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無双xロジスティクス ~落ちこぼれ部隊?いいえ、最強実践部隊です~  作者: テンチョウ
第四章 ~帰結の門、進発の扉~

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第105話 覬覦

 将軍以下、呂の武官たちが潘会より褒詞を賜っている。

 先の謳国との戦いに関してのものだ。

 居攸は文官であるが、胴州戦に()いて目付役として参加していたのもあり、末席ではあるが彼らと共に王の言葉を聞いていた。


 戦は大勝であった。

 この歴史的快挙と言って過言でない出来事を受け、武官のみならず群臣から兵卒、市井の民に至るまで、皆が歓喜する事態となった。

 それは居攸をして例外ではなく──。

 いや、居攸だからこそ、待ちに待ち、望みに望んだ勝利を大いに享受した。


 そんな中、此度(こたび)の発端者とも言える呂王潘会の表情は、どこか冴えない。

 無論それは、謳の幼君と太后を狙った襲撃の失敗があるのだが、その事実を知る者は少ない。

 知恵の回る居攸でさえ。

──体調でも悪いのか?

 と、考えるのが関の山であった。



 祝賀式が終わり、一同がそれぞれの役目に戻る中、居攸は別室に呼び出された。

 しばしの間、居攸は独り待たされたが、未だ勝ち戦の悦予(えつよ)が続いていたのもあり、彼は反芻するようにそれを噛みしめた。


 潘会が入って来た。

 居攸は立ち上がって礼をしようとしたが、潘会は手でそれを制止するように合図したため、軽く頭を下げるにとどめた。

 潘会は第一声。

「大儀であった」

 と、始め。居攸が籠城戦で、兵達の士気を維持するのに多大な貢献をしたと、後越の鍾棋将軍からも感謝の言葉が来ていると語った。

 居攸としてはさして心当たりがなかったが、後越の兵達とはそれなりに会話する間だったため、鍾棋将軍がその辺りを上手く持ち上げてくれたのだろうと臆断した。

──勝つとはこういう事か。

 瓢箪(ひょうたん)から駒が出るような賞賛も、戦捷(せんしょう)ならではの出来事に思えて居攸には不思議だった。


 潘会の話は胴州戦から、元となった属国軍派兵拒否に関する働きに及んだ。

「そなたの知識と献策、人脈と交渉力、これらなくして今回の成功はあり得なかった。重ねて称嘆(しょうたん)したい」

 などと、潘会は居攸を褒める。

 普通なら喜悦満面となってもいいものだが、元来居攸は多くを望まぬ者であり、且つ人物の評に聡い男であったため、この状況に違和感を持った。


──よもや!?

 狡兎(こうと)死して走狗烹(そうくに)らる。

 兎がいなくなれば、それを追う犬も処分される。利用価値がなくなったら捨てられる。


 たまゆら、居攸は無慈悲な想像をした。

 しかしながら、潘会の様子を見るに薄情さは感じられず、(むし)ろどこか居攸のことを(おもんばか)っている。何か、話のタイミングをはかっているようだった。

「陛下、どうかなさいましたか?」

 最悪はないと見立てたが、居攸としても()らされるのは願い下げであり、結論を急かした形だ。

 潘会はそれで一瞬、諦めにも似た渋い表情をすると。

 意を決したように。

泡易(ホウエキ)が死んだ」

 と、言った。



 潘会は居攸に、泡易の屋敷で起きたあらましを語った。

 居攸は黙って聞いていたが、あまり頭に残らず、自分でも意外だった。

──長い付き合いなのに、存外あっさりしたものだ。

 自身を人情に厚いとは思っていない居攸だが、人並みの感傷はあると考えていた。だがその認識は、今後あらためる必要があると彼は思った。



「私は先にゆくが、お前はゆっくりしていけ。今日は何もしなくていい・・」

 潘会はそう言って、言葉通り先に部屋を出た。

 居攸も何かを言おうとしたのだが、どういうわけか声が、口がうまく動かない。

──なんだ鼻水が?

 急に垂れてくる感覚に手で(ぬぐ)おうとして気付いた。


 居攸は泣いていた。


 それで理解した。

 話が頭に入ってこなかったのは、その情報を自分が拒絶していたんだと。

 声が出なかったのは震えているからだと。

 泣いているのは──。


──私は惚れていたのか?


 わかった。

 わかってしまった。

 知りたくなかった。知ってしまったらもう止められない。

「おぉぉっヴぅおぉぉぉ・・」

 胸の奥から嗚咽(おえつ)が込み上げてくる。



 居攸は歴史を動かしつつも、大した栄達は欲しない人間で、ありていに言えば奇人の類いだ。

 しかるにその根底にあるのは、好きな女に褒めてもらいたいと願う平凡な男の姿であった。

 居攸は泡易を愛している自分を認められず、利用する立場になることで、その負い目から逃れようとしていた。しかしそれは心の深層に悋気(りんき)を灯し、彼をより愛執へと(いざな)った。


 然りとて、全てはあとの祭り──。



 居攸は独り慟哭(どうこく)し、耳障りな男の声が辺りに響いた。

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