者ならば、兵のいなくなった隙を狙うかも知れない。


「もう十分な距離ができました。このまま予定地まで一気に引きたいと考えております」

 軍をあずかる指揮官は、田牽たちに向かって、こう述べた。

「ああ。お前に任せる」

 田牽が代表して応える。

「かしこまりました」

 指揮官は言って、馬車の扉を閉めた。ほどなく止まっていた馬車は再び動き出す。


「これで私達の役目も終わりですが、向こうはうまく行ってるでしょうか」

「普通に考えて行ってもらわねば困る」

「最悪ゆかずとも我等に損はないしな」

「しかし田牽殿、このままでは私達の立場は弱まりませんか?」

「表面上はな──。だが、実際のところ、周国に話を取り付けてるのは私であり、段取りをしているのは貴殿らだ。他の者は太子と一緒に乗っかってるだけに過ぎん。私達なしには話は進まぬよ」

「なるほど、確かにそうですな。この馬車と同じで、御者がいなければ乗ってる者ではどうにもできませぬからな」

「いや、それはお主だけであろう。わたしは馬車ぐらい動かせるぞ」

「私もたぶんできますよ」

「なんと──。では、その節は何卒よろしくお願い申し上げる」

 言って慇懃(いんぎん)に礼をする一人。

 それを見て田牽たちは笑い声をあげた。



 馬車から笑声が()れている。

──のんきなものだ。

 指揮官の男はそう思った。

──行楽か何かと同じようなものなのだろう。

 自分たちの雇い主である高官たちの心中を、そのように想像した。

──まぁ給料はいいから文句はない。

 高官たちの私兵は正規軍よりも給金がよく、特に指揮を任される者は顕著だった。

 男は空を見上げ、暗くなる前には着くだろうと目算を立てた。

 そのとき──。


「報告、雍白派の軍が急速に距離を縮めて来ています」

 殿(しんがり)からそう連絡がくる。

──今更やる気を出したのか。

 指揮官も今日はもうないと思っていただけに、意外であったが、特に慌てることはなかった。対処は初めから予定されていた。

「全軍停止して、防御態勢をとれ」

 そう指示を出した。

 相手の兵力は四百程で此方(こちら)よりも多かったが、この程度の兵力差なら、守りを固めてしまえば手詰まりになると見込まれた。それでも強引に攻めてくれば、犠牲は相手の方が多くなるはずで、高くつく私兵を殊更に失う愚をおかすことはないだろうと考えられた。


 太子派の軍は停止すると共に、守勢の構えを取る。

 対する雍白派の軍は止まる事なく、前進を続けながら、徐々に構えを鶴翼につくった。その事で、太子派の兵は相手も一旦停止するだろうと思った。薄く広がるような形になるので、全軍で突撃するような陣形ではないのだ。

 が──、雍白軍は止まらなかった。

 多くの者が(いぶか)しんだが、相手の中央を見て納得せざるを得なかった。


 そこにいたのは派手に目立つ青緑の集団。

 今まで何度も挑んだが、四十足らずの数で何倍もの味方を蹴散らしてきた相手。

 実際に戦った者も、話にしか聞いてない者も、所々血で汚れている彼等を見て、等しく恐れた。

 しかも今回は、どういうわけか沢山いる。

 四十ですら圧倒的であったのに、眼前のそれは百を超えているように見える。

──もしこのまま、あれの突撃を受けたら!?

 太子派の兵は不吉な未来を予感して浮き足立った。

 そしてそれはすぐに現実として迫ってきた。


 ワッーっと喊声(かんせい)を上げながら雍白軍の全軍が突撃してきたのだ。


 勢いよく駆けてくる、敵。

 距離が近づくと、青緑にくっきりと残った血の跡が見て取れる。

「無理だぁ! あいつらは! この数は無理だ!」

 誰かが叫ぶ。

 その恐怖の感情は瞬く間に前線に伝播した。

 雍白軍が突っ込んだ。太子派の軍もそれを受け止めたが、すぐに腰砕けに崩れ始めた。雍白派はそれを見逃さず、更に果敢に攻めた。

 結果、この日一日の対峙が嘘であったかのように、あっさりと太子派の軍は崩壊した。


 指揮官の男は戦闘の継続を断念し、撤退を指示した。

 すぐに軍が後退を開始する。

 この攻防の展開は誤算であったが、彼は冷静さを失っていなかった。間もなく日が落ちる、夜陰に紛れれば逃げるのは容易く、追うのは(かた)いと判断した。

 そしてその通り日は落ち、宵闇(よいやみ)が太子派の軍を隠そうとしていた。

 指揮官はこのタイミングで全軍の方向を変え、予定地ではなく長陽へ直接戻ることを選択した。これまでの方向から、こちらの進路は推測されるおそれがあり、それでは闇の意味がないからだ。



 しばらくして──。

「敵はこちらを見失った模様」

 殿からの報告が入る。

──(ようや)くか。

 指揮官は思った。

 実際はそれ程の時間でもないのだが、逃げる間は、時が異様に長く感じられた。

「よし歩速を落とす!」

 太子派の軍は走るのをやめた。

 その直後だった──。


 前方に一斉に明かりが付いた。松明(たいまつ)の明かりだ。数は百以上ある。

「待ち伏せだぁー!!」

 兵が叫ぶ。

 それで全軍は大混乱に(おちい)った。

 指揮官は何とかそれを抑えようとしたが、兵士の狼狽(ろうばい)(はなは)だしく、彼の制御を完全に離れた。

 その状況で、追撃の雍白軍に発見された。


 そこからは最早、軍の戦いでも撤退でもなかった。

 太子派の兵は、ただひたすらに逃げ惑い。雍白派の兵はそれを討ちに討った。

 指揮官は高官の馬車を守ることだけを考え、なんとか命からがら離脱した。



 指揮官の男は、時間が経ってから落ち着いて考えた。

──あれは雍白軍ではなかった。

 松明の軍勢のことだ。

 おそらく野営していた正規軍だろう。こちらの気配を感じ、明かりを付けたところ、それを待ち伏せと兵が勘違いした。

──なんであんな所に。

 思ったが、すぐに自分が進路を変えたせいだと思い至った。


 指揮官は、どのように言い訳したものかと、うなだれた。

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