表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無双xロジスティクス ~落ちこぼれ部隊?いいえ、最強実践部隊です~  作者: テンチョウ
第四章 ~帰結の門、進発の扉~

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

103/109

第103話 終戦・・

 幕舎の奥にて喬太后は瞑目していた。

 喧騒の中で、この空間だけが別天地(べってんち)のような錯覚を将軍は覚えた。

「華漢が現れたと聞いたが」

 いつの間にか太后の目は開き、将軍を見ている。

「はっ。六百ほどの軍です。呂軍とあわせても二千有余でしかありません。我が軍は倍の数、混乱が収まり次第、必ずや華漢を討ち取って──」

 将軍がやや早口になりつつも言葉を並べていると。

「よい」

 彼女は言葉を遮り。

「兵は草臥(くたび)れている。で、あっているか」

 続けて問うた。

「はっ。確かに疲労は蓄積しております。ですが城の後越も──」

「よい」

 喬太后はまたも遮る。

忖度(そんたく)はいらぬ。将軍の目から見て、ここで華漢を討つ、もしくは城を落とす、その上での南進は可能か否か」

 色のない声で聞いた。


 将軍は返答に窮した。

 最早、総力戦の様相を呈している。この戦場で勝つことは疑っていないが、それが謳国の戦略として勝利かと問われれば難しい。

 おそらく犠牲は第一陣から失った分も含め二千以上と見込まれ、同時に属国軍としての後越、呂の兵力も消耗することになる。この事から、馗国との兵力差からの勝ち筋が薄くなったのは否定できない。


 しかれども喬太后は答えを待たず。

「事ここに至っては南進は叶わぬ。相違ないか」

 重ねて問うた。

 将軍は一種の諦観(ていかん)を持って。

「ご明察かと──」

「よい。そなたたちの責任ではない。私が急ぎ過ぎました」

 頭を下げようとする将軍の動きを止めつつ、喬太后は言葉を発した。そこに──。

「呼延吹様が戻られました」

 兵の声の余韻が消えぬ間に、呼延吹本人が駆け込んで来た。

 彼女は将軍らの姿を認めると慌ただしさを消し。

「呼延吹、帰参いたしました」

 太后に対して礼をとった。

「報告は于鏡より受けています。負傷したとの事でしたが大丈夫なのですか」

「はっ。只の打ち身ゆえ問題ありません」

 母娘の会話だが、そこは公の席である。

「ならばよい──、話を戻します」

 喬太后は視線を直し。

「遺憾ではあるが南進の機は逸しました。ですが、ここで引くわけにはいきません。属国の反抗に宗主が折れたのでは、更なるそれを呼び込むことになる。謳国の威信と沽券を大きく傷付け、将来にわたって我等に毒をもたらすはずです。よって私は、後越並びに後越王の華漢の討伐をもって戦を終わらせるものとしたい」

 そこまで言うと、一度皆を見回して。

「なにか意見のある者はおるか?」

 そう問うた。


 (しば)しの沈黙が訪れたが。


「陛下。我等が華漢を狙うよう、彼奴(かやつ)もまた国王陛下、太后陛下を討たんとするはず。敵は乱戦に持ち込み、その機会を窺う腹積もりでしょう。(ゆえ)に両陛下には、すみやかに戦場より離れ、本国にご帰還なされるのが最良かと拝察いたします」

