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無双xロジスティクス ~落ちこぼれ部隊?いいえ、最強実践部隊です~  作者: テンチョウ
第二章 ~敷く擬石、咲く造花~

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第40話 乾布ない

 余計な事だというのはわかっていた。

 上からは手出し無用とも言われていた。

──されど、口出しぐらいならよかろう。

 と、程軫(テイシン)は自分を納得させた。



 伯陽(ハクヨウ)の南西に太子派と(おぼ)しき私兵集団が現れた。

 数は三百程であったが、今や雍白(ヨウハク)派の拠点ともなっている伯陽の(そば)だけに、二派の戦いが起こるのではないかとの危惧が高まった。

 当然、雍白派の兵も出てきて、両軍が(にら)み合う状態になっていた。


 軍部はこれまで通り、二派の争いには介入しない方針だが、街を戦場にされるわけには行かないので、あくまで戦禍の防壁として程軫に出動を命じた。



 程軫は伯陽の南側に布陣すると、部下にその場を任せて、自分は伯陽の街にある雍白の別邸に向かった。

 普通はそうそう会えるものでもないが、事態が事態だけに、説明を求めるという(てい)で雍白への面談を取り付けた。


「また会えて嬉しく思います。少佐」

 雍白はそのように言った。

 社交辞令であるとわかっていても、王女に言われると気分がいいものだと程軫は思った。

「私達も伯陽を巻き込む気はありません。向こうの兵が出てきたので、こちらもあわせて出したまでです。当方から仕掛ける気はありませんから、事情を聞くのならばあちらの方が適当でしょう」

 程軫に対して兵の理由を述べたものだ。

 軍の少佐が説明を求めて来ているのだから、真っ当な対応であろう。


 しかしながら程軫は、真実それを求めて雍白を訪ねたわけではない。

「なるほど、よくわかりました──。ところで、殿下の親衛隊、たしか袁勝とかいう者が率いていた部隊は今どこに?」

 程軫の問いに、雍白は少し意外だという顔をしたが。

「既に知っているでしょうが、彼等は交易品の輸送を(にな)っています。そうですね──、今頃は国境近くまで行っている頃ではないでしょうか」

 と、返した。

──遅かったか・・

 程軫は自分の行動が徒労に終わったと悟った。

 その落胆ともいえる心の動きは、僅かながら彼女の目にも表れ、雍白はそれを読み取り。

「少佐。なにかありましたか?」

 と、聞いた。

 程軫は気後れする自身を認識したが、(はら)に力をいれて。

「これは私の独り言だと思ってお聞き下さい」

 最初にそう断って。

「私の見るところ、太子派の兵に戦意はありません。その気になれば五百以上の兵を動員できるのに、三百程で伯陽の近くに集まり、ただじっとしている。単に威力行為とも取れますが、これまでの彼等の行動からは少しずれています。あまり意味のある事には思えません」

 程軫は一呼吸置いて。

「ではなぜ、そんな事をしているのか? そう考えたとき、これは陽動だと思いました。雍白派の兵を引き付ける目的で出てきたのだろうと──」

 そこまで言ったとき、雍白が突然立ち上がり──。

 (しば)し硬直したのち、また座った。


 何とかしようとしたが、何もできないとわかった。

 程軫は雍白の動作を、そのように解釈した。


──現状、やれることはない。

 今、北に援軍を送っても間に合わない公算が高い。しかも三百の軍に背を向けるわけにはいかず、戦力を分散させることになる。敵は周到に準備していると思われ、兵力も十分と見込まれる。輸送隊を救うことは勿論、物資の奪還も不可能に近い。唯一できることは、目の前の三百を叩くことだが、相手が戦いを避けようとすればそれも難しい。

──賢い方だ。

 皆まで言わずとも、雍白はその結論に辿り着いたのだと、程軫は思った。


 雍白は何かをじっと考えている。

 程軫は、もう自分にも口出し出来ることはないと判断し。

「殿下。私はこれにて失礼させて頂きます」

 言って頭を下げると。

「大儀でありました」

 そう返ってきた。

 その声に乱れは感じなかったが、程軫は雍白の顔を見ることはせずに立ち去った。





 ここしばらく敵の気配がなかった。

 (いぶか)しんだ百鈴は偵察のとき、特に念入りに調べたが、何も発見できなかった。

 馬豹は何も言わないが、彼女もまた不穏なものを感じているようだった。

 そのような百鈴たちの警戒心が伝播したのか、隊員たちにも若干の焦燥が漂った。彼等は自身のそれを紛らわすためだろうか、自主練には、より力が入ったように見えた。

 ただ一人、袁勝だけはいつもと変わらず、第三輜重隊の面面は彼の姿を見て無意識に心を落ち着かせた。



 集合地点には既に輜重隊が来ていた。

「お疲れ様です。大尉」

 第十一隊の隊長が袁勝に挨拶をする。少し前の人事で交代になり、今は中尉の女が務めていた。

「早いな。先輩より先になどとは考えない方がいい」

「はい。気を付けます」

 兵站部運搬科の常設輜重隊は二十一あり、袁勝はその中でも古参の隊長で、大半は後輩なのだ。

 十一隊は荷下ろしが済んでいて、第三隊の荷車から直接自分たちの方へと移し始めた。百鈴たちも、それが終わるのを待つばかりでは退屈なので、一緒になって手伝った。


 そんなときだった──。

「大尉! 敵です!!」

 馬豹の声が響いた。

 百鈴が気付いたときには、集合地点の前後を挟むような形で、それぞれ三百程の敵兵が姿を現していた。

──回り込まれた?

