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無双xロジスティクス ~落ちこぼれ部隊?いいえ、最強実践部隊です~  作者: テンチョウ
第一章 ~散ずる道、成す小径~

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第11話 悲憤

 第三輜重隊(しちょうたい)には三日間の休みが与えられた。

 任務終わりであったから休みは当然であるが、隊に損害が出た事も関係しているようだった。


 三人が死亡し、百鈴(ヒャクリン)を含め負傷したもの七名、うち軍役に耐えられない怪我を負った者が二人だった。

 殉職には、輜重隊員といえども、それなりの金額が出るようであったが。軍を辞めざるを得なくなった者への見舞金、退職金は、普段の給与を元にしていた。

 袁勝(エンショウ)馬豹(バヒョウ)は、自分たちで幾らか出し合って、辞める二人に渡そうとしていた。

 百鈴が自分もと言ったとき、馬豹が。

「ありがとう──」

 静かに(こた)えたのが、百鈴には痛みを(ともな)って聞こえた。




「本当に、もう大丈夫なの?」

 熊収(ユウシュウ)が百鈴の体調を心配する。

 彼女は百鈴の同期の一人の朋友で、互いに切磋(せっさ)しあった良きライバルだった。ただ、直接立ち会えば七三で熊収が勝っていたため、百鈴としては密かに憧れの存在でもあった。

 人づてに百鈴が落馬したと聞き、ちょうど熊収も休みだったため、様子を見に来ていた。

 百鈴は何ともないと熊収と街に繰り出し、少し早いが、酒場を兼ねた食堂で軽く引っ掛けながらの会話であった。

「大丈夫、大丈夫、全然へーきだから」

 本当の事だった。

 多少の痛みはあるものの、体の方は問題なく動いている。

 あのとき百鈴には受け身を取る余裕はなかったが、無意識に体が似た動きをしたのかも知れないと思った。少なくとも頭をうつことはなかった。


 しかしながら、百鈴の言葉とは裏腹に、その声には疲れが感じられた。

 それは、輜重隊の仲間が犠牲になったことが関係しているのだが──。そこまでの事情は熊収の知るところではなく、彼女は、百鈴が体に無理をしているのではないかと考えた。

 それでも、百鈴自身が大丈夫というなら、それは(ひとえ)に熊収を心配させまいとしているということであり。これ以上、余計な気を使わせても悪いと考え、熊収はもう体調には触れなかった。


 ともあれ、熊収は、久し振りの友人との一時(ひととき)を楽しむ事にした。

 同期の他の者とは、何度か会ったりしていたのだが、百鈴とはその任務の違いからか予定があわず。正式に軍人になってから、初めての再会だった。

 百鈴の方も、胸に(つか)えるものがあったが、熊収と過ごすことで本来の心胆を取り戻すように、気持ちが()いだ。



 しかれども、無粋な(やから)というのは何処にでも現れるようで──。


「熊収じゃないか──、お前も休みだったか」

 男が声を掛けてきた。

「ああ──」

 熊収の声は重い。

「おっ──。誰かと思えば、百鈴じゃないか。久し振りだな」

 言うが、百鈴は特に返事はしない。

「おいおい忘れたのか? お前より席次が一つ上の、尚史(ショウシ)だよ」

 彼の言う席次とは、成績順のことだ。

 武官学校では熊収が首席、尚史が四席、百鈴が五席だった。

 (もっと)もそれは、百鈴の弓が飛び抜けてダメだったためであり。それ以外の分野を個個に見れば、百鈴は、熊収に次ぐ優秀者であった。


「そういえば百鈴、お前、輜重隊なんだってな」

 百鈴の反応が薄いことが面白くない尚史は、そう切り出した。

「熊収とライバル関係だったお前が、荷物運びとは──。片や花形の重騎兵隊、片や落ちこぼれの輜重隊、ずいぶんと差が付いてしまったな」

 尚史は、にやけ顔で語る。


 ちなみに重騎兵は、馬甲を(まと)った騎馬の事で、機動力よりも攻撃力を重視した兵種だった。馬の体力も重要になってくることから数は限られ、必然的に乗り手の兵も、超一線級の精兵が集められた。


「おい、やめないか」

 熊収が(たしな)めるが。

「少し前に北で輜重隊が襲われたらしいが、まさかお前のところか?」

 尚史が言ったので。

 熊収も、百鈴はそれで落馬をしたのではと思い。真偽を確かめたい気持ちもあり、尚史の言葉を(さえぎ)るのを躊躇(ちゅうちょ)した。

「それで討伐したのが、行軍訓練中の袁家軍らしいじゃないか。・・ったく、国軍が軍閥に助けられるとか、力関係がおかしくなるぞ。役に立たないならまだしも、足を引っ張るなよな」


 ()国には国軍の他に、独立した軍を持つ組織があり、それぞれ家名をつけて(シュウ)家軍、孫家軍、顔家軍、袁家軍と呼ばれていた。


 百鈴が何も言わないのをいいことに。

「荷物運ぶしか能が無いくせに、死んだら一端(いっぱし)の金が出るんだから、イイご身分だよな」

 尚史が言ったとき。


 バシャッ・・


 百鈴が酒を尚史に()っ掛けた。

「な──」

 何をすると尚史が言葉にする前に。


「表に出ろ!!!」


 百鈴の大喝に、店内の音は全て停止した。




 百鈴としては真剣で構わなかったが、熊収が何処かから木剣を調達してきたので、それを使う事になった。

 百鈴と尚史の立ち合いである。

 場所が場所だけに、いい見世物として人が集まったが、構わなかった。

 自分がどのように見られるかは、どうでも良かった──。


 百鈴は片手に木剣を持ち、ダラッと立っている。

 尚史が剣を横に構えた後も、彼女は姿勢を変えず、相手を見下ろすような視線を送っていた。

 熊収には、百鈴の姿が酷く異質に思えたが、何か言う事はしなかった。


「始め!」

 熊収が開始の声を出した途端。

「はぁ!!!」

 気合いと共に百鈴が肉薄し、斬り込んだ。

 尚史もそれを受けるが、百鈴は構わず踏み込み、強引に押し込む。

 百鈴は相手が押し返そうとしてくると、力を抜き、逆に往なすような形で尚史のバランスを崩す。そして立て続けに斬撃を浴びせる。

 尚史もよく防御していたが、守り一辺倒になった彼に対して、周囲から「しっかりしろ」などとヤジが飛ぶ。

 百鈴は、右に左に、下から上から攻め続ける。

 何も知らぬ見物人たちは、それに大いに盛り上がったが。

──強引過ぎる。

 熊収は百鈴らしからぬ戦い方に、違和感と、良くないものを感じていた。


 何度目かの斬り上げのときだった。



〔 鱗茎剥捨 〕



 尚史が百鈴の攻撃を大きく()なす。

──スキルだ。

 熊収が予感した通り、百鈴は攻撃を逆用され体勢を崩した。

 尚史もそれを見過ごさず、蛇のように鋭く斬り付ける。

──負けた。

 熊収は思ったが。

 百鈴はスッと後ろに引いて、斬撃を紙一重で(かわ)し──。

 次の瞬間、体ごと飛ぶような勢いで強烈な突きを放った。


 それは尚史の鳩尾(みぞおち)あたりに命中し、彼は悶絶し、倒れた。



 周囲の見物人たちは、どっと歓声を上げて拍手まで起きていた。

 熊収にとっても、尚史は不快な者で、友が勝ったのは喜ばしいはずだったが──。

 ただじっと相手を見据える百鈴の姿が、どこか哀しげに見えて、少し辛かった。

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