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無双xロジスティクス ~落ちこぼれ部隊?いいえ、最強実践部隊です~  作者: テンチョウ
第一章 ~散ずる道、成す小径~

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第10話 やるしかない!

「流石に危険ではないでしょうか?」

 親衛隊の一人が言う。

 呼延枹(コエンホウ)が、敵に奇襲をかけると言い出したのだ。

「そうです。敵の力は、こちらの想定を(はる)かに上回っていました。我々だけで当たるにはリスクの高い相手です」

 他の者も同調する。

 これに呼延枹は。

「さっきも言ったが、あの強さは、十中八九、特殊なスキルのせいだ。知っての通り、スキルの使用には間隔を置かねばならない。十分な間を置かずに使用すれば、本来の力の一割も出せない。そして、強力なスキルほど、そのインターバルの時間は長い」

 言うと。

「では、今、敵はスキルが使えない状態ということですか」

 聞いた者が答えを出す。

 呼延枹は小さく(うなず)くと。

「考えても見ろ。世の中に何人いるかという程の才能を、輜重隊などに置いておくか? いくら()国が、金儲けばかり考えてるクズの集まりでも、そこまで愚かではないはずだ」

 ことさら不敵に言う。

 まわりは彼に感心したように顔を見合って頷きあった。

「なるほど・・ 間隔を開ける他に、何か前線では使い(づら)い欠点があるのかも知れませんね」

 最初に危惧を口にした者も、納得したのか、そのように言葉にした。

 呼延枹は噛みしめるように頷くと。

「加えて今のさっきだ。これ以上の被害を出すまいという、こちらの姿勢は、相手にも伝わったはずだ。だからこそ、あえて危険を(おか)す意味がある! 今なら敵の虚を突ける!」

 今度は力強さを前面に出した感で言う。

 それに周囲から感嘆(かんたん)の声が上がった。


──喋り過ぎている。

 呼延枹はその自覚を持った。

 いつもなら、作戦の意図や、その理解、説明の(たぐ)いは于鏡(ウキョウ)の役割だった。いや、大抵は于鏡とのやりとりが、そのまま皆への説明にもなっていたのだ。


 呼延枹には、于鏡の気持ちは丸わかりだった。

 常に自分のことを第一に考えてくれている。自分を守ろうとしてくれている。それでも、友であるという態度を崩さず、自分を失望させまいと努力してくれている。

 呼延枹には、友にそこまでさせてしまう自分の立場が恨めしかった。しかしそのような素振りを見せれば、それこそ于鏡の努力を無駄にすると分かっていたし。呼延枹としても、于鏡をガッカリさせたくはなかった。


 その于鏡が深手を負った。

 (もっと)もらしく言葉を(つづ)ったが、早い話、奇襲の意図にあるのは仕返しだ。

 それは死んだ味方には悪いが、呼延枹としては、于鏡を傷付けた事への報復が一番だった。





百鈴(ヒャクリン)、あとは頼んだぞ」

 言って馬豹(バヒョウ)は、一番近い軍営まで連絡に行った。

 彼女の馬術ならば、馬を疲れさせずに最短最速で着くはずだ。


 敵は既に、どこかの輜重隊(しちょうたい)を襲った後らしく、その荷車を所持していた。

 輓馬(ばんば)が引くものはなんとかなるが、手押しの方は、流石に第三輜重隊といえども運ぶのは無理そうだった。このまま置いていくわけにもいかないらしい。

 また、戦った相手は他国の軍と思われた。それもあって、馬豹が駆ける事になったのだ。


 戦いの後は、賊を倒したときと同じだ。

 敵の武具を集めて(まと)める。

 討ち取った数こそ前回より少ないが、皆防具を着けているので、回収は大変だった。

──曹長が(うらや)ましい。

 死体から取り外すのに慣れない百鈴は、自分の馬術も馬豹ほどにあれば、連絡に志願して、この仕事をやらずに済んだだろうと夢想した。


 作業を続けながら、百鈴は(おの)が道程に皮肉なものを感じていた。

 彼女は前線で戦う自分を夢見て努力してきたが、レベルの低さから、望んだ場所から最も遠いところへ来る事になった。

 ところが、この三ヶ月ばかりで、二度の実戦を経験するに至った。

 武官学校の同期たちの中でも実戦までしたのは数人で、それも小競り合い程度の事であったから。

 攻撃を弾き、()なし、(かわ)しながら何人もの敵を絶命させるという、百鈴の体験は、彼女が他の部隊にいたら、まず経験しなかっただろう出来事だった。

 望まぬ場所で、夢見たことをやっている自分を認識し。百鈴は、自分がどんな感情を持てばいいのか、わからなくなった。また、どこか目標が、ぼやけてしまった。


──こんなこと考えてると、またイイトコの娘とか言われるな。

 馬豹は百鈴の悩みを下らないと吐き捨てる。

 百鈴も勢いで。

「曹長はなんで輜重隊に居続けてるんですか? 前衛の騎兵部隊でも余裕で通用するでしょ」

 聞いてみたが。

袁勝(エンショウ)大尉のいる所が、私のいるべき場所だ」

 などと言って、その心中は明かさなかった。



 そんな風に、あれやこれや考えてしまう、少し単調な時間──。



 それを打ち破る、猛烈な馬蹄の音が響く。

 敵の騎馬隊だ。

──態態(わざわざ)戻って来た!?

