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無双xロジスティクス ~落ちこぼれ部隊?いいえ、最強実践部隊です~  作者: テンチョウ
第二章 ~敷く擬石、咲く造花~

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第27話 孟国の二派

「戦力は十二分(じゅうにぶん)だったはずだが」

 田牽(デンケン)は過去を確かめているのではない、理由を問うている。

「まず──、包囲が破られたのは、護衛の兵が捨て身で戦ったためと思われます。次に、騎馬の追走が失敗したのは、()国の部隊と遭遇し指揮官がやられたからだと。その後の夜襲は、同じ馗国の部隊ですが、待ち構えていたようだったと報告があります」

 側近の男は脂汗を流しながら答える。

 別段、彼に責任があるわけではないが、良くない結果を聞いた主が怒り出すかも知れず、その矛先が自分に向くことをおそれた。

「損害は?」

 聞きながらも、田牽は書類に目を走らす。

「最初に三騎がやられ、一騎が──」

「合計でよい」

 順に語り出したのを(さえぎ)って言う。

「さ・・三十一です」

 答えたが、反応は返ってこない。


 室内には、田牽の書類をめくる音だけがして、男は自分のつばを飲み込む音でさえ気になった。


「今どこに?」

 書類を見たまま田牽は聞く。

「馗国の坤門(コンモン)に着いている頃かと・・」

 それは、手の届かぬ所まで逃げてしまった、というのを意味していた。

 田牽は書類を置くと。

「ところで、誰であったかわかったか?」

 馬車に乗っていた人物についてだ。

「いえ、女であるとだけしか・・」

「うむ──。まぁいい、がめつい馗国の事だ、余程に利を提示しなければ動くまい。動いたとしても、それまでには此方(こちら)地均(じなら)しは済んでおるだろう」

 田牽は続けて。

「引き続き、雍白(ヨウハク)派の動向を探らせろ」

「はい」


 田牽は手で、もう行けと示し、男は何事もなく報告を終えたことに安堵した。



 (モウ)国は、馗国と(シュウ)国に挟まれるように存在しているが、山脈があるせいで、実際の国境のほどんどは周国と接していた。

 小国ながらも独立を保ってきたが、ここに来て周国の圧力が一層強まり、威力行動に悩まされるようになった。

 その対処をめぐって孟国の中枢は二分された。


 一つは領土の割譲をもって融和を考える者たちで、太子が後見となっているため、太子派と呼ばれた。南東部の防衛の難しい地域を放棄し、守りの堅い地域だけで国を維持しようというのだ。

 もとより孟国の産業は(ケイ)国、馗国との交易に依存しており、そこから遠い南東の地域は、周国の威力行為の影響もあって、廃れていた。

 太子派は、これは適度に木を間引き、不要な枝を落とすようなもので、桃の木を守るためにスモモの木を切り倒す、李代桃僵(りだいとうきょう)の策だと主張した。


 これに異を唱えたのが雍白派だ。名前は、太子の姉である雍白が後見になっているためだ。

 雍白派は、太子派の主張は希望的観測に過ぎず、領土を渡したからといって、周国の圧力が弱まる保証はないと反対した。

 加えて、これは脅しに屈し剽掠(ひょうりゃく)を許すようなもので、(かえ)って周国を勢いづかせ、国の存続を危うくする愚策であると断じた。


 両者の対立は深まり、水面下では、血で血を洗う闘争へと発展した。

 そしてその過程に()いて、太子派が周国の援助を受けるようになり、雍白派は次第にその勢力を弱めた。

 (きゅう)した雍白派は、隣国の経国、馗国に救いの手を求め、密使を放った。



 田牽は、雍白派の動きを掴み、密使の暗殺を命じたのだ。

 当然、彼は太子派になるわけだが、田牽自身──。いや、少なくない太子派の者たちは、孟国の存続に限界を感じており。太子が次の王になった暁には、孟国自体を、周国に譲渡しようと画策していた。

 国はなくなるが、王と自分たちは周国から爵位を受け、それなりの生活ができるというわけだ。

 此度(こたび)の李代桃僵の策も、その第一段階といった位置づけで。それを妨げる雍白派は、田牽としては意見を(こと)にするというだけではなく、利害をたがえる存在として邪魔だった。


「思いのほか、高くついたな」

 田牽は独り呟いた。

 手勢の損失のことだ。

 今や孟国では、高官たちが護衛という(てい)で、多くの私兵を抱えるようになっていて。二派の闘争も、その私兵たちによって繰り広げられた。

 田牽はその中でも多く、百を超える数を有していたが、当然の事ながらその維持は大変だった。また、失った分の兵を新たに集めるには、維持するよりも費用がかかり、頭の痛い話であった。


 ちなみに、前述した周国の援助は、主に太子派の軍費をまかなうのに使われた。


「何の部隊だったか聞くのを忘れたな」

 今頃になって、襲撃を退けたという馗国の部隊が気になったが。

──もう済んだことだ。

 田牽は頭を切り換え、忘れる事にした。





 馗国の南西の街、坤門に到着した。

──ここまで来れば、追っ手は諦めよう。

 雍白は思った。



 国境近くで待ち伏せに遭ったが、護衛が命懸けで戦っている隙に突破し、なんとか馗国の領内に入った。しかし騎馬の追撃を受け、振り切れず、追いつかれるのも時間の問題かに思われた。

 そんなとき、偶然通り掛かった馗国の輜重隊に属する二騎に助けられた。

 その二騎は──。

 雍白の馬車の御する男も十人力の猛者(もさ)であったが、彼をして。

「あれほどの槍捌(やりさば)きは見たことがありません」

 そう言わしめる程の精兵だった。

 雍白は熟考し、遠回りになるが()えて輜重隊についていくことを選択した。馬車の馬にも相当無理をさせたので、今度追われれば、捕まるのは確実だと考えたからだ。

 輜重隊の隊長はそれを承諾し、雍白は彼等のあとに続いた。


 日が傾き、夕餉(ゆうげ)の準備も一段落といったとき、あの精兵二人が立ち合いをはじめた。

 雍白は武を知らぬ者なので、判断は出来かねたが。

 御者は。

「剣の腕も尋常ではないです。正直、あれと戦うのは嫌です」

 そのように評した。


 深夜、突然の足音に飛び起きたが、雍白が外を確認しようとしたときには既に戦闘は始まっていて。馬車に近づく敵は、精兵の二人が倒していた。

 雍白は。

「ここはもう大丈夫なので──」

 と、部隊の他の者たちを気にかけたが。

「追撃!!」

 と、隊長の男の声がして、隊員たちは敵を次々に(むくろ)に変えた。


 空が白むと、彼等は敵の武具を集め、それを荷車や昨日鹵獲した馬の背に載せた。

 そして、何事もなかったかのように出発した。


 雍白は、騎兵の二人ばかりでなく、他の隊員も精強だと知って。

──馗国はあれほどの兵を、なぜ輜重隊などにしておくのか?

 そう疑問を持たずにはいられなかった。


 その後、追っ手が現れることはなかった。



 輜重隊は一旦軍営に鹵獲品を納めてから、南の国境へ向かうのだという。

 雍白は彼等に感謝し、慰労の気持ちとして金子(きんす)を渡そうとしたが、固辞された。

 雍白はせめてと思い、深く深く頭を下げ、彼等と別れた。


 雍白は、馗国の首都、九門を目指す。

「第三輜重隊か──」

 彼女は馬車に揺られながら、自身の目的と、彼等の存在を重ね合わせて思考をめぐらせた。

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