9話 ヨーカ
今日も嫁がかわいい。
詳細は省くが、マミちゃんという彼女(ほぼ嫁)ができた。
食って寝て、働いて、さらにやることやったら、もうすべてが満たされる。
リア充最高だ。
シン「それじゃ、行ってくるよ。」
マミ「早く帰ってきてね。」
シ「暗くなる前には帰るから。」
マ「……。」
マ「やっぱり、私も一緒に行きたい。」
シ「治安悪いから、一度俺一人で様子を見てから、って話したやろ?」
マ「うん……。」
シ「状況次第今度で連れてくよ。」
マ「わかった……。」
嫁に涙目で心配されるって、いいね。
そもそもちょっと危ないことするつもりだから、今日は絶対連れて行かないけど。
◇◇◇
ヨーカから直接情報収集するため、異世界探索のため、ヨーカの要塞都市外壁の外側にあるスラム街にワープ魔法を使って飛んできた。
シンのワープ魔法は、自家製ゴーレムなどで魔力感知して空間を認識済みの場所や、一度行ったことがある場所へ瞬時にワープできるので、外壁内に飛ぶことも余裕でできる。
しかし、一度スラムや領の警備兵を実際にこの目で見てみたくて、わざわざ足を運んだわけだ。
突発的な面倒ごとを回避するため、ヨーカでもすでにありそうな服のデザインではあるが、念のため認識阻害の魔法をかけたローブ(でかめのパーカー)を羽織っている。
事前にショップで購入したのは以下の装備
・黒いブーツ
・作業着風の太めの綿パン(ベージュ)
・異世界風のシャツ(紺)
・フード付き前開きパーカー(黒)
上着には認識阻害魔法をかけておく。
ナイフなどを装備すれば、防具がなくても見た目は立派な冒険者に見えるだろう。
事前情報によると、この世界では毎日洗濯する文化もないようで、皆、服はボロボロで汚れている。
デザインは問題なくとも、清潔感がありすぎて、認識阻害をしていなければ悪目立ちしそうである。
まずスラムに降り立った感想。
臭い。やばいくらい臭い。
日本の街が無臭すぎるのかもしれない。
下水と死体と血の匂い、さらに病人のような匂いもする。あぶねーな。
まったく動く気配がない人間が地面に転がっているのを、スラムを出るまでに数体目撃している。そのうちの一人は、10歳前後の子供だった。
年寄りの物乞い
浮浪者の物乞い
包帯だらけの傷病者の物乞い
薬漬けで目の焦点の合わない者
想像より少し酷めのスラムだった。
警備兵とは、絡んだだけで殺したくなるのは目に見えているので、認識阻害で入領ゲートを素通りしてみた。
受付では何組かが揉めている。
一人は、見た目が小綺麗な商人風で、門兵に賄賂を請求されている。
もう一人は娘を連れている父親で、複数人の門兵につかまっている。
内容はこうだ。
農夫の父親は、10歳になった娘を口減らしのためヨーカの娼館に売りに来ている。
珍しい話ではなく、この辺の田舎では割と普通のことらしく、本人も周囲も平然としている。
そこで門兵は父親に、「賄賂として娘と一度遊ばせろ」、要するに「タダでやらせろ」と言っていて、父親は以前、上の娘を売りに来たとき、門兵に差し出したところ娼館で半額に値切られたそうだ。
買取価格は生娘なら1G、そうでなければ5Sらしく、「遊ぶなら5S払え」と門兵は主張している。
それを横で聞いている娘の表情には、生気がなかった。
先の商人は渋々賄賂を払い、父親はゴネ続けている。
とりあえずこの場にいた門兵と父親には、【悲運と股間激痛の呪い魔法】をかけ、娘には【開運の加護魔法】をかけておいた。
この頃には、バフやデバフ魔法は非術者の魔力自然回復力を維持コストに使い、効果を任意に切るまで、死ぬまで継続するようにしてある。
つまり、こいつらの運命はもう決まったようなものだ。
改めて実物を見てみて、この領の統治者は何かあったら、基本的に処分で問題なさそうだと感じた。
まずは冒険者登録のために冒険者ギルドへ向かう。
門があるヨーカのメイン通り沿い、門から比較的近い場所にギルドはある。事前に情報収集済みだ。
裏通りで以前狩りまくった魔獣や生物の毛皮など、売買用に保管していた大量の素材をアイテムボックスからリアカーごと取り出し、それをお手伝いゴーレムに引かせて持って行く。
面倒が起こらないようにゴーレムには認識阻害、自分には【商売人の加護魔法】をかけておく。
商売人の加護魔法の効果は簡単。商売相手からの印象を良くし、売る時は相場以上、買う時は相場以下になる。
素材はまだ大量にあり、一度に全部売るほどではないので、そこまでのチートは必要ないと判断。一度に大量に売ると経済も狂うかもしれんし。
知らんけど。
認識阻害ローブのフードを脱ぎ、認識阻害(弱)にしてから冒険者ギルドに入ると、いかつい冒険者たちの舐めるような視線が刺さる。
今は服装や装備の違和感と、連れのゴーレムにだけ認識阻害がかかっている状態だ。