 百鈴は一瞬、撤退した敵軍が、再び反攻しに現れたのかと思った。しかし後続は見えず、騎馬単体で奇襲をかけてきたと理解した。

 隊員たちは急ぎ袁勝の元へと集まろうとするが、敵の勢いが速すぎる。

 騎馬に追いつかれた者は、馬上から突き降ろされた槍で、背中から貫かれた。

 もう一人、また一人、殺される。

 走る隊員を蹴散らしながら、騎馬隊は一点を目指している。

 彼等が向ける視線の先にいるのは、袁勝だ。

──いけない!

 百鈴は思うや否や馬に飛び乗り、馬腹を蹴った。

 騎馬隊の先頭、見覚えがある。先程も騎馬を率いていた、同じ男だ。

──あれを討つしかない!

 百鈴の頭に次々と様々な事が浮かんだが、どれもこれも、全て塗りつぶした。

 理由も、訳も、事の善し悪し、勝ち負けさえ、どうでもいい。

──今は敵を討つ、討たねばならない!!

 百鈴は側面を突くように敵に迫る。気のせいか、いつもより速く駆けている。

──やれば出来るじゃない!

 百鈴は無自覚に笑っていた。そして剣を抜く。

 馬上で剣のみでは多少不利だが──。

「しるかぁ!!!」

 気合いの声として懸念も消化した。

 相手も気付く、目が合う、方向を百鈴に変えた、あっちもやる気だ。



〔 豪槍打奏 〕



 強烈な槍の打ち込みが来る。

 よく見えている。

 剣をあわせ後ろに往なす。

 体勢が大きく崩れるが、何とか(しの)ぐ、持ちこたえる。

──このまま片手で、捨て身の突きを放つ!


 戦闘の刹那(せつな)、百鈴は思い出した。

 自分が軍人を志した理由。

 誰かにとっての当たり前の大切を守りたい。子供のような理想。

──あの女のせいだ。

 馬豹と(から)むうちに、彼女がこの隊を掛け替えのない存在に思っているのを感じた。

──知ったんだ。

 知ってしまったから、見過ごせない。

 百鈴は自らの行動の動機を理解した。


 落馬しても構わないとばかり、体勢を崩しながら、勢いのまま鋭い突きを繰り出す。

 その動きは完全に相手の虚を突いた。

──私に感謝しろ!!

 百鈴は、この一撃で指揮官を倒せると確信した。


 だが──。

(ホウ)様!」

 後続の騎馬が百鈴との間に割って入り、身を挺して指揮官を守った。

 百鈴は突き刺した相手と共に馬から落ちた。

「ぐぁッ!」

 地面に叩きつけられた衝撃で体が(きし)む。無理な体勢ゆえ、受け身もクソもなかった。

 そこに敵の騎馬、百鈴を仕留めに来る。

 殺されるのは分かった。

──なら馬の足を切って、コイツも落馬させてやる!

 タダでは死なんとばかりの思考に、百鈴は我が事ながら、流石商売人の娘と思った。

 そのとき。



〔 抑梟扶雀(ヨクキョウフジャク) 〕



 騎馬が百鈴を(また)ぐように駆けると、一閃、彼女を狙っていた騎兵の首を撥ね飛ばした。

 更に、後続の騎馬も立て続けに斬り殺す。

 一瞬誰かと見間違ったが、その姿は隊長の袁勝だった。

 彼は素早く切り返すと、(はやぶさ)の如く駆け、敵の指揮官に背後から迫る。

 それを妨害せんとした騎馬を、またしても一振りで(ほふ)ると、切り返してきた騎馬隊と正面からぶつかった。

 先頭にいるのは、勿論、敵の指揮官だ。



〔 豪槍打奏 〕



 馬ごと叩きつぶす勢いの振り下ろしが袁勝に迫る。

 しかし袁勝は構わずに突っ込む。

 槍の勢いを物ともせず打ち合って相殺し、次の瞬間には肉薄し、相手の腕を切り落とした。

 続けて彼を落としに来た後続の騎兵を往なし、すれ違いざまに斬り伏せた。


 指揮官が負傷した敵騎馬隊は、そのまま駆け去ろうとした。

 ところが──。

 その進行方向に突如、別の軍勢が現れた。

 敵は方向を変え、この戦塵(せんじん)からの離脱をはかろうとした。

 しかし、新手から別れた二隊の騎馬隊によって噛み付かれ、頭を砕かれ、バラバラになって逃げ出した。



 百鈴は、不意に出現した軍勢の旗を見た。

 国軍とは違う紋章、それは「袁」の文字に似ていた。

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