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【百合】放課後の呼び出しが男子からなんて、いつから錯覚してたの?  作者: 冷泉七都
第一章『わたしの相手は……女子!?』

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第5話

 伊吹は自宅の自室で、夏樹からメッセージが来ていることに気付いた。

 送られた時間を見ると、一時間半ほど前。

 つまり、部活時間の最中(さいちゅう)だ。

 部活が終わってスマホを見る隙もなく家まで帰ってきたから……。

 もっと早く確認しておけば――と思ったが、過ぎたこと。

 勉強机のイスに座りながら、わたしは夏樹のメッセージに、素直な気持ちで返す。


『行きたいっ!』


 伊吹から既読と返信が届いたのは、その日の20時前。

 そのメッセージを見て、夏樹は安心した。

 いつもなら恋の駆け引きで、すぐメッセージに既読を付けるなんてしないのだが、今回は違う。

 今日あんなことがあって、伊吹が普段通りにやり取りをしてくれるのかを思案し続けたせいだ――すぐにでも見たかった。


 続けて伊吹は、今日はやけに既読が早いなと思いながら但し書きを送る。


『木曜日がテニス部ないから明後日にお邪魔していいかな』


 へぇ、伊吹はテニス部なんだ――。


 制服が皺になるなんて気にせずにベッドに転がった夏樹は、ラケットを振ってボールを返す伊吹の姿を想像した。

 伊吹のショートヘアがふわりと浮いて、美しい汗が身体から零れ滴る。

 彼女のためにあるのかと思うほど、テニスというのが似合っていた。


 夏樹は思考から現実に戻り、伊吹への返信を送る。


『うん、大歓迎だよ!』

『明後日まってるね』


 夏樹の二つのメッセージは両方、ゼロ秒で伊吹の既読が付いた。

 わたしの返事を待っていてくれたのかな――と思うと嬉しくなる。


『伊吹ってテニス部だったんだね』

『そうだよ

 中学のときからやってるんだ』

『なら、結構上手なの?』

『去年は奈良大会でベスト8』

『え、すごっ!』


 伊吹が夏樹との会話を楽しんでいるとき――。


「お姉ちゃん! ママがお風呂先入りなさいってさ!」


 扉越しに聞こえた声に、内心後回しにしたくなりながらも「はーい」と答える。


 いま、夏樹といい感じなのに――。


 私の妹――伊月(いづき)に、正直多少だけイラついた。

 だが、伊吹はアレの存在を思い出して、パジャマ一式とスマホと、机の中から取り出したアレを持って風呂場へと向かった。


 まだまだ続く夏樹とのやり取りをしながら、服を一枚一枚脱いでいく。

 一糸纏わぬ私は、こんな時のために買ったアレこと――防水ケースにスマホを入れてから、浴室に侵入した。


 そのとき、伊吹の頭には悪魔的――というよりも小悪魔的な発想が浮かんだ。

 そして伊吹はシャワーから掛け湯を浴びて、身体を洗う前に湯船に浸かった。

(別に問題ないよね?)


 一方、そんなことは露も知らない夏樹は、いまだベッドに仰向けで倒れ込んでいる。


『直接電話で話したいな』


 ぇ――!?


 直前の、中学時代の会話からは脈絡もない伊吹の提案に、夏樹は驚いた。

 だが、正直なところ嬉しいWELCOME(ウェルカム)


