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【百合】放課後の呼び出しが男子からなんて、いつから錯覚してたの?  作者: 冷泉七都
プロローグ『わたしにも青春が来たのさ』
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第2話

 こんな嬉しいことは生まれて初めてかもしれない。

 少なく見積もっても、テニスの県大会にベスト8入りした時よりかは幸せだ。


 ちなみに、初恋は叶わないというジンクスを知っているか?

 それは私――廣渡(ひろわたり)伊吹(いぶき)には適用されなかったらしい。


 というわけで、私は凄く浮かれている。


 何故かって説明が不充分――?

 理由を語るには、少し前のお話に遡る必要がある。


   / / /


 簡潔に言えば、私は俗に言う一目惚れというのをした。


 高校に入学して、何度目かの体育の授業。

 ちなみに、この学校では2クラスが合同でしている。


 今日は、体育館にて体力測定をすることになっている。

 体育教師のクラスを越えて仲良くなろうという計らいのもと、測定しあうペアは違うクラス同士でつくる制限がかけられた。

 それ以外の決め方は自由だという。


 私の三組にはウザがらみしてくるが頼りになる――(あおい)という子がいて、ペア問題はモーマンタイと思っていたばかりにとても困った。


 四組にはテニス部の人が一人もいない異常事態。

 加えて私は自分から話しかけに行くほどの勇気が足りない。


 そうしようかと思案していたところに、一人の女子がやってきてくれて――。


「まだペア決まってないよね……」

「うん」

「じゃあ、一緒にしよ!」

「いいの……? ありがとう」


 まさに女神だった。


 好き――。


 こんな感情になったのは初めてかもしれない。つまり、初恋。

 私はこんな衝動的な恋(一目惚れ)は絶対しないと息巻いていたのだが、どうやら言葉だけだったらしい。


 すると、彼女は私の胸部を直視してくる。


 やめて――!

 私のコンプレックスなの――!


 私の初恋は、自身の子供な胸によって無残に散ったのだった……。


 ……なんて、今ではあり得ないと分かり切っているが、あの時は正常に考えられないほどに恋慕していたのだろう。



「ひろ……と……、さん?」


 私はヒロトではないけど、その名前には身に覚えがあった。

 結論を言うと、彼女は私のジャージの胸元部分に刺繍されている名前を見ていたのだ。


廣渡(これ)で、ひろわたりって読むの」

「へぇー、珍しい名前だね。よろしく廣渡さん」

「……よろしく」


 名前を呼ばれたことに感動を覚えながら、挨拶を返す。

 変なところはなかったはずだ。

 私も彼女の名前を――。


「えーっと……」


 私も彼女の名前の刺繍を見る。

 ちなみに、彼女の()()は私の()()とは違っていた。


 栃沢――。

 これは『とち()わ』と『とち()わ』の二択か。

 考えていると、彼女が「とちざわだよ」と教えてくれた。


「栃沢さん、改めましてお願いします」

「そんな形式張ってなくていいのに」


 彼女は微笑みながら言った。


 口を軽く抑える手の指先――。

 揺れた彼女の長い髪――。

 彼女の履くシューズ――。


 何から何まで、素敵に見える。


「ペアが決まったところから始めていけー」


 体育教師の一言で、私と彼女は動き出した。


 彼女は率先して道具を持ってきてくれたり、暇な時間はずっとお喋りしてくれたりして、私の恋心は一過性じゃないんだと思った。


 上体起こしのときに、一定間隔で来る彼女の可愛い顔にドキドキしたのは言うまでもない。



 でも、この一幕以外に、彼女と対面で話す機会は一切なかった。

 私に勇気がないのが原因なのだが、なんだか悲しい。


 ちなみに体力測定中に聞いたのだが、その日は栃沢さんと同じ文芸部の親友の霜崎さんが休みだったらしい。

 私もテニス部じゃなくて、文芸部に入っておけば良かったかな……なんて、本気で思った。



 ここまで聞いたらバッドエンドまっしぐらだが、もちろん実際は違う。

 二年生に進級した私は、少し勇気がついたのだ。


 体育の授業中に盗み聞きした彼女の下の名前――夏樹を使って、インストクラムという高校生の九割がしているSNSで『夏樹 ――高校』と検索するとヒットした。

 やった――。

 私は衝動的にDMをした。


 最初はネット上の会話だけで充分だと思っていたけど、夏樹と恋愛のベクトルでもかなり親密になった私は、それだけじゃ欲求不満になり、六月下旬、彼女に送った――。


『明日の放課後、校舎裏に来て欲しい』

『伝えたいことがある』


 ほぼ告白じゃないか、そんな文を。


 夏樹からの返信は『はい、行きます』。

 私は勝ちを確信した。


   / / /


 今日。つまり、告白当日。

 私は放課後すぐに、校舎裏へと向かった。

 そして、校舎の壁にもたれながら待つ。


 「あっ、夏樹っ!」

 

 少ししてから、校舎の角から夏樹の姿が見えた。

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