第25話 四度目の正直!?
馗国の西端、ここは西に経国、その少し南に周国、そして周国と馗国に挟まれるような形で孟国、四ヵ国の国境が重なり合う地点であった。
その線引きはかなり曖昧であったが、経国、孟国とは割と友好的な関係を築いていたのもあり、互いに許容しあう事が多かった。
周国とはイマイチ噛み合わなかったが、これまで大きなトラブルは起きてはいなかった。
第三輜重隊は、九門から五日をかけ、西の国境付近まで来ていた。
新しく隊に加わった者たちも、三日目ぐらいになれば要領を掴んだのか、緩やかな道では隣の者と話すぐらいの余裕があった。
隊の皆が、あと少しで到着するという認識を持ったか、というときだった。
一乗の馬車が、輜重隊の進路を横切るように走った。
それ自体はどうということはなかったが、馬車の速度は尋常ではなく、その理由はすぐに判明した。
馬車は武装した騎馬の集団に追われていたのだ。
わかり易く覆面などしているので、賊徒であろうと思われたが、輜重隊の機動力ではどうにも出来ない相手でもあった。
──せめて、こっちに逃げてくれれば助けられるのに・・
百鈴が思ったのが通じたわけではあるまいが、馬車は方向を変え、第三輜重隊へ向かって駆けてきた。
しかしそのことで、小回りの利く騎馬に追いつかれる結果となった。
「馬豹、百鈴!」
袁勝が呼ぶ。
二人が素早く彼の元へ行くと。
「馬豹は先駆けの者を、百鈴は賊を観察し、指揮官と思われる者を討て」
そう命じる。
「了解!」
言うや否や、馬を疾駆させる二人。
相変わらず馬豹は速いが、百鈴も短時間なら、そこそこ付いていけるようになった。
賊の先頭が馬車の前に回り込もうとしている。
〔 脱兎捉爪 〕
馬豹がスキルを使い一気に加速する。
そして賊が気付いたときには、馬豹の槍は相手を貫いた。
百鈴は全力であとを追いながら、賊の動揺の具合を見て取る。
想定外の事態に、冷静に状況を把握し、次の一手を考える者──。
──あいつだ!
百鈴は馬豹に意識が向いた賊の虚を突くように駆け寄ると、他の者は最低限に往なすにとどめ、狙いを定めた者に体当たりするような勢いで向かって行った。
──毎度、毎度、逃してなるか!
百鈴は槍を短く持つ。
先に相手の間合いがくる。
先手を取られるが構わない。
百鈴はもとより後手番のつもりだ。
鋭い槍が百鈴を襲う。
──大したことない。
馬豹に比べれば、児戯に等しい突き出しだ。槍をあわせてギリギリで躱す。
百鈴の間合いに入った、このまま突き刺す。
〔 鎧袖堅守 〕
だが相手は小手を巧くあわせて百鈴の攻撃を防ぐ。
──今回こそは仕留める!
百鈴は防御された瞬間、槍を手放し、すれ違いざまの抜剣で相手の首を撥ね飛ばした。
続けて後続の一騎の腕を切り落とし、その隙にと向かって来た者は、馬豹が代わりに仕留めた。
二騎はすぐに賊から距離を取った。
「ありがとうございます」
「いや、よくやった」
馬豹のフォローと、百鈴の殊勲、それぞれに称える。
賊は統制を失った感があったが、すぐに方向を変え、まとまりを持ったまま撤退した。
「二番手の指揮者がいたか・・」
馬豹が言う。
ならば、只の賊徒ではないかも知れないと百鈴は思った。
「戻るぞ」
「はい」
二人は袁勝の元に帰参した。
──凄まじいな。
方倹は思った。
馬豹と百鈴の事だ。
立ち合いを見たときから並ではないのはわかっていたが、実戦はより一層、彼女たちの実力をありありと示した。
方倹もそこそこに前線で戦ってきた者だったが。
──あれほどの騎兵は覚えがない。
敵味方問わず、彼の経験では知ることのなかった次元の強さだった。
馬豹が騎馬のスキルを使ったのはわかったが、百鈴のそれは、方倹には判断できなかった。
──なんにせよ、強者だ。
しかれども、鶏群の中の一鶴とも言える存在を目にしても。
「俺たちの出番なかったなー」
などと言ってのける、のんきで頓珍漢な隊員たちには、方倹もあきれた。
件の馬車が輜重隊に近づいて停止した。
中から出てきた女を見て。
──格の高そうな奴だな。
ひょっとしたら、どこかの高官かも知れないと方倹は思った。
──だとすると、さっきのは何者だ?
引き際の良さもあって、只の野盗ではないと見た方倹だったが、女の素性を想像し、彼女を狙った刺客の可能性を考えた。
袁勝が女と話をし、二人で百鈴が討ち取った者の人相を確認したが、知らぬ者であったようだ。
女は何かを袁勝に訴え、彼はしばらく思案していたが、黙って頷き、女は頭を下げた。
その後、第三輜重隊は動き出したが、その後ろを女の馬車が付いてくることになった。まだ近くに先程の騎馬がいるかも知れず、馬車では振り切れないゆえ、街に着くまで同行したいとのことだった。
しかしながら、予定では国境に着いたあとは、輜重隊は南西の坤門へ向かうことになっている。
馬車が途中で別れるのか、それとも坤門まで付いてくるのか、方倹のあずかり知るところではないが。いずれにせよ、一波瀾ありそうだとの予感を持った。
そのような方倹の軫憂を余所に。
「結構イイ女だったな」
などと、隊員たちは軽口を叩いていた。




