3話 生活基盤構築
シンイチロウは新築した家のリビングで、コーヒーサイフォンで淹れたコーヒーを飲みながらくつろいでいた。
雰囲気は若々しく、体つきもだいぶ筋肉質になっている。
ここまで来るのは長かった。
なんせ、転生(転移)してから一ヶ月もかかったのだwww。
昨日までは、魔力(MP?)【自然回復力アップ】の効果を付与した、簡素な家とベッドを土魔法で作って住んでいた。
それから、拠点近くの魔物――ゴブリン、コボルト、オークといった異世界定番の魔物を優先して狩った。
グレートグリズリーという魔獣や、巨大なタランチュラ系の虫型魔物、ジャイアントスパイダーなども狩って狩って狩りまくった。
それでも、新しい家を作るためのSPが足りず、思いついたのがこれだ。
この広大な森林地帯全域に【土地の支配魔法】を作成して展開し、土地の状態把握、全生物の索敵・管理、支配領域内生物の思考・行動誘導、死体や素材の全自動回収、全自動SP変換、これらを可能にした。
ついでに、感知魔法に引っかかる者が支配地に侵入した場合も把握できるようにしておいた。
そうしてようやく一昨日、危険な魔物たちを狩り尽くしたわけだ。
そこまでしてようやく、最高グレードの一軒家を交換できるほどにSPが貯まったのである。
この家の性能は、魔道具(家電)搭載、太陽光と風力による自家発電(発魔?)、上下水道完備で、アイテムボックス内に自由に出し入れ可能な【サバイバルチート家屋】である。
自分の魔力や魔物から得られる魔石という魔法エネルギーを燃料として使用するが、専用の魔道具を使って食材や調味料、日用品まで自動で再補填し、家事や雑事は家事・料理スキルをインストール済みのお手伝いさんゴーレムが維持管理する、ゴリゴリの【魔法建築物】だ。
魔石を直接SPに変換し、ショップから必要な物資を購入する流れを、すべて自動化してある。
外観は、外壁に蔦植物が絡みつき、屋根には苔が生えていて、いかにも“魔女の家”といった風情(異世界人男性居住)。
内装は現代日本最先端仕様という、「異世界最強家屋(自称)」である。
しかもこの家、害意や悪意を持つ者はもちろん、シンイチロウから認識許可がない者すべてに対し、認識阻害魔法が常時発動しており、防犯面も完璧だ。
この魔法効果は、アイテム(家)に直接付与してある。
屋内や敷地内での攻撃魔法の使用や、外部からの魔法行使は、すべて魔法エネルギー(魔素)に分解される、【魔力自動分解・吸収魔法】が施されている。
建物維持や光熱供給、お手伝いゴーレムの燃料、物理衝撃感知や結界発動などの維持エネルギーとして使用・保存される。
つまり、【自給自足チート家屋】でもあるのだ。
ちなみに、建物に対する物理的な衝撃は悪意の有無や事故の意図を問わず、被害が出そうな時にだけ【自動発動対物理結界魔法】が発動し、建物を保護するようになっている。
森で見つけたニワトリのような「地鶏」を飼育し、簡単な畑を作って、野菜・ハーブ・薬草などの栽培も始めた。
家の裏には、樹齢3000年(【植物成長促進】の魔法をかけた)ソメイヨシノ風の魔木(ショップで苗木を購入)を植えた。
敷地は西洋風のオシャレな鉄柵で囲い、ゴーレムによる警備も万全である。
◇◇◇
ようやく軌道に乗り始めた異世界生活だが、すべてが順風満帆だったわけではない。
それは今から2週間ほど前、初めてグレートグリズリーの魔獣化個体と遭遇した時のことだ。
サポちゃん「索敵報告。拠点に近づく大型魔獣あり。体高2メートル超、体重600キロ超。大型の熊のような姿。猛威度は中程度です」
「あいあい、了解。戦闘用ゴーレムを向かわせて」
「承知しました」
【戦闘用ゴーレム】とはお手伝いさんゴーレムと基本的に外観は同じで、身長は倍近く、各部位は土魔法で成形し、結界魔法を窯として炎熱魔法で焼き上げた陶器製のパーツで構成した。
身長は約200cm、体重は200キロ超の【重装甲戦闘用ゴーレム】である。
ロマンとして刀剣術を練習中で、将来的には魔法転送と合わせた“魔法戦士”のようになることを目標にしている。
人型ゴーレムは、実際の人間と関節の可動範囲が同じくらいになるように作成してある。