 将軍が具申し、そのまま国王呼延鼓と喬太后は離脱する流れで話が進んだ。

 その際。

「近衛兵は目立ち、(かえ)って標的になるのでは」

 との献言があり、近衛に代わって呼延吹軍が継続して警護することになった。また数が大仰になるのも良くないとの考えから、人数は二百程に抑えられた。



 呼延吹は連れ立っていた歩兵百を警護役に回し、彼女自身は無事だった騎馬六十と無傷の歩兵二百を率いて、遊撃隊として華漢を狙うように編制した。

 母と弟を于鏡に託し、後顧の憂いを断って全力を出す決意だ。

──彼らは来るか・・

 華漢がいるのだから可能性は高い。


 呼延吹が戦場に残る真の理由は百鈴である。

 華漢の討伐など、その実、彼女にとっては都合の良い大義名分でしかない。

「たとえ相手が上でも、今度こそ勝つ!」

 呼延吹は覚悟を声にした。

 寡が衆に勝つこともあるよう、弱が強を倒すことも起こりうる。それが戦場だった。


 さはさりながら、その期待は、懸念との表裏一体の関係であることを呼延吹は知らなかった。





 敵の動きが変わった。

「ハハッ。どうやら狙いは俺の首だ」


──ならば教えてやろう。

──知らしめるんだ。

──華漢という男がここにいたと、この場の全員にわからせる。


 華漢は思う。

 鍾棋将軍は見事に持ちこたえた。呂の軍勢も敵を十分に翻弄している。流石だ。

 やはり彼らに任せて正解だった。

 自分には戦場の機微など理解できん。戦況を俯瞰するなど無理だ。たぶん己の目の届く範囲のことしかわからない。そこまでの人間なのだろう。

 武術も弱いつもりはないが、さして強くもない。まぁまぁ出来る程度だ。でもそれでいい。

 (よわい)を重ねても、結局自分は十代の頃から成長してない。そんなもんだ。そんなとこなんだ。

 だから何番煎じでも、馬鹿の一つ覚えでも、これしかない。

 これは、これだけは、自分にしかやれない。

 やれるから、やる。それだけだ。


──それが俺の生き様よ。

 すぅ~と、華漢は大きく息を吸った。



〔 号気花断 〕



「胴州に集いし強者(つわもの)どもよ!!!!!!」


「血気なる者、ここに見参!!!!!!」


「さぁさぁさぁ、掛かってこられよ!!!!!!」


 大喝は戦場を駆け、胴州の城壁に跳ね返り、天の声の如く降り注いだ。

 とたん華漢は敵味方問わず注視の対象となった。

 あまつさえ最前線で敵に斬り込んでいく彼を仕留めようと、謳軍の指揮者たちはやや前のめりになった。


 餌である。

 謳軍はずっと攻城戦を続けてきた。それは成果が見えにくいばかりか、手柄も働き如何(いかん)というより、どの攻め番のときに敵が折れるかという、クジ引きのような不可抗力に支配されていた。

 そんな中、華漢は自らを手柄を欲する者たちに見せつけて、彼らを煽り、釣り出した。

 運否天賦(うんぷてんぷ)ではない。

 明明白白、華漢を討った者が一番手柄だ。


 結果、謳軍は自ずから連携を壊乱した。

 そこに乗ずる呂軍。

 数には圧倒的差があったが、兵に溜まった疲労、指揮の不協和音、加えて華漢の果断に感化された呂兵の意気、それらの正負が多寡の優劣を上回った。

 (いわ)んや華漢率いる後越軍は威勢を増して攻める。


「周りが見えんのは俺も同じよ、これは親近感か?」

 良さげな流れに華漢も口が軽くなる。


 しかしながら、斯様な誘導を意に介せず、それを逆手に取り、後越と呂の両軍の虚を突かんとする四百ほどの集団があった。

 謳国、将軍麾下(きか)の精鋭だ。

 華漢が集めた視線、その盲点を察し、敵味方に気取られることなく彼らは敵の背後をとった。

──(つい)えたわけではない。

 謳の将軍は、まだ完全には南進を諦めてはいない。

 ここで華漢を討ち取れば、早期に戦闘を終わらせ、兵の損耗を最小限に抑えられるかも知れない。それは望みを繋げる事になるだろう。

──囮になって翻弄するつもりだろうが、そうは問屋が卸さん。

──位置を(さら)した浅慮を後悔しろ!

 将軍は槍を高く上げ。

「華漢の首を取る。突撃!!」

 その一声で麾下の一軍は驀進(ばくしん)する。

 華漢の軍も気付くが。

「もう遅い!」

 謳軍の強い一撃が華漢軍を圧殺していく。

「いけぇぇぇ! このまま押し切れ!!」

 将軍たちが全力を振り絞った、そのとき──。



〔 窮鼠噛獣 〕



 何かが将軍たちの後部を穿った。


 いや、穿っただけではない。それは謳軍でも屈指の精兵たちを蹴散らしながら、一直線に将軍めがけて迫り来る。呂でも後越でもなく、ましてや味方のはずもない、馗国国軍の軍装を(まと)った者たち。


