第24話 落伍者
馗国の北で、謳国が国境を侵している頃。同じく東の国境では、礼国との小競り合いが起きていた。
よくあることで、大概は睨み合いで終わるのだが、このときは割と強めのぶつかり合いに発展した。
結果、両軍にそれなりの負傷者が出た。
方倹は歩兵隊の中でも、剣での切り込みを主体とする部隊にいて、そこで班長を務めていた。
彼の所属部隊は礼国とのぶつかり合いに参加していて、当然、方倹自身も剣を振って戦った。
方倹は誰よりも勇敢で、仲間思いの男であった。
味方が危なくなったとき、彼は間に割って入って戦ったが、そのとき利き腕を深く切られた。
傷は癒え、腕も問題ないかに思えた。
しかし剣をもって振ってみると、どうにも力が入らず、打ち合ってみると簡単に押し負けるようになってしまった。
結果、方倹は歩兵隊としては戦力外という扱いになり、転属が決まった。
国軍では異動の季節となった。
別段、人事に関して時期が限定されているわけではないが、急ぐ理由もない場合、まとめて処理される事が多かった。
第三輜重隊も例に洩れず転出転入があり、四名が隊を離れ五名が補充された。
以前、犠牲になった三名と、除隊した二名を考えれば、やはり元の状態より少なくなってしまうが、同時に輓馬も一頭追加されたので、隊員の負担は減りそうだった。
補充の五名のうち四人は、基礎訓練後の検査でレベルの低かった者たちだったが、一人はレベル11の元歩兵隊だった。
百鈴は名簿を見て不思議に思い、馬豹に聞くと。
「おおかた、怪我を負って戦いには不向きと判断されたのだろう」
と、推量を語った。
「私達も何気に戦ってますけど、大丈夫でしょうか?」
「まぁその危惧はあるが、袁勝大尉もその辺りは考慮された上での判断だろう。大尉が受け入れると決めた以上、私達が変に気を回す必要はないさ」
馬豹がそう言うので、百鈴も気にしないことにした。
「方倹伍長、いずれは班長にと考えているが、しばらくは他の者に付いて学べ」
隊長からはそう言われた。
──何を学ぶことがあるのか?
荷車の押し方など、教えられるまでもなく誰でも出来ようというもの。荷の積み方にコツはあるかも知れないが、そんなもの学ぶうちに入らない。
斬られたのは自分のミスであり、異動も仕方がないと思っているが。
──もう少しマシな部署であれば。
詮無く思ってしまう。
方倹は子どもが生まれたばかりであったため、軍を辞め、別の仕事を探すという選択は取らなかった。
それは、自分に合う仕事など、すぐに見つかるものでもないのは勿論であるが。軍人には応分の恩恵として、家族が医者にかかった際には、費用の一部を軍が負担するというものがあった。
子どもなど、いつ病気になるとも知れず。方倹としては、今、軍人を辞めるわけにはいかなかった。
たとえ、給与の安い輜重隊であってもだ。
初日は任務がなく、訓練だった。
隊員が連携しての戦闘を想定しているのは興味深かったが、スキル無しの兵がどこまで出来るのか、方倹は懐疑的だった。
訓練が終わり、このあとは何も予定がない状態になったとき。副官と補佐の二人が棒を取り、立ち合いをし出した。
副官は普通に槍として棒を構えているが、補佐の方は少し短めに持ったスタイルだった。
誰が始めと言うまでもなく動きだし、補佐が一気に相手の間合いに入る。副官はそれに的確にあわせて突くが、補佐も巧く軌道をそらしながら、懐に入ろうとする。すると副官は自分から間合いを詰めて、石突きの側で打ち払いに行く。補佐はそれを正面から受け止め、副官はその瞬間に後ろに飛びながら棒を振り下ろす。補佐は食いつくように副官に迫ったが、一歩届かず棒を肩に受けた。
終わった途端、周囲から拍手が起きる。
「軍曹、おしかったですよ」
などと、励ましの声がかかる。
方倹も、二人が予想外にイイ動きをしていたため、思わず見とれていた。輜重隊だと侮っていたが、一線級の実力があるように見えた。特に副官は、達人の領域と言っても過言でないだろう。
──なるほど。お守り役といったところか・・
方倹は二人を、輜重隊を護衛するために用意された者たちとして認識した。
そして、守られる側になった自分を見つめ、情けなくなった。
翌日、第三輜重隊は別の隊が運んで来た荷を積むと、西の国境を目指して荷車を押した。




