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無双xロジスティクス ~落ちこぼれ部隊?いいえ、最強実践部隊です~  作者: テンチョウ
第四章 ~帰結の門、進発の扉~

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第100話 暗中模索

──華漢殿に何かあったか?

 鍾棋が最初に思ったのがそれであった。


 連日攻撃を続ける謳国軍だが、けして無理な攻めはしてこなかった。日が落ちれば戦いを止め、翌日まで英気を養うのが常だった。

 そこには彼らの真の目的が南進であり、馗国攻めを前にして、兵を(いたずら)に消費する事を避ける意図があるとみられた。

 ところがどうしたことか。

 ここに来て謳軍は、(かがり)明明(あかあか)と焚き、今日はもう仕舞いにした戦闘の準備を始め、ついには城に攻め掛けてきた。

 その攻めはこれまでと違い、犠牲を前提とした強引で厳しいものになった。


「将軍、敵に見慣れぬ軍装の者がおります」

 部下の報告に。

「近衛が動いたか」

 それは鍾棋の想定した事態である。

 (はな)から謳軍が王を守護する千の近衛兵を投入してくるのは、わかっていた。


 問題はタイミングである。


 本来は鍾棋がそれを誘導するはずであった。

 あと一押し、もう一押し、僅かに余力があれば押し切れるのに──、そう思わせる。

 さすれば、喬太后は必ず決断する。


──やはり今が適宜、その時という訳か・・

 鍾棋は敵が勝負所と判断したことで、逆説的に状況が大きく変様したことを理解した。

 具体的に言えば、華漢率いる後越軍の存在が明るみになり、城内には半分の兵しかいないのを知られた可能性が高いという事になる。

──無事ではある。

 仮に華漢が捕らえられたなら、敵が無理に攻める必要はなくなるだろう。

「ならば踏ん張るだけだ」

 鍾棋に悲観はない。

「考えようによっては、こちらが疲れる前に動いてくれたのだ。お陰で、へばらずに済みそうだ」

 部下に向かって笑いかけるように言った。


 鍾棋は敵を見据えて。

「さてと──、老骨に鞭打ちますかな」

 言ってから。

「まずは出端(でばな)(くじ)く!」



〔 胆大進勝 〕



 鍾棋のスキルにより後越軍の意気は上がった。

 謳軍の過去なかった圧力と勢いに劣勢だった後越軍であったが、心を折ることなく第一波を抑えた事で、彼らの心胆はより強化され、続く攻撃も退けた。


 結果、激戦は繰り返されるものの、戦線は膠着(こうちゃく)の様相を呈した。





 潘会(ハンカイ)が目にしたものは、下方からの炎炎(えんえん)たる篝によって照らされた、煌煌(こうこう)と光る胴州の城壁だった。

 それは平素見ることのないのは勿論、どこか神霊の儀式を彷彿とさせる荘厳さと妖しさを持った、目を奪われる光景であった。

 彼はつかの間それに魅入られていたが。


「早すぎるのではないでしょうか?」

 近侍の声で現実に戻る。

 謳国軍が大攻勢を掛けることはわかっていた。いや──、そう仕向ける手筈だった。

 しかしながら、それは味方の奇襲を呼び込むための仕掛けであり、機を見て行うものであった。

「何かがあった──、私にはわからんが」

 潘会には武名などない。

 (もっと)もらしく、知った風、利いた風に言葉を並べても、周りを失望させるだけだと理解している。それに、自己の無能さを晒すことなどは、彼にとって恥でもなんでもなかった。

 大国の使者に(こうべ)を垂れる、属国の貧相な国王を演じなければならない屈辱に比べれば、屁でもない。

「これでは後越軍が来る前に城が落ちかねません」

 北に隠れ潜んでいた軍に華漢がいることは、この場では潘会しか知らない。

 知っていたならば華漢殿などと言ったはずだ。

 それで潘会は気付いた。

──奇襲の軍の存在を知られたか。

 城内の兵が少ないとわかったなら、城外の敵との二正面になる前に片を付ける。素人同然の潘会でも、同じように対処するだろう。

「その前に降伏する可能性もあるかと」

 別の者が言う。

──確かに・・

 思ったが。

「いや、城で指揮を執ってるのは鍾棋将軍だ。私はその人物像を詳しく知る機会を得たが、勝ち目のない戦いをする人物ではないと思う。勝算はあると見ているか、防衛に自信があるからこそ、今こうして戦いが成立しているのではないか」