『わたしもしたい』


 そう返すと、すぐに伊吹からラウィンの友達追加のURLが届いた。

 ちなみにラウィンとは、日本人の9割が使っているといわれるトークアプリだ。

 今使っているインストクラムには通話機能はない。

 だからここに移ろう、というわけだろう。


 伊吹を友達追加すると、『夏樹だよ』と言う謎のキャラが描かれているスタンプを送った。

 それから5秒も経たないうちに、スマホが振動して着信を知らせる。

 夏樹は通話開始のボタンを押した。


「もしもし」

『もしもし』


 夏樹は、スピーカーモードに切り替えたスマホを自分のすぐそばに置く。


『電話しようって、急にごめんね――』

「いいよ、さっき送ったけど……わたしもしたいし」

『なにそれ……――』

「えっ」


 伊吹の気に障る発言でもしてしまったのだろうか。

 夏樹がそう思案したのも刹那――。


『――うれしい』


 伊吹の照れた声に、夏樹は言葉を失う。


 これはただの友達同士の通話じゃないんだぞ――。


 そんなことを思い知らされる。

 そりゃあ、たとえ相手が女子だとしても、自分のことを好きだと言う人がそんな調子だったら、心に響くものがあるのは明らか。


『ねぇ、夏樹……テレビ電話にしてもいい?』


 夏樹を追撃するかのごとく、伊吹がおねだりするように質問する。


 付き合えないと言った手前だが、まだ夏樹の心は伊吹に傾いているのだ。

 夏樹はドギマギしながらも、「うん」と返事した。


 一方、浴室の伊吹はというと……。


 作戦成功――。


 そう内心で呟きながら、ニヤリと微笑する。

 いつもの、はにかむような破顔一笑とは違う。


 あと私の提案への返し方を聞くに、今、夏樹は私のことを意識してくれているとみた。

 今から私が実写で、しかもこんなシチュエーションが写ると、夏樹がどんな反応を見せてくれるのか楽しみだ。


 伊吹は身体を前屈させ、手に持っているスマホを浴槽の縁の上に置いた。


 ポチャン――。


 そのとき伊吹が立てた水音。

 カメラをオンにするため、スマホを顔の上に持ち上げた夏樹の耳に、その音は届いた。


 まさか……――。


 夏樹は一縷の可能性だとは思ったが、水音の原因を感付く。


 夏樹が画面をタップし、右下に自分の映像が登場したとき、ちょうど伊吹もカメラマークの箇所を押した。


 白っぽい光景が、夏樹のスマホ画面を襲った。

 画面の中央には今日の夕方に見た、やけに美しいショートヘアの少女。

 その少女は綺麗な顔をさらして、特に頬をほんのりと紅潮させている。


 夏樹はすぐに、予想通りの状況を把握した。


 やっぱりお風呂だ――。


『んー、なんか夏樹の反応が薄い気がする……』


 伊吹は口を突き出して、スマホを凝視する。


「さっき水の音が聞こえて、もしかしたらって思ってたから。心の準備があって――」

『そっかぁ、夏樹をドキドキさせたくてやったんだけどなぁ。失敗か……』


 今日夏樹が言った言葉――本気で好きにさせて――を早速実行してみたという伊吹。


「伊吹っ!」

『ん?』


 少しばかり落ち込んだ様子で斜め下を向く伊吹に、夏樹は居ても立ってもいられなくなった。


「わたし、内心緊張してる。伊吹が裸……、でそこにいるんだって思ったらさ……」

『ほんと?』

「本当」

『じゃあ、一人の女子として見てくれているってこと?』


 一人の女子として――。

 よくある言い方にすれば、異性として見てくれている? ということだ。


「まぁ、友達としては見れてないかも」


 そうだ。わたしは伊吹がただの女友達なら、絶対にしない反応をしてしまっている。

 これは紛れもない事実として頭に残る。


『なら! 付き合――』

「ごめん、それとこれとは違うっていうか……――」

『あ……そっか……、うん。私急ぎ過ぎたかも。

 はは、一日に二回も振られるなんてね』


 乾いた笑いを飛ばす伊吹は反省した。

 久しぶりに、一年振りに話せたからって浮かれすぎていた、と。


「いや、わたしは嫌じゃないから。どんどんして!」

『そんなこと言ってくれたら嬉しいな……。夏樹、楽しみにしておいて』



 そこからはハプニングもなく、二十分ほど平和に話したところで、二人とも晩御飯を食べていないことを思い出して通話が終わった。


 夏樹はリビングへと向かう。

 ふと、わたしが言った言葉の数々を思い出す。


 わたしって、なんて我儘なんだろう――。


 それを受け止めてくれる伊吹の内面を、また好きになったと感じた。

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