第13話
「あたし決めた――」
葵は夏樹に向けて言葉を放つ。
その真剣さに黙ってしまう夏樹。
「あたし、これからはなつきといぶきを応援するよ」
「……」
「いぶきとは親友のままでいる」
夏樹はなぜ葵がそんなことを言うのかは分かっていた。
だが、葵になんて言うべきかは分からない。
喋らない夏樹を見て、葵は話し続ける。
「今日のなつき、いぶきと手を繋いだりしてて羨ましかったし――。でも不意に目線が合ったら恥ずかしがったりしてて、本当のカップルみたいだなって思って……」
「うん」
夏樹は客観的に見た自分たちに気づき、取り繕って相槌を打った。
「だから、なつきには勝てないんだなって……」
葵は一つ深呼吸をして心を落ち着かせた。
そして、悲しみに溢れながらの言葉を続ける。
「戦う前から負けていたんだなって、気づいたの――」
その言葉に、夏樹は居ても立っても居られなくなって――。
「ごめん……」
「……なんで謝るの?」
「だって、葵さん今日辛かったでしょ。好きな人が他人と仲良くしてるのを見るだけなんて」
わたしがそんなことを言うべきではないとは知りながらも、夏樹は言ってしまっていた。
「まぁそうだけど……」
「だから、ごめん」
「でも、あたしはそのお陰でいぶきを諦めるって決められたから……」
葵は食い気味に気持ちを伝える。
「もしなつきが遠慮してたら、あたし、いぶきに告白しちゃってたかもしれない」
「それは――」
告白した方が良かったんじゃ――。
そんな言葉は葵の考えとは真逆だと気づいて、言うのをやめた。
告白しないも一つの選択肢なんだって、葵から伝わった。
「あと一つだけお願いがあって、つかさには言ったんだけど、あたしがいぶきを好きってことは秘密にしておいてほしい」
「うん、分かった」
そんなの言われなくても分かってるよ。
葵は伊吹と親友で居続けると決心したんだから――。
夏樹は心からそう思った。
「そろそろ戻ろっか」
「そうだね」
司沙と伊吹の待つところに戻った二人は、なんにもなかったように振る舞う。
「いぶき、つかさ、お待たせっ」
夏樹は司沙の親友としての心意気に、思わず感心した。
「じゃあ、帰ろーっ」
司沙の一声で四人は改札へと向かい、ホームで五分ほど待つと電車がやってきた。
「あたし、文芸部に行くのやめる」
唐突な発言に伊吹は驚いた。
「――? なんで?」
「嫌だからって訳じゃなくて、部活が週六になるから身体が持たなそうで……」
「ぁぁ、そっか」
「でも、いぶきは行ってあげてね。なつきが待ってるでしょ」
葵は付け加えて言った。
葵には違う理由もあるのだが、伊吹は気付いていない。
もちろん夏樹と司沙は分かっている。
伊吹は嬉しそうに夏樹の方を向いた。
「そうなの?」
「うん、伊吹にきて欲しいな」
「じゃあ、毎週行かせてもらうよ。夏休みもテニス部ないときは絶対行く」
「そうなの――?」
夏樹は司沙に確認する。
「夏樹には言ってなかったっけ? ごめん」
まだ夏休みに部活があるとは決まってない。
でも、さっき伊吹を引き止めるために司沙は言ってしまったのだ。
「去年はなかったじゃん。なんで今年は」
「夏休みも部活しましょうって、先生に提案されて……」
「まぁいいけど。伊吹も来てくれるし」
どうやら夏休みは本当に部活をすることになったらしい。
あとで顧問に伝えとかないと――と、一応部長である司沙は思った。
/ / /
今日の朝、四人が集合した駅まで帰ってきた。
電車では語りきれなかった話を少しだけして解散になった。
葵は改札の方へと向かい、司沙は違う方面のホームに向かっていく。
夏樹と伊吹は二人、車内で揺られている。
「夏樹――」
「ん?」
名前を呼ばれて顔を見る夏樹。
「あと一週間で夏休みだね」
「あー、ほんとだ。すっかり忘れてた」
「でさ、二人だけでどこか行きたいなって……」
伊吹は依然不安そうに、夏樹を遊びに誘う。
「うん、行くっ」
「良かった――」
笑顔で応える夏樹に、伊吹は安堵を浮かべた。
「どこ行こっか?」
「ちょっと遠いけど、せっかくの夏休みだし、五條の花火大会とかどう?」
「花火大会っ! 行きたいっ!」
夏樹は目をキラキラさせて喜ぶ。
「じゃあそこは決まりで。でも花火は八月の真ん中あたりだったと思うから、その前にも会いたいな――」
「っ……!」
不意に『会いたいな』なんて伊吹に言われて、夏樹の頰は紅くなった。
それを隠すように、夏樹が提案する。
「わたし見たい映画があるから、一緒に行かない?」
「いいの?」
「良いよ、行こっ」
伊吹はうなづいて、もっと笑顔になった。
「家に帰ったら空いてる日確認して連絡するから」
「うん。わたしは夏休み暇だから、伊吹に合わせるよ」
「ありがと」
「また連絡するねっ」
最寄駅に着くと、伊吹はそう言って電車を降りていく。
来週からは待ちに待った夏休み。
この間で、わたしは葵さんの分まで伊吹と仲良くなるんだと決心した。
◇あとがき◇
奈良、大阪の地名多くてすみません。
五條とか、絶対に知らないじゃん……。
さて、これにて葵がメインの第二章はおしまいです。
そしてキリもいいので、ぜひ評価ポイントとレビューをお願いします!
すでにして頂いている方々、本当にありがとうございます。
最後に一言。
第三章は夏樹と伊吹メインで、ラブコメラブコメします。
待ちに待った夏休みなので。