パーフェクト・デイズ④
この作品は4作目です。
うっ…。ダメだ。やっぱアホみたいに痛い。そりゃ耳元でヒュって音が鳴るシュートやし。勢いエグいて。あー…。俺、負けたんか。しかも股間直撃で。…ダメだ。怒りが込み上げてきた。いかんいかん。アンガーマネジメントだ。確か6秒間数えるんだったな。1…2…3…4…5…6。ふーっと息を吐きだしてもみる。おぉ、怒りが静まった。すげーわ、アンガーマネジメント。確かに、自分のプライドにこだわるなんて小さい悩みだっ…
「あ、起きた？どう？痛い？どんな感じ？」
…たかもしれないが、今考えが変わった。このオバハンは絶っっっっっ対許さん。せっかくのアンガーマネジメントが意味なくなった。ちょっと触っていい？とセクハラかましてくるオバハンを雑にあしらい、保健室を後にした。ったく、あのオバハンは油断も隙も無い。でも、結果的に森への怒りは薄まったから、オバハン実は優秀？…違うな。頭に浮かびかけたオバハン名医説を即座に全否定。そんなことを考えていたら、曲がり角で誰かとぶつかった。痛っ。誰だよ。倒れた奴は顔をおさえてうずくまっていた。ははっ。コケて顔ぶつけるとはドジだな。どれどれ。その顔を拝ませてもらおうか。しかし、ここで気づいた。倒れた奴の服装はスポーツウェア。しかもサッカー用。そして体型は長身のデブ。これは…
「廣村！どこ見て歩いとる！」
島田ぁ！？今日会議だから部活行けないって言ってたやん。学生がテンション下がるやつ。来ないって言った顧問が来る。ん？それなら早めに練習切り上げたサッカー部ヤバくね？ま、練習終わる判断下した先輩に全ての罪を擦り付けるとしよう。うん。
「何ほっつき歩いとる。練習はどうした」
「先輩がもうあがっていいって」
「何？あいつがそんなことを？そうか…」
考え込む様子を見せた島田。よっしゃ今のうちに…
「では僕はこれで…」
ゆっくりと後ずさる。早く逃げると猛獣を刺激するってテレビで見た。この島田の前から安全に立ち去らねばならない。ゆっくりと、慎重に…
「待て」
静かな死刑宣告に思わず足が止まった。オワタ。
「何でしょうか」
「森を見なかったか」
予想外の言葉だった。絶対俺が怒られると思った（アンナコトやコンナコトをやらかしてるし）。何て答えりゃいいかな。さっきまで一緒にいたけど、股間直撃シュートでぶっ倒れてからの場所は知らんし…
ま、ここは正直に答えよ。
「分かりません」
「そうか。ならいい」
あっさりと話を切り上げられた。てことは別に俺じゃなくても良かったのか。つ、ま、り。ちょっと野次馬根性で、何で探してるか理由聞いてもも許されるっしょ。森の弱みになるかもしれんし。
「何かあったんですか」
「あぁ。実は…」
さぁ。森の弱みカモン！
「あいつが県選抜に選ばれたから、それを早めに伝えてやろうと思ってな」
…へ？県選抜ぅ？ここあたりの地区では、毎年県の代表として何人かが選ばれている。選定は高校のサッカー部の顧問が行い、他校の選手をそれぞれが推薦して決まる。つまり、森は他校からも一目置かれた存在であるということだ。
「…すごいっすね」
とりま自分が聞いたからには何かしらリアクションせねばいけない。県選抜。久々に聞いた。そして、暗い影を落としてくる。
「だろ？1年生から選ばれるのは異例なことだ。まったく鼻が高い」
お前もしっかりやれよ、と言って島田は去っていった。去っていった顧問の背中を睨みつけながら、拳を固く握りしめた。
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