ちなみに、【お手伝いさんゴーレム】は身長120cm、【作業用の人型ゴーレム】は160cm級を作成。
装甲は戦闘用より薄く、軽量化してある。
熊型魔獣に3体の戦闘用ゴーレムを向かわせ、遠隔で様子を見る。
100mほど離れた場所から、ゴブリンやオークを仕留めたのと同威力の直径2cm、円錐型弾丸の"マッドガン"を発射。
長距離狙撃用の長い結界砲を使って頭部に命中。怯んだ様子だが、軽傷で激怒し、ゴーレムに向かって突進してきた。
今度は直径5cm級のマッドガンで、右目あたりを狙って再射撃。命中したが、怯むことなく涎を垂らして突っ込んでくる。
前衛の盾役ゴーレムが、熊の左前足の一撃で激しく吹き飛んだ。
続いて、熊は仁王立ちになり、中衛の射撃ゴーレムに襲いかかろうとしたその瞬間――
後衛ゴーレムが発射した10cm級砲弾、【魔法障壁破壊】【麻痺・混乱の状態異常付与】魔法弾の2連射が、熊の心臓を貫き、戦闘は辛くも勝利に終わった。
熊型魔獣が息絶えたのを確認し、現地視察のため空間操作魔法のワープ魔法で直接現地へ移動した。
"解析鑑定"――
サポちゃん「グレートグリズリーの魔獣変異種。雄。状態:死亡。
発情期が近く、普段より神経質で凶暴な時期。
魔獣とは、獣などが魔物や人などの魔的高等生物を大量に捕食し、魔法的に変質した生物。
魔獣化していない種と通常の生殖も可能で、稀に生まれながらの魔獣も存在する。
基本的に人間に対して攻撃的であり、魔力の高い生物を捕食し続けることで、さらに強い魔獣へと進化する」
その時、グレートグリズリーの心臓あたりから、光る石のような物体が宙に浮かび輝き出した。
"解析鑑定"――
サポちゃん「【魔石】魔獣・魔物・魔法に長けた者が死亡時、心臓付近からドロップする。
小型のものは魔道具や大規模魔法のエネルギー源に。大型のものは魔術師の魔法媒体に加工される。
強力な魔物・魔獣の魔石はより高額で取引され、属性色付きの魔石も存在する」
今回の魔石は無属性で、ボコボコながら球体に近い形状。直径8cm程度。SP変換だけでも約20万ポイント相当で、換金性の高い優良素材である。
魔石をアイテムボックスに収納し、グレートグリズリーの死体に目を向ける。
サポちゃん「アイテムボックス内で全自動解体魔法を使用すれば、素材ごとにSPに変換できます。倒した魔物の【素材自動回収・自動解体魔法】を作成して実行しますか?」
シンイチロウ「うん。お願い」
毛皮は現地通貨に換金するため保管し、肉など他素材はSP変換。結果、40万ポイント以上を獲得。
今後、魔獣化した獣を発見したら、優先して狩る方針が確定した。
今まで、ゴブリンやオークの魔石は、体外に出る前に死体ごと回収してSP変換していたため、存在に気づいていなかった。
今後は、魔石を「専用通貨」あるいは「異世界通貨との換金手段」としての用途を見越し、個別にアイテムボックスへ回収・保管する方針とした。
ちなみに、後に判明した魔物素材の平均SP換金レートは以下の通り。
・ゴブリン:5,000P
・上位種(ゴブリンメイジ/ボブゴブリン):30,000P以上
・コボルト:5,000P
・上位種:10,000P
・オーク:20,000P
・上位種:100,000P以上
・ジャイアントスパイダー:200,000P
"自動回収・素材解体魔法"では、任意の部位のみを保存し、不必要な部位はSPに変換するようサポちゃんに申し付けておいた。
初めて倒した魔物は都度確認するよう、厳命しておいた。
この魔法は後に、土地の支配魔法に組み込んだのだ。
そういえば、熊の胆嚢は薬の原料として高価だったな……。
熊類は【胆嚢】【革】【魔石】だけ残す方針でいこう。
次に被害状況確認。
前衛で盾役だった戦闘用ゴーレムは、陶器製の盾ごと砕かれて行動不能になっている。
肩から胸にかけて粉々で、腕ももげていた。
猛威度「中程度」でこの被害。要改良である。
広大な森林地帯の魔物の駆除も一段落し、次はこの森の外の情報収集でも始めようかと思う。
終焉の暁、シュウエンノアカツキと言います。
小説を投稿しだして間もないです。
よろしくお願いします。
エックス(旧ツイッター)始めました。よろしくお願い致します。
終焉の暁 @syuennnoakatuki