第13話 呼び出し!?
【タイトル】
百鈴は本営に呼び出された。
大体察しは付いていたが、案の定。
「第二歩兵隊の准尉が、君に怪我させられたと言っているが、確かかね、軍曹?」
査問官が問うた。
これに百鈴は。
「立ち合いをしたことは事実です。ですが、怪我をしたかどうかは分かりません」
と、答えた。
「相手は、君に酒をかけられ、一方的に喧嘩を仕掛けられたと言っているが」
「酒はかけました。喧嘩も売りました。ただ、表に出ろと言った言葉に応じ、用意された木剣を自ら取ったので、相手もやる気十分と見ました」
百鈴は、思いのほか落ち着いてる自分に気付いた。
彼女も自身の事を、どちらかといえば激昂しやすいタイプだと評価していたので、この静穏さは何処から来るのだろうかと、不思議だった。
ひととおり答え終わると。
「最後に、君の方から何か言いたいことはあるかね?」
聞かれたが。
「ありません」
と返して、それで終わりだった。
部屋から退出して少し行った所に、馬豹が待っていた。
彼女は百鈴を認めると。
「帰るぞ」
と、短く言った。
百鈴は、自分のせいで馬豹も何か言われたのではと考え。
「曹長、ご迷惑をお掛けして申し訳ないです」
言ってみたが。
「気にするな。あまりに荒唐無稽なので、しっかり訂正してやったからな」
などと返ってきたので。
「なにを訂正したんですか?」
おそるおそる聞いた。
馬豹は。
「歩兵隊の准尉に怪我させたとか言うからな。うちの百鈴はイイトコの娘で、道楽で兵士やってるレベル3のスキル無しですと。レベル10のスキル持ちに敵う訳がないですと。しかも落馬したばかりの病み上がりですと。怪我させられる事はあっても、怪我をさせる程の力はありませんと。なんたって、輜重隊なんですからと。よって、怪我をしたというのは虚偽、もしくは何かの間違いに違いありませんと──。そう言っておいた」
なめらかに言った。
百鈴には朗朗と語る馬豹の姿が容易に想像でき、一瞬、頭を抱えそうになったが──。
よく考えて見ると、馬豹の言葉は、軍を巻き込んで百鈴に仕返ししようとしてきた相手への、痛烈な皮肉を込めた反論であり。そのような手段をとる者を糾弾する意図を含んでいた。
「曹長、ご配慮、ありがとうございます」
今度は感謝の言葉を伝えた。
馬豹はそれに対しては特に反応はしなかったが。
「腹を突いたそうだな」
と、百鈴がとった行動について聞いた。
「えっ──、えぇ・・」
何を言う気だろうかと思いながら百鈴が返事をすると。
「大尉に聞いたが、騎馬の指揮官に対して、捨て身の突きを放ったそうだな」
更に聞いてきた。
「はい──」
「今度も捨て身だったのか?」
「そんなことは──」
ないと言おうとしたが、どうだったかのか、百鈴は自信が持てなくなった。
それは馬豹にも伝わったのか。
「どっちでもいいが、今後、捨て身には頼るな。それに依存するようになれば、そこでお前の成長は止まる」
そう言った。
成長という言葉に、百鈴も思うところはある。
やはり実戦を経たせいか、スキルを持つ相手にも対応出来るという自信があったし、実際よく動けていたと思う。それはもしかしたら成長ではなく、単なる慣れなのかも知れないが──。少なくとも前よりかは、戦えるという自負を持っていた。
そして百鈴は気付いた。
馬豹が、自分を心配し、成長を期待していることに。
日頃、百鈴の事をからかい、少し面倒臭いところがある馬豹だったが──。
先程の百鈴を弁護する言に加えて、彼女に期待し助言を与える言。
それを認識したとき。
──この、おしゃべり女が・・
胸の奥から湧いてくる熱い感情を抑えるために、百鈴は心の中で毒を吐いた。
百鈴と馬豹が本営に呼び出されているとき。
彼女たちの上司の袁勝も同じく、本営に来ていた。
しかし、用向きは異なり、謳国軍との戦闘に関することだった。
三人の隊員が犠牲になったことで、隊長としての判断が的確だったかどうかの詰問を受けていた。
ただそれは、あくまで彼を呼び出すための口実でしかなく、話はすぐに袁家軍へと移った。
先の戦闘では──。
独立した軍閥である袁家軍に、国軍の部隊が助けられる事で、変に貸しを作った形になってしまった・・という面子の問題もあったが。それ以上に、要警戒の連絡に不備があり、袁家軍は賊軍の存在を知らぬままに行軍訓練をしていたという問題があった。
少しタイミングがずれていたら、三百弱の謳国軍との遭遇戦になっていたかも知れず。その事で、袁家軍からは強い抗議が来ていた。
国軍としても北の守りに袁家軍の存在は欠かせぬゆえ、今回の事を重く見て、正式に謝罪をすることとなった。
では何故、第三輜重隊の隊長にその話がされるかというと。
袁勝は先代袁家軍当主、袁堅の息子で、現当主、袁策の異母兄弟にあたるのだ。
要するに、血縁のコネで、袁勝に袁家軍との間を取り持って欲しいという話だった。
「仰ることは分かりますが──、自分は半ば勘当されたような人間です。却って余計な軋轢が生じるかも知れません」
袁勝は言ったが。
「それは君と父君、袁堅殿との話であろう。今の当主の袁策殿とは、よく遊んだ仲の良い兄弟だったと聞き及んでおる。何も君に全てを預けるという話ではない。こちらの謝意を示す、切っ掛け作りと思ってくれ」
袁勝を呼び出したであろう中佐の男はそう言った。
袁勝は数秒思案したが。
「わかりました。全力をつくします」
そう応えた。
中佐は喜色を浮かべると。
「贈答の品を用意することを考えている。ちょうどよい、君の部隊で運んでいくように手配しよう」
そのように言って、笑った。
話が終わり、袁勝が本営の建物から出ると、馬豹と百鈴が歩いているのが見えた。
あのとき──。
部隊が奇襲を受け、隊員が殺され、百鈴も討たれようとしていた。
だから使った。
いや、そうでなくては使えなかった。
袁勝の最初のスキル。
〔抑梟扶雀〕は、レベルの高い者から、低い者を守るときに力を発揮するスキルだった。
弱きをたすけ強きを挫く、そのスキルに、彼は誇りを持っていた。
しかし次第に──。
──自分は戦いに向かぬ者を喰らって力を得ているのではないか?
そのように考えるようになった。
助けるどころか、その命を糧として、贄として消費しているように思えたのだ。
以来、袁勝は自らのスキルを封じ。
レベルの低い、スキルのない者でも対等に戦えるよう用兵に工夫を凝らした。
ただそのやり方は、周りからは理解されず、結果として家を追い出されるような形になった。
その後、国軍に入り、レベルが20に達したとき、もう一つのスキルを得た。
馬豹や百鈴の知る、部隊全体に力を与えるスキルだ。
スキルを使わぬと決めた事で、家を出る事になり。
スキルを使った途端に、家に向かう事となった。
それはただの偶然だとは分かっていたが──。袁勝には、皮肉な運命のように思えてならなかった。