 第三輜重隊だ。


「百鈴、護衛を釣り出せ。馬豹、まくって落とせ」

「了解!」

 袁勝の言に応じるや否や、百鈴、そして寸分遅れて馬豹が速度を上げる。

 彼女たちの向かう先には敵の指揮官、謳国の将軍がいる。

 それは相手にもわかる。

 わかりすぎる。百鈴が剥き出しの殺気を放っているからだ。これは無視できない、要人を警護する者の本能が、それから目を背けることを拒否する。

 故に彼らは、ほぼ無意識に百鈴を標的としてしまった。そこに生まれる虚。

 自身への閑却(かんきゃく)を利用しない馬豹ではない。



〔 脱兎捉爪 〕



 百鈴の影から不意に飛び出たと護衛たちが思ったときには、馬豹は彼らをすり抜け将軍に肉薄した。

 将軍が応戦せんと槍を突き出すも、馬豹は()なすまでもなく、稲妻の如き槍で彼を(ほふ)った。

──しまった。

 護衛たちに、そう思う間があったかどうか。

 集中の乱れたところを百鈴は見逃さず、近いものから突いて打って叩いて殺した。続けて第三隊の各班が襲いかかり、敵を幽明の向こう側へ送った。


 将軍以下、近侍した指揮者たちを失い、その一軍は精鋭といえども混乱に陥った。

 それを機として、攻撃を受けていた華漢軍は反攻し、将軍麾下の軍は攻めたときの勢いが嘘だったかのように瓦解した。


 その構図は、後越王華漢によって謳の将軍が返り討ちにあったように見え、味方は大いに覇気を(たぎ)らせ、敵は絶望感に萎縮した。

 時を同じくして胴州の城門が開かれたが、それは謳国が得た果実ではなかった。

「敵将は討ち取られた! 残された謳軍、何する者ぞ!!」

 鍾棋によって攻勢の狼煙(のろし)として開け放たれ、満身創痍ながらも守り抜いた後越の強兵たちが喊声(かんせい)とともに駆け出した。


 将軍の敗死と胴州の出撃、二つの象徴的な出来事が、謳軍兵のすり減ったメンタルにとどめを刺した。

 兵が逃げを選択したのだ。

 彼らは勝利を諦め、活命での帰還を考えた。

 ()りとて、そこは謳軍本隊を大軍として支えた兵たち、無闇に潰走するような真似はしない。彼らは纏まりを保ったまま後退を始めた。

 ()かる動きには、指揮者の方が逆らえぬ力がある。彼らは追認するように兵達にあわせ、動きは波及し、いつの間にか謳軍全体での撤退戦に変様した。


 後越、呂の両軍は一人でも多くを打ち倒さんと攻撃を仕掛け、謳軍は生還を考えての抵抗をする。

 もうこの流れは止められない。

 この場にいる誰もが、それを疑わなかっただろうに思えた。



 が──、彼女は違った。

 この期に及んでなお、勝負を、勝利を、謳軍の勝ち戦を諦めていない者、呼延吹である。


 敗色が濃厚となり撤退の局面になっても、呼延吹と遊撃隊は、その流れに乗ろうとはしなかった。

 かといって、逆流を進むような無茶はしない。そんなことをすれば、あっという間に飲み込まれて打ち砕かれるだけだ。

 呼延吹たちは本流から少し遠ざかり、流れに対して緩やかに身を任せつつも、逆転の機会を虎視眈眈(こしたんたん)と待ち構えていた。

 味方が敵に屠られていくのを黙って見続ける、辛酸苦汁の時間を、遊撃隊は耐えた。


 その甲斐はあった。


 攻めに(はや)ったことで、敵全体はやや縦長になった。

 それは、後退するものと押すものが生み出す流れの中に身を置いたなら、おそらくわからなかった。

 一歩引いた、どこか傍観者に近い立ち位置だからこそ理解できた。

 呼延吹たちは、今が逆襲のときだと判断した。


「続けぇ!!!」

 呼延吹の掛け声とともに遊撃隊が敵軍に対して斜めに猛進する。

 騎馬隊が道を切り開き、歩兵達が傷口を(えぐ)るように攻め、仕留めていく。呼延吹が思い描いた騎馬と歩兵の連携攻撃だ。

 呼延吹の狙いも、やはり華漢である。

 それで全てがひっくり返る!

