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無双xロジスティクス ~落ちこぼれ部隊?いいえ、最強実践部隊です~  作者: テンチョウ
第二章 ~敷く擬石、咲く造花~

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第35話 自分の仕事

 田牽(デンケン)参内(さんだい)した雍白(ヨウハク)を見て、苦々しく思った。


 田牽たち太子派の打った雍白を捕らえる手立ては、失敗に終わった。

 軍を動かすまでは(うま)くいったが、雍白を拘束させるまではゆかず、私兵のみであたる事となった。

 しかし、親衛隊なる雍白の私兵が手強く、こちらの隊長が死んだこともあって、みすみす彼女を取り逃がした。

 雍白は馬車のみで帰ってくると考えていた田牽らは、いつの間に兵を用意したのかと不思議であった。


「姉上を捕らえるのではなかったのか?」

 太子に言われた。

「雍白様は兵を用意していた模様で、それに(はば)まれました」

()国にいながらどうやって──、いや、なぜ兵が必要とわかったのだ。こちらの情報が向こうに漏れていたのではないか」

──確かに・・

 太子派の勢力は、このところ拡大を続けている。だがその中に、雍白の息のかかった間者がいたとしても何らおかしくはない。此方が雍白派の動向を探るように、向こうもこっちを探っていると考えるのが自然だ。

 考えてみれば、太子派が周国から援助を受けているのも秘密であったはずで、それを雍白派が知ったために、彼等も密使を送ろうとしたのではないか。

「聞いておるのか!」

 太子の声が田牽の思考を中断させる。

其方(そち)がしっかりせねば、勝てるものも勝てなくなるぞ」

 彼は叱責をしているつもりらしい。

──(もっと)もらしいことを言いおって・・



 田牽は自分たちの絶望を理解し、共に新しき道を歩もうという太子の事を、英邁(えいまい)な主君と思っていた。自分のことはもとより、この方の将来をと考え行動してきた。

 だが長く接するうち、次第に、その軽薄さが見て取れるようになった。

 太子の言葉は至極尤もなことが多い。

 聞けば皆が、そうであろうと納得するような事を言う。喋りも巧い。

 しかしながら、その話に具体性は全くない。

 最初はあえてそうしているのかとさえ考えたが、自分で何かを捻出する事はなく、どれだけ探しても芯の部分は見つからなかった。

 彼の語ることは徹頭徹尾うわべの理想であり、その中身は空っぽである。そうでなければ今回のようにダメ出しをするか、疑問を呈するかのどちらかだ。


 それもまた王の姿とは、田牽も思う。

 ()りとて、これから新道を開こうという者の姿ではなく。極端に表せば──。

──いてもいなくても同じだ。

 田牽は、そう結論付けた。



 斯様(かよう)なわけで、田牽としてはこの有口無行(ゆうこうむこう)の男をとっくに見限っているのだが、今しばらくは人を集める山車(だし)として利用するつもりであった。