 潘会は自分でも意外なほど、伸びやかに言葉が出た。

 それは近侍たちも感じたようで。

「となりますと、もう少し様子を見た方がいいかもしれませんね」

 潘会の落ち着いた語りに一定の理を見出した。


 ちなみに潘会の鍾棋に対する認識は、居攸からの報告の他、華漢と面談した際の話が元となっている。



 ()くして、潘会たち百騎はそのまま闇に隠れることを選択した。





 于鏡の所には呼延吹から伝令が来ていた。

 それにより、北に華漢率いる後越軍がいたこと、中佐の軍がほぼ壊滅したこと、呼延吹が負傷したこと、本隊には中佐が早馬を既に出したことが知らされ。于鏡には逸速(いちはや)く本隊を合流するよう指示が、あらためて出された。


 遊撃隊の歩兵三百の集団であったが、その移動は極めて速いものとなった。


 于鏡は命令通り迅速に軍を動かし、睡眠も外套(がいとう)を羽織るだけの簡素で、かつ短いものにし、食事も歩きながらという徹底ぶりだった。


 その甲斐あって、まだ早朝と言える時分には胴州に着いたが、于鏡たちの目に映ったのは攻城戦の渦中で疲弊した味方の姿だった。

「夜通し戦っていたのか・・」

 于鏡は多少驚いたが。

「いや──、おそらく最善の選択だろう」

 北の華漢、呂の援軍、それらに対処するより無理くりにでも胴州を落とす方が早く確実だ。

──太后様のご判断か。

 実を見れば木がわかり、木を見れば土がわかる。

 呼延吹と接する事で、于鏡は喬太后という人物をより理解していた。

「ひとまずは報告を兼ね、拝謁を賜る」

 于鏡は騎乗の部下を二人だけ連れて、本陣の方へ向かった。


「近衛が見当たりませんね」

 部下が指摘する。

「ここを全力を出す局面だと、ご判断されたのだろう」

 于鏡は返すが、同時に。

──それでもまだ敵は屈していない。

 若干の軫憂(しんゆう)を禁じ得なかった。


 そんなときだった。


 不意に本陣の方から戟塵(げきじん)の気配が漂ってきた。

 しかし味方に、それに対処する動きは見られない。

──長時間の戦闘で鈍ったか!

 昨日の朝から一昼夜にわたって攻城戦を続けた本隊の兵達は、喧騒になれ過ぎ、本陣に起きた異変を感じ取る力を麻痺させていた。

「遊撃隊を動かす」

 于鏡は言って部下の一人を隊に()り、自身はもう一人の部下と本陣へ疾駆した。



 本陣は騎兵による奇襲を受けていた。

 近衛兵が必死に応戦しているが、衆寡(しゅうか)には三倍の開きがあり、敵には勢いの、味方には混乱の補正が掛かり状況は極めてまずかった。

 于鏡はその場に駆け付けながら。

「呼延吹軍の援軍だ! すぐに敵を殲滅する、奮起されよ!!」

 死闘と演じる兵を激しく励ました。

 そして自らも剣を抜いて敵の前に躍り出た。


 敵も新手の騎馬の存在を邪魔だと思ったか、于鏡を屠らんと二騎が同時に仕掛けた。

 左右からの攻撃が彼を襲う。



〔 一遂四剣(イッスイシケン) 〕



 于鏡は素早い剣技で敵の攻撃を巧みに()なす。

 その間に部下が片方に肉薄し、一騎を落とす。于鏡も残りに斬り付け、相手が防御している所を近衛の兵が槍を伸ばして仕留めた。


 ()りとて危機が去ったわけではない。

 敵の狙いは国王か喬太后であり、それに手が届きかけている状態だ。

──指揮者を討つしかない。

 率いる者を倒せば、一時でも敵を混乱させることができるだろう。それだけあれば、遊撃隊の兵たちが来る時間を十分に稼げる。

 于鏡は攻撃を(かわ)しつつも相手を観察し、敵の中で一際強い情意を持つ者を発見した。

「あの男だ!」

 言うや否や駆ける于鏡、部下もそれに続く。

「ハァァァ!!」

 気合いと供に迫る。

 それを遮るように敵が来る。

──間違いない。

 頭を守ろうとしている姿に、于鏡は確信を得る。

──問題ない。

 自分には敵を撃殺するだけの力がないことはわかっている。最初から于鏡は引き付けるだけだ。

 于鏡の影から飛び出るかのように、部下が標的に急襲する。

 しかし、そこに身を挺して守る者が割入り、攻撃が届くことはなかった。


 時を同じくして、遊撃隊と(おぼ)しき跫音(きょうおん)が近づいた。

 敵はそれで一転し、素早く駆け去った。



 騎兵の軍装は一般にありふれたもので、どの所属かは判別できかねたが。

──只の位ではあるまい。

 于鏡には指揮者に対する守りの姿勢が、呼延吹と親衛隊の関係を連想させ、そのように推断を促した。


 とまれ──。

 にわかに起こった謳軍本陣の混乱は、最悪には至らなかった。



 しかれども、これを収めたのが遊撃隊であったことが、謳国の運歳(うんざい)に影を落とすことになる。

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