パーフェクト・デイズ⑨
この作品は9作目です。
ピッ、ピッ、ピー!ふぅ。試合終了。前半の森のワンゴールから試合は動かず、1-0で見事勝利した。森のフォローばっかで、正直むっちゃ悔しいが…。振り返ると、元川が向こうの顧問と話し合っていた。元川はあの後も俺のシュートチャンスを何度も阻止した。態度はクソだが、DFとしての腕は高い。そこが、どうしても、気に入らんっ!きっと睨みつけていると、何かを感じ取ったのか元川の顧問がこちらを向いた。やべ。さっさと逃げ…
「君は…ツートップの一人だったかな?」
「そうっすけど」
「私は北村。膳南高校のサッカー部顧問だ」
ぱっと見、目が細くてニコニコしてるから近所のおっさん。だが、体を見ると、運動をやる人の証のようなよく日焼けしたたくましい腕と足が特徴的だ。
「いやー、今日はなかなかいいゲームだったね。ぜひ私たちが勝ちたかったところではあるが…」
そう言って、北村はハハと苦笑いを浮かべた。だが、それは困ったような苦笑いではなく、聞いた者をゾッとさせるような笑いだった。声に全く感情のこもっていない、機械のような乾燥した笑い…
「うちの元川をじっと見ていたけど…何か用かな?試合中も険しい顔をしていたが」
やば。このおっさんよく見てやがる。いつの間にか口元に浮かんでいた笑みは消えていた。これは…マズいな。
「いや。昔一緒にサッカーしてたことがあって…懐かしいなぁって」
嘘ではない。本当にサッカーをしてたことがあった。嘘では、ないんだ。
「ほぅ。そうだったのか」
なるほど、と北村が独り言ちた。よし、今のうちに逃げよ…
「あ、ちょっと」
うっ。呼び止められた。できればさっさとご退散したいところだ。
「何すか」
「君、うちのチームに来ないか」
「…は?」
思いがけない言葉に、思わず間抜けな言葉が漏れた。何を言ってるんだ?しかもこのセリフ…
「今日の試合の君の動きはすばらしかった。ゴールを決めたあの選手も良かったが、その前のパス、試合全体のサッカーIQ、動きがすばらしかった。うちのチームはオフェンスが弱くてね」
確かに、俺らのチームは羽田がセンターバックをしているが、ぶっちゃけそこまで強くない。俺が相手なら瞬殺のメンバーだ。話の内容は頷ける。だが…
「どうだい。うちのチームでエースにならないか?」
ここで俺が向こうで活躍したからといって、それは学校生活と呼べるのか?
「…嬉しいんすけど、お断りします」
「なぜだい?」
「俺の俺のための俺が納得できる最高の生活を過ごすためです」
「…は?」
「そういうわけで、さいなら」
それだけ言って、俺は足早で走り去った。北村は、走り去る背中にボソっと呟いた。
「…ずいぶん立ち直ったじゃないか」
遅くなりました。コメントいただけたら幸いです。