「捉えた!」

 華漢軍は呼延吹たち騎馬隊を認めると、迎撃の構えを取った。

「構うな!」

──前とは違う。

──騎馬の勢いだけの攻めとは違う。

 呼延吹は今度の攻撃に絶対の自信を持っていた。


 だがしかし、続く歩兵が来ない。


 呼延吹が振り返ると、遊撃隊の歩兵たちが横から突かれて蹴散らされている。

 相手は言わずもがな、第三輜重隊。

「おのれ!」

 呼延吹は怒りに駆られながらも状況を見極める。


──華漢を討つのは無理だ。

──このまま離脱すれば歩兵が逃げ切れない。

──時間を稼ぐ、そのためにはあれに一撃を入れる。


 騎馬隊はその矛先を第三隊に直した。

 袁勝もそれに合わせて向きを変え、両隊は正面からぶつかる格好となった。

「馬豹、身代わり後ろの二騎だ。百鈴は仕留めに行け」

「承知!!」

 袁勝の指示に馬豹百鈴が一気に加速する。


 呼延吹は百鈴を認めたが、馬豹の方が先に迫る。

 呼延吹に対して左側をとる形、百鈴が続いて右から当たることを考えれば、極めて不利だった。

 だがそこに護衛が割って入って応戦する。

 馬豹はその護衛の突き出しを打ち払い、そのまま槍を回して叩き落とした。そして──。



〔 威馬進燕 〕



 馬が滑るように回転し、馬豹は呼延吹の背後を取らんとする。

 それを阻止しようと、もう一人の護衛が馬をぶつけるように当たるが、馬豹は待っていたとばかりに槍で突き殺した。彼女はそのまま他の騎馬たちと渡り合う。


──あれも手強いが・・

──今は百鈴。

──今度こそお前を倒す!


 呼延吹は百鈴との戦いに集中する。

 ふと前の戦いが蘇る。

 呼延吹の攻撃を完全に受けきり、もう興味がないかのようにしていた。

 思い出し、カッと湧き出るなにか・・

「私を見ろぉ、百鈴!!!」

 絶叫とともに鉤鎌槍を繰り出す。



〔 龍吟轟返 〕



 突き出された異形の槍に対して、百鈴は自身の槍を勢いよく打ち上げて軌道を大きく()らせた。

 しかしすぐさま(かえ)しの鎌刃が百鈴を背後から襲う。

 百鈴の両手は槍にあり、前回のような剣を(つか)った防御はできない。

──届け!!

 呼延吹の念を込めた一撃だ。


 だがそれでも、百鈴は槍を逆回転させるように回し、石突きの側で鉤鎌槍の引き斬りを打ち払った。槍は勢いのまま回転し、彼女はそれで穂先を後ろに持つ形になり、そのまま呼延吹とすれ違う。


──まだだ!

 呼延吹の攻撃は終わっていない。

 百鈴が鉤鎌槍を(さば)いたとき、彼女の左側に別の一騎が迫った。一人で倒せぬなら、二人掛かりで倒す。単純にして最も効果的な方法だ。

 今の百鈴の体勢では左で剣を抜いて対処することは叶わない。

 槍が鋭く百鈴に伸びる!



 このときまで、呼延吹は気付いていなかった。

 いや、(はな)から知らなかった。

 彼女が戦った百鈴は、いつも素の力で戦っていたのを。

 騎馬隊の他の者も、しばらくの間に忘れ、別の印象が上書きされていた。

 だから、わからなかったのだ──。


 今この瞬間の第三輜重隊は、袁勝のスキル〔窮鼠噛獣〕の影響下にあった事を。



 百鈴は槍に対して左腕を引き戻し、あえて前腕に突き刺すことで、その穂先を受け止めた。

 瞬間、百鈴は呼延吹を見た。

 見たが、その瞳には一切の思いがない。

 彼女は、ただ的としてのみ呼延吹を見ていた。


 すれ違いから遠ざかる呼延吹の背中に、百鈴は逆手に持った槍を投げるように突き刺した!

「がぁっ!?」

 呼延吹は衝撃に反射的に振り向いた。

 そこに見えた画から、自分に何が起きたのかを悟った。悟ったが、理解はできなかった。


──ありえない・・

──これは・・

──神業で・・


 呼延吹は前に突っ伏し、そこから滑り落ちるように落馬した。


 百鈴を攻撃した騎馬は袁勝が迫って切り落とし、百鈴は剣を抜き、馬豹に続いて敵騎馬に当たる。

 指揮官を失った遊撃隊は統制をなくし乱れに乱れ、第三隊はそれを無慈悲に蹂躙した。

 ほどなくして彼らは潰走に至った。


 そこからの展開は早く。

 遊撃隊の逃げ足が呼び水のように作用し、謳軍全体もまた四分五裂になって逃げ出した。

 後越、呂の追撃は敵を討ちに討ち、その光景は酸鼻を極めた。





 謳国が仕掛けた後越討伐は、第一陣に続き、第二陣も失敗した。

 しかも想定を遙かに上回る犠牲を出し、王姉呼延吹も戦場にて帰らぬ人となった。


 後世では、この戦いを以て後越、呂の独立戦争は終了したとされる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