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無双xロジスティクス ~落ちこぼれ部隊?いいえ、最強実践部隊です~  作者: テンチョウ
第一章 ~散ずる道、成す小径~

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第14話 負傷者たち

 右側はガッチリと固定された。

 しばらくの間は左腕だけで過ごすことになる。それ自体は大した問題ではなかったが、右腕の力が(おとろ)えてしまう事が予想された。

 医者は懐疑的だったが、軍人の間では適度に動いた方が治りが早いと()われていた。

 于鏡(ウキョウ)自身も、経験則として動いた方がいいと考えていたため、右手の握力を刺激しつつ、傷に差し障りのない程度の速さで走ることを続けていた。


 そこには当然、じっとしているより動いていた方が気が(まぎ)れる、という側面もあった。


 呼延枹(コエンホウ)が死んだと聞いたとき、于鏡は自分も後を追って死のうとした。

 しかし、右肩を負傷していたため、左手でまごついてる間に周りに止められた。

 そして──。

「于鏡殿が追えば、それに(なら)って他にも殉死する者が出ましょう。それは、呼延枹様が望まれた軍の姿ではないはずです」

 そのように説かれ、于鏡は静かに泣いた。


 早く直してしまいたかった。

 自惚(うぬぼ)れだという自覚はある。

 それでも、自分が怪我などしなかったら、呼延枹が奇襲を考える事はなかったのでは・・と思う。

 この傷が、友の死の切っ掛けになった──。

 そのように考えると、于鏡の足は自然と速くなり、それは傷に響いて、更に意識せざるを得なくなるという循環をまねいた。


 ここ数日同じコースを走っているが、日に日に戻ってくるのが早くなっていた。

 今日も予定していたより早めに終わったため、明日からは違う所へ行こうかと于鏡は考えだした。



 兵営に戻ると、妙に静かなのに気付いた。

 この時間は結構人がいるはずだった。

──何か予定があったか?

 于鏡は負傷して以来、直接の軍務は部下に任せていたので、連絡忘れでもあったのではと考えた。

 しかし──。

「于鏡殿!」

 帰ってきた彼を認めた兵が駆けよって来る。

 ただならぬ気配だったので。

「どうした!」

 兵が間近に来る前に声を発した。

呼延吹(コエンスイ)様が突然いらっしゃいまして、呼延枹様の(かたき)討ちをすると(おっしゃ)って、それに賛同した者たちと共に軍を率いて進発なされました」

「なんだと!?」

 于鏡は寸秒、気が遠くなる思いがしたが、すぐに首を強く振って意識を強く持った。

「それはいつのことだ!」

「2時間ほど前です」

「馬は何頭ある?」

「予備のものが数頭だけです」

──足りない。我等だけでは無理か・・

 于鏡は騎馬で追って止める事を考えた。

 軍は歩兵を含んでいるので、騎馬だけで行けば十分に間に合うと思えた。

 しかし、呼延吹の性格を考えるに、数人で行って説得できるとも思えず。ある程度の物理的障害としての騎馬隊が必要だと判断した。

「馬を用意しろ! それで私は本営に行く、急げ!!」

 于鏡は声を発し、兵は素早く動いた。





 第三輜重隊(しちょうたい)は任務を再開した。

 病み上がりという配慮なのか?

 最初の仕事は南の街、離門(リモン)から南西の街、坤門(コンモン)へ運ぶだけの簡単なものだった。

 人員の補充はなく、隊員の荷車を押す負担は増えたが、百鈴(ヒャクリン)は騎乗しているため手伝えることはなかった。

 それでも何かせねばという思いに駆られ、荷の積み卸しには、これまで以上に積極的に(はげ)んだ。

 百鈴のそのような心胆は、皆にも伝わり、階級によるものとは違う敬意を生み出した。

 またそこには、彼女が辞めた者のために身銭を切ったという事実を知られていたのも、前提としてあったかも知れない。

 ともあれ──。

 百鈴自身が気付くことはなかったが、この時より、彼女は本当の意味で輜重隊の仲間になった。


 帰り道は空の荷車を引くだけだった。

 護衛する物が無いので、隊長の袁勝(エンショウ)は騎乗であったが、馬豹(バヒョウ)も百鈴も馬を下り、徒歩だった。

 距離が近くなり、仕事も軽いためか。

「軍曹。喧嘩の件は、どーなったんですか?」

 近くの者に聞かれた。

 既に、百鈴が歩兵隊の者と立ち合いをし、相手を悶絶させた事は知られていた。

 言うまでもなく、流布したのは馬豹だ。

──またあの女は・・

 と、モヤる気持ちを抑えて。

「特に何も──、音沙汰はない」

 百鈴は現状を答えた。

 彼女としても、減給とか、謹慎とか、何かしらあると思っていたので、少々肩透かしではあった。

「それはきっと赤っ恥だからですよ。歩兵隊が輜重隊に負けたとか、他の隊に知られたら、指をさされて笑われますよ」

 一人がそう言って、他の者もそうに違いないと笑い出した。


 実際のところ、査問官は百鈴だけでなく、一緒にいた熊収(ユウシュウ)にも話を聞いていた。

 百鈴の言葉に嘘が無いことは、それで明らかだった。

 加えて、喧嘩の原因と思われる部分に、殉職者への侮辱があったとわかり、百鈴の怒りもやむなしと判断された。またその事で、訴人(そにん)には断章取義(だんしょうしゅぎ)(話の切り取り)の疑いがもたれた。

 結果、馬豹が言ったように、虚偽の可能性が出てきたため、百鈴への(とが)めは見送られた。



 にわかに後ろの方から笑いが起こり、馬豹は何事かと振り向いた。

 彼女の目には、隊員たちと笑い合う百鈴の姿が映った。

──やっとか・・

 馬豹はそう思い、また前を向いた。

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