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パーフェクト・デイズ⑥

この作品は6作目です。

 美舞とダラダラ帰ってたら、西日が完全に山に隠れてしまった。こいつの話長ー。内容スッカスカだし。じゃ、また!と手を振って駅へ去っていく美舞の背を見届け、俺も家の方向へ歩き始める。あー。寒ー。もう5月になるはずなのに、この寒さは異次元だ。くそっ。テレビの天気予報だと、季節外れの温かさとか言ってたのに。あのキャスターは今どう思ってんだろ。やっちまったとか思ってんのかな。その様子を想像するとちょっと笑える。ははっ。すると、肩の力が抜けたのが分かった。あれ。そんなに緊張してたか、俺。いや、緊張というか、自分を縛ってた何かがほどけていった。そんな感じだった。森、羽田、島田、県選抜…。目の前に浮かんではなかなか消えてくれなかった。浮かんできたものを振り払うように、頭を振って帰っていたら、家に着いた。祖父の祖父のそのまた祖父くらいが建てた由緒ある木造一軒家。この元号が令和になった今でも、木造一軒家に住み続ける中学生ってなぁ。せめて鉄筋コンクリートにして、安全にした方がいいのに。そんなことを思いながら家の引き戸を開けた。

「ただいまぁ」

返事は返ってこない。両親は共働きだ。これも由緒ある石工の仕事を夫婦でしている。ちなみに、俺は継ぐ気はさらさらない。もうちょい儲かる仕事がしたい。靴を適当に脱ぎ散らかし、階段で二階へと上がる。ギシギシなる急な階段を昇ったら、すぐに俺の部屋だ。ガラッとふすまを開ける。勉強机と本棚のみの質素な部屋。布団は押し入れから出して寝るし、ゲームはWi-Fiの影響で一階にある。本棚にはマンガと小説がぎっしり。この部屋だけ見ると、ものすごい秀才感が漂ってるかもしれない(ギャグマンガばっかの本棚が邪魔するかもしれないが)。しかし、この部屋の住人の頭は、学校だと下から数えた方が早い。こんな部屋だからだ、と思うが、それならマンガを撤去させられるのは火を見るより明らかだ。通学バッグを適当に放り投げ、床にごろ寝する。はぁー。長い一日だった…。疲労がキツい。まぁ一日で二回も保健室行っただけあって肉体的にもキツいが、むしろ精神がもたない。何つったらいいかな。なんか…心臓を鷲掴みにされて、少しずつ握られていっているような、不快な感覚。どれがそうさせてるんだろ。森か?県選抜か?保健室のオバハンか(さすがにありえんとは思っている)?…まただ。自分語りが始まっている。やめなくちゃ。また”あの日”に戻ることになる。気を紛らわそうと思い、本棚からギャグマンガを一冊手に取った。何回も読んだものだから、正直言って面白味はない。ただ、何かしてないと不安なになる。何気なくパラパラめくっていると、あるページで引っかかった。まためくり始めようとしたが、手が止まった。全身がぞぞっとしてくる。そのページは、主人公がいたずらしたことが先生にばれて、こっぴどく叱られるいわばオチの場面だった。怒り狂った禿げ頭の先生と泣きべその主人公。しかし、気をとられたのはそこじゃなかった。それは、主人公が怒られている時に言ったセリフだった。

「何だよぅ。ちょっとごまかしただけじゃないかぁ」

ごまかしただけ。無理やり強がっている俺。いたずらがばれて逆ギレしてる主人公。主人公の泣き顔が、奇妙に俺の顔に変わってくように感じた。ぐっと全身に力がこもった。ごまかしてたまるか。静かに立ち上がり、しばらく開けていなかった勉強机の引き出しを開けた。中にポツンと入っていたのは、しわくちゃに変形した一冊のノートだった。

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