掲示板に貼ってある、
「グレートグリズリーの毛皮の納品依頼、最高品質1枚40G、3枚まで急務」
という紙を剥がして、受付に持って行った。
受付のいかついおっさん「納品か?」
シン「冒険者登録だ」
受付「……。1Sだ」
シ「納品依頼から支払う」
受付のいかついおっさんは、無言で冒険者登録用紙を差し出した。
受付「字は?」
シ「大丈夫だ」
必要事項をサポちゃんの補助で記入し、受付のいかついおっさんに渡す。
受付「既約はそこの壁に書いてあるから読んどけ。ギルド証作ってくるから、その間にあっちの素材買取カウンターで納品依頼の手続きやってろ。終わったら持って行ってやる」
と言って、奥へ引っ込んでいった。
受付のいかついおっさんが顎で示した方には、奥に獲物の解体をする設備のあるカウンターと、武器防具を扱っているカウンターがある。
素材買取と書かれたカウンターに毛皮やその他の素材を置いていく。
最後に納品依頼書も差し出した。
カウンター横に座っていた大男が、ぬっと立ち上がり「ちょっと待ってろ」と一言告げて、毛皮を作業台で広げ始めた。
しばらく待っていると、奥から硬貨を取り出してカウンターまで持ってきた。
大男「グレートグリズリー魔獣種の毛皮1枚40Gが3枚。他素材合わせて計208G。ギルド登録料差し引いて207G9Sだ」
大男が盆に乗せた硬貨を差し出す。
無言で受け取り、それっぽい革袋に入れて懐にしまうふりをして、アイテムボックスに収納した。
大男「兄ちゃん、この素材どうした?」
絡まれるかと思ったが、商売人の加護魔法がかかっている。印象は良いはずだ。
シ「狩った」
大男「……。兄ちゃん、すげーな?ヨーカの冒険者ギルド最高記録だぜ?」
賞賛か。
ちょっとどきどきした。
その後も、「Cランクにたった1日で昇格した最速記録」だの、「こんなに腕の良い処理をできるやつはなかなかいない」だの、散々な持ち上げようだった。
ん?C?
しばらく騒いで奥に報告に行ったりして、大男は興奮冷めやらぬ様子。
まぁ、こっちはチートなので、こんくらいは当然だ。
奥から受付のいかついおっさんが戻ってきて、隣に来て囁いた。
受付「ほらよ。今日の稼ぎでC級だ。半年以内にあと32G稼いでギルドに貢献すれば、次はC+級だ」
シ「……」
書いてあったな、そんなこと。
素材はまだまだ大量にある。残りの素材を売ったらどうなるんだか。
サポちゃん「ジャイアントスパイダーの外骨格が、今回一体につき15Gで売れました。
残り97体分の余剰があります。すべて15Gで販売すると、一気にA級まで昇格し、本日から12ヶ月以内に残りの素材販売と追加で137Gを稼ぎ出せば、A+級に昇格します。
追加で猪や鹿を数体狩猟して毛皮を売りにくるだけで、通常最高ランクであるA+級に到達可能です。」
なるほどね。
売りすぎによる価格暴落も考慮して、残りのGスパイダーの外骨格は、認識阻害をかけたゴーレムに大都市へばらけて売らせるか……。
それにしても、あの大蜘蛛、よくあんだけ狩ったもんだ。
あまりにでかい群生地を見つけて、その場にいた半分くらい、ちょうど100体になるまで狩ったから、残り97個も素材があるんよね。
食用可って解析鑑定が出たから食べてみたら、蟹みたいで美味しかった。
まだまだ食べきれないほど在庫を持ってる。何かの商売でも始められそうだな。
礼を言ってその場を後にしようとしたら、視界の端でチンピラ風の冒険者が、シンの足を引っ掛けようと自分の足を突き出してきた。
――とりあえず、思いっきり踏み抜いてやった。
ボキッ!「うぎゃあ!」
派手な音と悲鳴が聞こえたところで、認識阻害ローブのフードを被ってギルドを後にした。
その後どうなったかなど知らん。
あんな絡み方、魔法がなくても誰でもわかるわ。
アメリカのいじめか。
目的地までの道中、街の様子を観察していたが、想像通りの治安の悪さだった。
喧嘩、無銭飲食、スリ、当たり屋、金貸しの集金。
ヤクザみたいなやつが商店の店員に「用心棒代払え!」と怒鳴ってるのも見た。
一通りの定番犯罪を、30分くらい歩いてる間に全部目撃した。
しかも今、昼日中の良い時間やぞ……全く。
◇◇◇
そうこうして目的地の薬屋近くに到着した。
店の前では、長い金髪を1つに束ねた超絶美少女が、3人の男たちに囲まれて言い争っている。
見物人も出始めていた。
近づいていくと、男たちはシンに気づかないまま、その中の1人が娘の手首を無理やり掴んだ。
その男の肩に手をかけた。
シ「なんしよん?」
ナイスタイミング。――計算通りだ。
終焉の暁シュウエンノアカツキと言います。
小説を投稿しだして間もないです。
よろしくお願いします。
エックス(旧ツイッター)始めました。よろしくお願い致します。
終焉の暁 @syuennnoakatuki