「おっしゃる通りであります」

 言って(うやうや)しく頭を下げる田牽を見て、太子は満足したようであった。





 雍白の親衛隊こと第三輜重隊は、伯陽(ハクヨウ)の輸送基地に逗留(とうりゅう)する事になった。

 一行の防具は新しい物になり、再び明るい青緑の集団となっている。


 隊員たちは用意された荷車の点検、整備を行い、実際の使い勝手などを確認した。また、馗国とは違い輓馬(ばんば)が多いため、その誘導を実践して慣らしていた。

 袁勝は雍白派の高官や商人たちと、今後の輸送計画について話し合っていて、馬豹もその手伝いに付いていた。

 で、百鈴はというと──。


 やることがなかった。


 たぶん輸送が始まれば、なんやかんや書類仕事など雑務がありそうであったが、まだその段階になく、ひとりだけ()()()()しまった。

 隊員たちを手伝おうにも、実際の彼女の仕事は騎兵なのだから、ここでそれをやっても意味はなく。馬豹の補佐以上の手伝いができるわけでもない。

──ガチで仕事がない。

 無いならないで、のんびりしようとならないのが百鈴の思考で。彼女は自分も何かやらねばと、若干の焦燥をもってやる事を探した。


 と、ここで輸送計画のルートが複数あることを思い出した。

 百鈴たちが伯陽に来た道の他に、東側の大きな街道、西の街道、その間の細い道、西の街道より更に西の周国との国境に沿うような道があった。

 距離が短いのは東の街道であり、それがメインとして使われることは間違いないが、任務の性質上、あえて遠回りをすることも十分ありえた。

──いざ運行が始まったら調べてられないな。

 そう考えた百鈴は。

「私は道を下見してくる」

 そう隊員に告げて、馬に乗って伯陽を出た。

──次に使うとしたら西の街道だろう。

 二番目の選択肢として考え、百鈴は馬を走らせた。



 しばらくして、百鈴は後ろから数騎が追ってきているのに気付いた。

 何者かは知らぬが、単に呼び止めたいだけなら単騎で疾駆すれば済む話なので、それだけでは終わらぬだろうと見当をつけた。

 なので、そこから百鈴は一気に速度を上げた。

 先陣を切ったときも感じたことだが、この馬の加速力は段違いだった。今日は槍も持っていないため、そのぶん駆ける事に集中でき、更に速度は上がった。

 結果、後続する者らを完全に突き放して、百鈴は彼等の視界から消えた。



 西の街道を三分の一ほど進んだところに集落があり、そこで休憩した。

 百鈴と馬の青緑が珍しかったのだろう。

 好奇心旺盛な子どもが何人か集まった。そしてそれに釣られて大人も集まってしまった。で、あれやこれやと質問される事となったが。

「王女殿下の親衛隊です!」

 と、胸を張った百鈴は。

「道について調査をしています」

 と、それっぽく設定をつくり、街道についての情報を得た。

 話を聞くに──。

 ここまでの道もそうだったが、この先も特に難所のような場所もなく、平坦で荷車も進みやすいという。途中に他の集落もあり、そこで休息もできそうであった。

──この道は問題ないだろう。

 思った百鈴は、追われたことも早めに報告せねばと、帰る事を考えたが。

──今、戻ったら鉢合わせるな。

 例の騎兵たちがいるかも知れないと想像した。

「他に伯陽への道はありませんか?」

 百鈴は尋ね、少し戻ったところに細い道に通じる横道があると聞かされた。

 戻ることに若干の戸惑いはあったが。

──結構突き放したし、いたとしても、もっと先だろう。

 相手は自分を見失った時点で追いつけぬと悟り、待ち伏せに切り替えたと推断した。


 百鈴は教えられた通り少し戻り、横道に入った。

 それなりに往来はあるのか、思ったよりかはしっかりした道だったが、勾配があるところが幾つかあり、荷車を引くとすれば難儀しそうではあった。


 進んだ所で別の道にぶつかった。

 おおよそ南北に走っているから、地図上で東西の街道に挟まれる細い道がここで間違いない。

 百鈴は針路を南に取り、伯陽を目指した。

 道は少し荒いが、百鈴たちが来たときの裏道と同じぐらいであったから、輸送も問題ないと思われた。道中、横道があり、たぶん東の街道へと通じるのではないかと思ったが。

──とりあえず報告が先だ。

 と、帰還を優先し調べるのは控えた。



 もう間もなく道も終わるだろうというとき、前を塞がれた。

 どこかに隠れていたのか、後ろもだ。

 前後に二騎、計四騎が百鈴を囲む。

「雍白の親衛隊の者だな。命が惜しくば一緒に来てもらおうか──。言っておくが、逃げられぬぞ。良い馬に乗っているようだが、ここまでで随分と疲れただろう。無駄なことはせん方が身のためだ」

 前方の一騎が言った。

 百鈴の読み通り、待ち伏せされていた。

 違ったのは、来た道ではなく、別の道に伏していた事だ。いや、もしかしたら、複数の道に配していたのかも知れない。


 百鈴は静かに剣を抜いた。

 四騎も槍を構えた。

「ハッ!」

 気合いと共に百鈴は馬腹を蹴って前方に飛び出る。相手も待ち構える態勢をとるが、それを見るや否や、百鈴は反転する。間を詰めようとしてきた後方の二騎、(はな)から彼女の狙いはこっちだ。

 出だしの足並みの乱れを狙う。

 手前の一騎を()なすにとどめ、もう一騎の攻撃を紙一重に()らし、即座に相手の首に剣を突き刺して()いだ。

 派手に血が飛び散り、青緑の装備は、また汚れた。

 その所為(せい)であろうか。切り返した百鈴の目に映る敵には逡巡(しゅんじゅん)があった。

「ハァァァアッ!!」

 勝機を見た百鈴は、()して気合いを発し一騎を斬り伏せる。

 それで前方の二騎は逃げに転じた。

 百鈴は倒した者の槍を奪うと、即座に追走、更にもう一騎を落とす。あと一人と思ったが、ここで馬の疲れが見えたため追撃は断念した。



 百鈴は空馬を捕まえたが、一頭はどこかへ行ってしまったようだった。

「どのみち三頭は難しい」

 と、二頭を引く形で伯陽へ向かった。

 が、しばらく進んでいると後方から行方不明だった空馬が駆けてきて、何故だか百鈴たちと合流した。

「寂しいなら付いておいで」

 百鈴は声を掛けて、引かれる二頭と一緒に連れ帰った。



 基地に戻ると百鈴は。

「待機するのも仕事だ!」

 と、馬豹からお説教を受け、基地の人に頭を下げて、また綺麗な装備を用意してもらい。

「お前が拾ってきたのだから、自分で面倒見ろ」

 と、馬の世話をすることになった。

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