パーフェクト・デイズ⑤
この作品は5作目です。
校舎を出ると、西日が山に隠れそうになっていた。自分の後ろに長い影ができて、こちらを見つめていた。"あの日"からできた、心の影。すすいでもすすいでも落ちない、黒いシミ。
「おーい!柾斗ぉ!」
顔を上げると、美舞が立っていた。美舞は俺の彼女。軽く手を挙げて呼びかけに答える。
「全然来ないじゃーん。何してたんよー」
「悪い悪い。島田に捕まってさ」
「あのカバに?まじありえんあのカバ。この前もさー…」
出た。恒例の愚痴のオンパレードだ。この前は、音楽のババアにスカートが短いって注意されたことだっけ。何にせよ、真面目に聞いてないから関係ない。もともと告ってきたのは向こうだし、俺は付き合ってあげているだけだ。ま、彼女がいた方が格が違う感じするし。ちょうど良かった。
「…まじ最悪やったー」
あ、愚痴が終わった。
「そりゃ、大変やったな」
「何その冷めた感じー!もっと親身になってよー」
「だって他人事じゃーん」
「ひどっ」
言葉とは裏腹に、美舞は満面の笑みだった。聞くとこによると、美舞は入学式で俺に一目ぼれしていたというから驚きだ。その憧れのヒトと一緒にいれたら幸せなんだろーな。俺は違うけど。一言でいうと、美舞は自分大好きって感じだ。さっきの愚痴にせよ、周りを下げて自分の事を良く見せようとする。そんな美舞を、時々、本気で、哀れだと感じる。自己肯定感が高いのは否定しない。俺も同じというのを先ほど、痛いほど思い知った。俺が哀れに思うのは、周りを蔑むことだ。俺は森の事を確かに妬んでいるが、それは嫌いとかそんなんじゃない。心のどっかで分かってた。あいつには敵わないって。俺は、あいつに憧れてたのかもしれない。だが、美舞は違う。スクールカースト下位を徹底的にこき下ろす。そこには一切の躊躇がない。自分が勝ち組にいるのをいいことに、自分に勝てないやつをあざ笑い、罵倒する。その毒針が自分に向けてほしくない。その思いでこびへつらう奴も多い。なんだか情けないように感じる。それがこの戦場で生き延びるただ一つの手段と信じて。でも、それは違う。そんなんじゃ、ホントの意味での学校生活とは言えない。ふっとため息が漏れた。それを耳聡く聞きつけた美舞が「何ー?どーしたーん?」と聞いてくるが、一回苦笑いでかわす。こんな自分語りするタイプじゃないのにな…。それほどまでに、森は俺の心をかき乱した。”あの日”を彷彿とさせる森の存在。俺はこっからどうなるんだろな…。
登校頻度空けてしまいすみません。コメントいただけたら幸いです。