 百鈴が真っ先に疑問に思ったのがそれである。

 第三隊を捕捉し、密かに追跡してきたとしても、あれ程の数を気付かれずに反対側へ移動させることができるだろうか。また、回り込ませるとしても、退路を断つ目的ならばもっと少数でもいいはずで、それも不可解であった。

「うあぁぁぁあぁぁ」

 十一隊の者が脅えの声を上げる。

「た、大尉──。これは、どうすれば・・」

 隊長の中尉も青ざめている。

 他にもざわざわと恐怖が広がっていく。


「鎮まれぇぇぇ!!!」


 馬豹が霹靂(へきれき)の一声を放つ。

 それで声はピタリとやんだ。

「中尉」

 袁勝が言う。

「は、はい!」

「敵は第三隊が受け持つ、十一隊は荷車で防壁をつくり防戦に徹しろ。輓馬(ばんば)は外して、俺たちの荷車は横倒しにしても構わん。縄で結んで簡単に崩されぬようにしろ」

 それだけ言って。

「急げ!!」

 大喝した。


「第三輜重隊、戦闘準備!」

 袁勝、馬豹、百鈴、他三名は騎乗し、残りの隊員は剣を抜き、槍を手に取った。

「後方の三百に一撃加えたのち、取って返し前方に当たる。一撃の方は蹴散らすだけだ、あとの方は徹底的にやる。いいな」

「はい!!」

 皆が一斉に応える。

 袁勝は頷くと。

「進撃!!」

 その大喝で青緑の集団は走り出した。


「馬豹、百鈴はぶつかる少し前に飛び出てスキルを誘え、そのあと俺と三人だ。方倹(ホウケン)!」

「はい!」

「お前は最後尾で追撃を(しの)げ! 騎馬が来るまで持ちこたえろ!」

「了解!」

 敵が目前に迫る。



〔 窮鼠噛獣 〕



 第三輜重隊が真価を発揮する。

「今だ!!」

 袁勝の合図で馬豹、百鈴が飛び出す。脱兎の勢いで敵に攻め寄せるが、一歩とどまり、相手の攻撃を誘って()なす。続けて袁勝ら四騎が突っ込み敵を穿(うが)つ、そこに歩兵がねじ込むように押し寄せて蹴散らした。

 すぐさま左に旋回し、(さえぎ)る者を押しのけながら、もう一方の三百に向かう。逃がすまいと追い(すが)る敵の頭を、馬豹以下五騎が潰す。

 五騎は取って返し、一団の先頭に付いて、そのまま相手にぶつかるかというときになって分離し、先に袁勝が率いる歩兵たちが敵に突っ込んだ。五騎は歩兵の背後を取ろうとする敵に対して苛烈に当たり、指揮者と思われる者は(ことごと)(ほふ)った。

 歩兵たちも班ごとに分かれ、連携を(もっ)て次々に敵を(むくろ)に変えた。


 だがその間に、初めに蹴散らしたもう一方が十一隊に襲いかかろうとしていた。

「馬豹! 部隊を任せる、こちら側の指揮官を討て!」

「了解!」

「百鈴は俺と来い!」

「はいっ!」

 言うや否や、袁勝は荷車の防壁へ疾駆する。遅れまいと百鈴も続く。彼女の方が寸分速度がある、おそらく馬の差異であろう。

 十一隊の隊員が、槍を突き出して応戦している。

 そこに二騎が飛び込む。



〔 抑梟扶雀(ヨクキョウフジャク) 〕



 袁勝は防壁にとりつく敵を続けざまに斬り伏せる。百鈴は槍と剣の同時持ちスタイルで、敵を派手に威嚇しつつ、近づく者を容赦なく仕留めた。

 返り血を撒き散らし、剣と槍を振り回す百鈴の姿に多くの敵は(ひる)んだ。

 時を同じくして──。



〔 脱兎捉爪 〕



 指揮官を見付けた馬豹は、相手が逃げに転じる隙も与えずに肉薄し、これを討ち取った。

 そしてすぐに。

「反転する!」

 隊を袁勝たちの元へと走らせた。


 その勢いと、前方の三百が壊滅状態になった事を受けて、後方の指揮官は撤退を決断した。

 彼等は過去の経験から相手は深追いはしてこないと踏んでいた。

 だからであろう──。

 その逃げ足には、どこか甘えがあった。


 袁勝たちは敵の殿(しんがり)に猛然と迫ると、背中から突き殺して、更に邁進(まいしん)した。

 この時点になって指揮官は全力の逃走をしようとしたが、遅きに失し、馬豹、百鈴に食いつかれて絶命した。

 結果、前後三百ずついた軍はそれぞれ潰走し、兵達は散り散りに消えていった。


 しかしそれでも第三輜重隊の余勢は尽きず、敵の塊があれば余すところなく打ち砕いた。



 彼等が足を止めたとき、その姿には、青緑の名残はなかった。

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