第3話
時は放課後、所は校舎裏。
一人の固まる少女――夏樹。
その子に近づいていく少女――伊吹。
夏樹は予想外の展開に、昨日散々したシュミレーションなんて忘れてしまっていた。
待って、待って――!
伊吹が女子なんて聞いてないんだけどっ!?
彼……いや、彼女はショートヘアに真面目そうな雰囲気だけど、はにかむ笑顔がとても可愛くて、その一見相容れない二つが良いようにマリアージュして……。
とにかく、普通の美人な女子高校生だったのだ。
どこかで見たことある気がするが、具体的な女優名までは思い出せない。
そんな夏樹のグルグル脳内なんて露も知らず、伊吹は真剣な眼差しで見つめて――。
「今日は伝えたいことがあって呼んだんだ」
一方、言われた夏樹はもっと混乱して、首を縦に振り、相槌を打つだけで精一杯。
「回りくどいのは嫌だから、単刀直入に言う。私は、夏樹のことが――」
夏樹の息継ぎが聞こえるほどに、周りは静かだった。
いや、吹奏楽の音色や野球部の掛け声は確かにあった。
でも、二人には関係ない。
二人は、二人の世界へと誘われたのだ。
覚悟を決めた伊吹は軽くブレスを吸い込み、世界で一番むずかしい言葉を言う。
「――好き」
そして――。
「付き合ってください!」
夏樹の耳には確かに聴こえた。
無駄にリアルな夢なんかじゃない。
伊吹の顔を見ると、状況を飲み込むことができなかったわたしなんて消えた。
伊吹の本気は、夏樹を理解させた。
………………。
…………。
……。
伊吹は夏樹の返答を待つ。
だがそれは、伊吹の想像とは180度ちがうものだった。
「……ごめんなさい」
「……っぇ――」
伊吹は虚をつかれて、間抜けな声を漏らした。
「なんでっ!」
考える前に言葉が出ていた。
DM上では、あんなに仲良くしていたじゃないか――!
夏樹から次に放たれた言葉もまた、伊吹は全く考えていなかったものだった。
「わたし、伊吹のこと、ずっと……男子だと勘違いしてたの――」
「私が……、男子……?」
「そう。だから……、恋人じゃなくて、友達になろう」
夏樹は思い出した。
伊吹が自分から『私は男子だ』なんて言ったこともないし、わたしが思う根拠もどこにもなかった。
一人称が『私』だったり、乙女チックな話もあったりだの、伊吹が女子だと気づく場面は沢山あった。
夏樹は気づいた。
伊吹が男子だ――なんてわたしの思い込みだった。錯覚だったのだと。
それは、わたしが男子と仲良くなれるって浮かれていたせいなのだと。
そして、わたしが勘違いした挙げ句、伊吹はわたしに告白した。
これを断るのは……――。
短時間でもわたしはすごく悩んで答えを出した。
なのだが――。
「……いやだ」
伊吹の返答は、こうだった。
伊吹自身でも、こんなわがままみたいな台詞。信じられなかった。
でも、私の本心がそう言っているのだ。
そして続けてこう言う。
「夏樹が私と付き合えないのは、私が女子だからだよね。外見だけだよね」
「……そう。合ってる」
伊吹の本気さに、夏樹は取り繕わずに返した。
「私も夏樹を好きになるまでは、女子となんかは無いって思ってた。でも実際、好きになれた」
「……うん」
「もし、夏樹が私の内面は好きだって言ってくれるのなら、チャンスが欲しい」
「チャンス……?」
「そう。夏樹は普通に生活してくれるだけでいいから、『恋人になるか、友達になるか』の答えは後回しにして、私に恋人になるチャンスがあるって思わせてほしい」
「……」
「だって、性別が原因で初恋を諦めたくないから――」
夏樹の答えはすぐに決まった。
それは、伊吹への同情からではない。
わたしは伊吹の内面が気に入ったんだ。
まだ女子同士で付き合うなんて想像もつかない。
でも、わたしも伊吹を本気で愛することができるかもしれない。
伊吹がわたしを愛してくれたように。
「では、答えは保留で――」
伊吹の顔は明るくなった。
「……ありがとう」
「ちゃんと、わたしを本気で好きにさせてね」
一度好きになった人を好きじゃなくなるなんて、どんな理由でも嫌だから――。
「はい」
伊吹は心に誓った。
夏樹の言うとおり、本気で好きにさせる。と。
夏樹にはこの後起こる、予想外な事態が一つあった。
夏樹が思う以上に、伊吹は積極的過ぎた――。
◇あとがき◇
本編に入りました!
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