4話 シンイチロウの家ver2情報補足
家の外観は、ただの木造に見えるが、その本質は土魔法で作成された建物である。
素材の粘土には、ショップで購入した大量の【魔力強化繊維】を練り込み、引張強度を向上。
【応力緩和加工魔法】を施すことで、弾性を持たせた陶器構造――
いわばFC造なのだ。
※地球上での建築表記なら、鉄筋コンクリートはRC、鉄骨造はS、木造はWとなる。
この異世界に来てから1ヶ月の間、シンイチロウはゴーレムに命じて森から大量の粘土を回収させた。
そして、新たに作成した【対物時間経過促進魔法】既存の"土操作魔法"、"結界魔法、炎熱創作魔法"を駆使して、粘土の発酵・寝かし・生形・乾燥・素焼き・施釉・本焼きといった工程を、本格的にこなしたのである。
大量に必要となる釉薬は、まず少量をショップで購入し、それを"解析鑑定"して原料を把握。
以降は、必要素材を購入してゴーレムが自作するという、自家製釉薬生産体制まで確立した。
FC造の部分は、"土操作"の魔法と"結界魔法"を使って継ぎ目のない一体成形・焼成を行っており、品質を安定させるため、10数回の失敗を経てようやく成功したのだ。
この仕上がりに至るまでには、相当な試行錯誤があった。
なお、失敗した粘土素材も無駄にはならなかった。
アイテムボックス内に回収後、"魔力強化繊維"のみを残し、粘土素材だけをSPに変換することで、ほとんどポイントを消費せず、再び陶器用粘土と交換できたのだ。
2回目の失敗後、SPに変換する前に"解析鑑定"を試みたところ、「粘土を魔法で加工していたため、一定の魔力が粘土に宿っている」ため、との事だ。
この時、アイテムボックス内でも「解析鑑定が可能」であることに気づき、以後、すべての工程をボックス内で完結させるようにしたことで、作業スピードが飛躍的に向上したのだった。
ちなみに、地球上に陶器造の建築物が存在しないのには、ちゃんとした理由がある。
建築物サイズの成形や焼成が困難であることももちろんだが、何よりも、建築材としての陶器の物理的性質が致命的に向いていないのだ。
ここで登場する「応力緩和加工魔法」は、本来建築に不向きな陶器に対し、以下の性質を強化する魔法である。
・弾性(曲がりやすさ)
・破断ひずみ(割れにくさ)
・人的荷重耐性(ジャンプや衝撃への強さ)
この魔法は、床・天井・外壁・内壁すべてに作用させた。力を分散させ、変形によって衝撃を逃し、割れにくくすることを目的としている。
さらに、熱に強く劣化しない"魔力強化繊維"を粘土に混ぜ込んだのも、同様の目的だ。
たとえば――
・普通の陶器は、スマホのガラスのように、落とすと簡単に割れる。
・スノーボードの板なら、曲がっても折れずに耐える。
・コンクリートなら、ヒビが入っても完全に崩れるまでは時間がかかる。
――そんな陶器を建築素材として使えるようにするには、魔法による強化が不可欠なのだ。
ここまで手間暇をかけた理由は明快だ。
ショップで6000万ポイント以上もする高級一軒家を、自力で家の大部分を魔法作成すれば、半額以下にできるからである。
シンイチロウの前職の知識をもとにすれば、日本の地方都市でも6000万円じゃ買えないレベルの物件、余裕で1億円クラス超えの高級一軒家だ。
ちなみに、シンイチロウはこれまでコンビニ弁当相当の食事を、1食あたり500P前後で交換していた。そのため、体感的には「1SP = 1円」という換算感覚で生活している。
必要な知識は、すべてサポちゃんに聞けば即座に返ってくる。
「こんな能力があったらいいな〜」というシンイチロウのイメージが、そのまま魔法として具現化するのだ。
これはもはや"超便利"どころか、"異世界生活必須レベル"の能力である。
ゴーレムが学習した知識や、練習した体術・剣術などの経験は、毎晩、シンイチロウが寝ている間にゴーレム使役者のシンイチロウに経験がフィードバックされる仕組みになっている。
そのため、実はシンイチロウ本人も、料理・家事・戦闘などが一通りこなせるようになった。
すべて、ゴーレムが練習したおかげである。
しかも、痛みを感じず壊れにくいゴーレムの身体で何度も訓練を積んでいるため、今ではかなりの腕前になっている(※自称)。
こうして、血の滲むような努力と工夫の末に、シンイチロウは高級一軒家の建設に成功したのである。
シンイチロウ、何もしてない?そう見えるかもしれないが、雑事をゴーレムに任せるのは、そのために設計した能力だ。
"結界魔法"で家を成形し、"対物時間経過魔法"で乾燥、"結界魔法"で窯を作り、"炎熱操作魔法"で焼き上げる――
すべてシンイチロウの発想であり、構築した魔法体系だ。
「事前に考えつけさえすれば、勝てる」
シンイチロウは、そういう能力を自ら設計して身につけたのだ。
もちろん、やらねばならないことは、まだまだある。
とはいえ、そろそろ次のステップに進む段階に来たのかな――
シンイチロウは、そんな風に軽く考え始めていた。
終焉の暁と言います。
小説を投稿しだして間もないです。
よろしくお願いします。
エックス(旧ツイッター)始めました。よろしくお願い致します。
終焉の暁 @syuennnoakatuki