第1話 私が輜重隊!?
「納得できません!」
「お前に必要なのは納得ではない。レベルだよ、軍曹」
教官は冷たくあしらう。
「レベルって何なんですか!」
百鈴は尚も食って掛かる。
「そんなものは知らん。知りたければ軍人など諦めて、学者にでもなれ」
教官はそう言うと、席を立って行ってしまう。
百鈴は目の前が暗くなりそうだったが。
──ここで引き下がったら、今までの努力が無駄になる!
と、気持ちを強く持ち、教官の後を追った。
「私は、実技に於いても上位の成績を残しました。だのに、どーして後方部隊、それも輜重隊なんですか! 私より動ける人間なんて、同期では数える程しかいませんよ。納得できません!」
百鈴は歩く教官の後ろに付いていきながら、必死に訴える。
しかし教官は構うことなく、早足で行く。
「剣も、槍も、馬術も、私は負けません。弓はちょっとダメですが──、なら尚のこと前線こそ、私がいるべき場所だと思うんです!」
百鈴は諦めない。
「教官だって、褒めてくれたじゃないですか。あれは嘘だったんですか? それとも、若い女に好かれようと、おべんちゃらだったんですか!」
ここまで言ったとき──。
教官は足を止めると、百鈴の方を向き。
「言うに事欠いて、私の侮辱までするか──」
そう据えた目で言った。
「何だって言いますよ、私の二年間の努力の話なんですから! レベルなんて意味不明なもので、それを全否定されてるんですよ。それこそ侮辱でしょう!」
百鈴は、もう自分の言ってることの筋道など気にしてられなかった。
──とにかく何としてでも、配属先を変更させる。
そのためには何だってしてやろうという思いが、彼女を突き動かした。
教官はそんな百鈴をじっと見つめていたが──。
「よし──、そこまで言うなら付いてこい」
言うや否や、スタスタと、また早足で行ってしまう。
百鈴は一瞬戸惑ったが。
──山が動いた!
と、自身の言動によって事態が好転したと思った。
彼女は急ぎ、教官の後を追った。
百鈴が到着したのは練兵場だった。
──動きを見る気だ。望むところ!
彼女は腕試しをされると予測し、それで結果を出そうと意気を強く持った。
「少し、ここで待て」
教官は言うと、訓練している部隊の方に小走りで向かって行った。
一瞬、彼が逃げないかと不安がよぎった百鈴だったが、流石にそれはないだろうと考えをあらためた。
しばらくして、教官が一人の兵を連れてきた。
そして。
「木剣を使い、立ち合え。コイツに勝ったら配属は再考しよう」
そのように言った。
──キタッ!
百鈴は胸が高鳴った。
相手は強敵かも知れない、とは当然考えた。だがそれでもチャンスは十分にあると踏んでいた。
彼女は密かに、左利きでの修練も積んでいたのだ。
戦いのさなか、急に動きを変えれば相手は動揺するだろう。そこに隙が生まれると考えた。
百鈴と相手が剣を構える。
百鈴は高く攻撃的な構え、対する兵士は正眼だ。
──実力を測る必要はない。
端から強いに決まっている。
こちらは完全な挑戦者。むしろ、相手に手の内が悟られぬうちに、速攻で畳み掛けた方が勝算が高いと考えた。
次の瞬間、ダッと間合いを詰める百鈴。
相手は動かない。
──見る余裕なんて与えない!
百鈴は一気に剣を振り下ろす。
相手は受けようとするが、一瞬遅れ、斬撃を殺しきれず、体勢が崩れた。
百鈴は見逃さず、踏み込み、斬り上げから胴を払いにいく。
──これは躱される。
だが、それこそ彼女の狙いである。
躱した瞬間、更に踏み込んで、左構えの体勢から回避不能の一撃を放つのだ。
しかし──。
〔 剣刃相殺 〕
相手の兵士は百鈴の払いを避けることなく、難無く受け止めると。そのまま前に押し込んできた。
──なっ!?
百鈴はあわてた。
相手の虚を突くつもりだったのに、完全に逆のことをやられた。
それは兵士にも見て取れたか、百鈴に生じた隙を見逃さず激しく攻め立ててきた。
──まだやれる!
百鈴の心は折れていない。
少し動揺したが、相手の攻撃はちゃんと見えている。不利な体勢ながらも、それを的確に往なしていく。
──逆転の一手に左を遣う・・
防戦一方になってしまったが、だからこそ、奥の手が活きると考えた。
そのとき、兵士の一際強い一撃がきた。
──これだ!
思った百鈴は、自らその一撃に向かっていくように踏み込んだ。そして紙一重で躱すと、そのまま左で強引に斬り上げた。
だが──。
〔 剣刃相殺 〕
兵士は極めて不利な体勢にも拘わらず、百鈴の攻撃を、またしても受け止めた。
──馬鹿なっ!?
百鈴が思ったとき。
「そこまで──」
教官が発したひと言で、立ち合いは終わった。
「左を遣うとは、考えたな・・」
教官の声に、一切の色はなかった。
褒めるわけでも貶すわけでもない、関心がある風でもない。
ただ単に、状況を言葉にしただけのようであった。
百鈴は勝てなかった。
成績の上位者であっただけに、自らの不甲斐なさは痛い程わかった。
しかし、わからぬ事もある──。
「教官──。何なんですか、あの動き。あの体勢からは無理だった。他の・・私のじゃなくてもです。あの防御は神業です」
百鈴は自分の理解を超えた兵士の動きに、人を超えた存在を思い浮かべて言った。
教官はしばし、項垂れる百鈴を見ていたが。
「あれが奴のスキルだ。防御に関して己が力量を超える動きを可能にする。いや──、奴だけではない。他に似たようなスキルを持つ者は沢山いる。そして、そのスキルの有無が、戦場では生死を分かつ」
そのように言った。
「──スキル・・」
百鈴が呟くのを確認すると──。
「スキルはレベルが10に達した者が得る力だ。あの兵も、私も、当然お前の同期達も、レベル10になった者は皆、持っている」
知ってはいる。だがそれは、体験を伴わぬ情報としてだった。
教官は続ける。
「レベルによる配属分けがあるのはこのためだ。前線で戦うにはスキルは必須。故にスキルを持たぬレベル10未満の者は、後方部隊に回される。そして、とりわけレベルの低いお前は、この先スキルを得ることも期待できぬから、物資の輸送係になるというわけだ」
百鈴のレベルは3。
教官の期待できぬという言葉が、彼女に重くのしかかった。




