パーフェクト・デイズ⑧
この作品は8作目です。
ピーッ!試合開始。とりあえず相手の出方を見たい。森からパスされたボールを、ドリブルで前線に運ぶ。ツートップだから当たり前なのだが、左隣では森が同じ速度でついてくる。しかも、文句の一つも言えない絶妙な距離。やっぱ段違い。敵だとムカつくが、味方だと頼もしい。ま、俺がゴールを奪うけど。そうこうしているうちに中盤まで攻め上げた。ミッドフィルダー2人で止めに来るが…甘い。ここで隣にノールックパス。森がパスを受けて、一気に加速。おいこら、ちょい待て。ワントップみたいなムーブを始めんなし。しかし、森の技術力で敵のディフェンスはいとも簡単に抜かれていく。追いつけねー。すると、森がピタッと止まった。なんだ?見ると、敵のセンターバックがいいアプローチをしていた。シュートコースを切られた。かといって、これ以上進んだら相手がカットしてくる間合い。あのセンバ優秀ー。だが、
「森!」
俺をノーマークなのは舐めてるぜぇ…。素早く声に反応した森はドンピシャのヒールパス。よし、ここならミドルでも決められる。左足を勢いよく踏み込んだ…だが、目の前にボールがなかった。遠くでホイッスルが聞こえる。ライン外にボールが出ていた。俺を密かにマークしていて、パスカットした奴がいたのか…?あまりに一瞬だった。誰だ。その答えは、親切にも向こうから教えてくれた。
「あっれぇー。廣村じゃーん。まだサッカーしてたのかぁ?」
「…元川」
元川拓斗。同じ2年生であり、俺のかつての仲間。
「いやぁ驚いたねぇ。まさかまだサッカーしてるとは。思ってもみなかったよぉ」
下卑た笑いを浮かべながら、語尾をいちいち伸ばしてくる話し方。1年前と全く変わっていない。
「あんなことになったからぁ、もうサッカーなんてしたくないと思ってたよぉ」
くっ。明らかに俺が言い返してくるのを待ってる。人の神経を逆なでするのが上手いやつ。この印象も、初めて会った時からほとんど変わっていない。
「別にいいだろ」
ぼそっと吐き捨てた。これ以上話すことはない。小走りでボールが出たあたりまで駆けだした。ちょうど味方のスローインだった。アイコンタクトをしてから、敵の背後へアクション。そこへ上手くボールが跳んできた。ゴールまではやや遠い。自分で運んでいくしかない。
「おぉとっと。これ以上は行かせないよぉ」
元川が詰めてきていた。せせら笑うように細かく距離を詰めてくる。どうする。1on1で抜ける確証はない。ぐずぐずしてると後ろからも敵が来る。どうするどうするどうするどう…
「先輩!」
…この声は。グラウンド外の消え入るような声じゃない、自信に満ちたハキハキとした声。その声がした方へ、迷いなくボールを蹴りだす。元川の目が一瞬だが、大きく見開かれた。ノーマークでパスを受けた森は、残っていたディフェンスを一気に抜き去り、ペナルティーエリアに侵入。キーパーは身長が高いゴツいやつだった。でも、誰であろうが、あいつなら…森なら…。森の足が勢いよく振り上げられた。そのままの勢いで蹴りだされたボールは、ゴールに引き寄せられるように、一直線でゴールに吸い込まれた。森の先制ゴール。普段と違い、感情をむき出しにした森にチームメートが集まり祝福する。その輪に加わろうとしたとき、後ろから声を掛けられた。元川だった。
「驚いたよぉ」
「何がだ」
「お前がゴール前で誰かにパスを出すなんてなぁ」
動揺が悟られないように、小走りで森のもとへと駆け寄っていった。
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