パーフェクト・デイズ③
この作品は三作目です。
なんだ、あのシュート。人外かよ。俺の目算だと、一番上のゴールポストよりも2mは高かった。なのに普通に突っ立っていた俺の脳天に直撃…。落差約3mの無回転シュート。言葉にしてなおヤバさを増してきた。直線のシュート以外にもそんな球も蹴れるとか反則っしょ。野球ゲームじゃあるまいし。しかも死球。一塁行かんくちゃ…。なんて考えていると、いつの間にか森が目の前にいた。
「…次、先輩っすよ」
無言でボールをゴールから出し、また11m離れる。ふーっと長い息を吐きだした。さて、次はどーすっかな。自分が一番得意なコースを止められては、もう蹴る場所ありません。頭で静かに鳴り響く試合終了のゴング。高々とレフェリーに上げられる森の手。がっくりうなだれる俺…。あかんあかん。惨めにもほどがある。ちゃんと勝ちますよっと。と、いうわけで。ここはあえての…。軽く手を挙げて即蹴り。助走なしシュゥゥゥーット!意表を突いたこのシュート。案外狙いはよく、右下隅へボールが伸びる。これならさすがに…パシッ!…決まらんよね。自信なかったし。再び役割交代。さて今度はどんな球で来るのか。さっきみたく凄まじい変化球かもしれない。はたまた直球勝負か。んがあ!分っかんねー!男は度胸!どこでも来いやぁ!見ると森が軽く手を挙げていた。さぁ来い。森がゆっくりと助走を始め…ない?ありゃ?何やってんだ?しかし、サッと血が下がる感じがした。俺と同じ、助走なしシュート!気づいたときには鋭い音とともにボールが蹴りだされていた。これアカンやつや。一歩も動けず、森の二本目のシュートを許してしまった。
「…先輩が0本で俺が2本。俺の勝ちっす」
それじゃ、と言って森は立ち去ろうとしていた。さっきみたくなぜだ、と考えている自分の思考を蹴飛ばして、森の前に立ちふさがった。
「ちょいまち。まだラスト一本あるっしょ」
「…どう足掻いてもラスト一本で先輩は逆転できませんが」
「ラストの一本を決めたら…五億点!スペシャルルール!」
小学生が言いそうなセリフ殿堂入りの負け惜しみを吐いた。森は沈痛な表情をしていたが、小さくだが頷いた。スペシャルルール可決!裁判官が持っているハンマー(ガベルと言うらしい。勉強の知識は全く入ってないのに、こういうのばっか覚えてる気がする)を頭の中で盛大に叩いた。勝利が見えてきた。さっきから一本も入れてないけど。でも過去を振り返っても仕方ない。前進あるのみ!つーわけで、決めまーす。このトンチンカンなルールを認めてくれたことに敬意を表し、全力のストレートで勝負する。真っ向勝負じゃあ!勢いよく蹴りだしたボールはゴールの右隅…じゃない。軌道がややずれて左側に。やべー。コースも甘いし。これじゃ止められてしまう。あーあ、これで完全敗北か。…パスッ…はいはい入りましたよっと…って、え?入った?マジで?何回見直してもボールはゴールに収まっていた。森はその場に立ち尽くしていた。と、り、あ、え、ず。
「っしゃー!どうだオラー!」
勝利の雄たけび。ビクトリィィー!森は苦々しげに突っ立っていた。これでスコアは500,000,000対2。俄然有利になってきた。後はセーブすれば俺の勝ち。つっても今まで一回も止めてないんだけどね。ふーっと深い息を吐きだしてゴールラインに立つ。森の顔もさっきと比べ幾分かこわばっているように見える。チクりが怖いとは…。まだまだ純粋ですなぁ、と思うが自分の心が汚れているだけかもしれない。さて、目の前の勝負に集中。今度は森がゆっくりと助走を始めた。よし、助走なしじゃない。てことはストレートかフォークか。ぐんと森の筋肉が縮まり、ボールが弾かれたようにこっちへ蹴りだされた。美しい縦回転。これは、ストレート!まっすぐこちらに向かってくる。正面なら止められる。俺の…勝ちだ!でも…あれ?ちょっと正面にしては低くね?まあ体当てて止められるからいいけど。ドス。重い音とともにボールは、俺の股間に直撃した。これ、アカンやつや…。さっきとは違うアカン感じ。アソコがパンパンになってるのが分かる。弁慶の立ち往生って、こんなんだったのかな。薄れゆく意識の中、最後に見たものは、ゆっくりとゴールに転がっていくサッカーボールだった。
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