パーフェクト・デイズ⑬
この作品は13作目です。
森が出してきたハンドサインは、サッカーの試合でも使われるようなものだった。と言っても、特別なものではなく、自身の進行方向を指さす「裏抜け」の合図だ。しかし、今はサッカーの試合中じゃない。このハンドサインの意味は…。導き出した答えに沿って、こっそり森にハンドサインを返す。それを見た森は短くうなずいた。よし。間違ってなかった。あとはタイミングだけだが…
「おい、何ずっとしゃがんでんだ」
まずい。そろそろ浜本が我慢できなくなっている。もともとウソの腹痛だし。バレるのは時間の問題。森、早くしろぉ!すると、そんな願いが通じたのか、森が急に浜本たちの後ろで大きな足音を立てて駆け出した。
「おい、うるっせえぞ!」
足音に反応して浜本たちが後ろを振り向く。おもしろいことに、全員が振り返った。かかった!ただしゃがんだと見せかけて、クラウチングスタートの姿勢をとっていた俺は一気にスタートを切る。それを見た森も、素早く加速。作戦成功だ!俺が森に出したハンドサインは、森の進行方向とは逆向きを指さしたもの。すなわち、森を囮にして自らが突破するというフェイントのサイン。羽田は森がうまく救ってくれたっぽいし、あとは全力で逃げるのみ!
そうして十分ほど走り回り、完全に浜本たちを振り切った俺たちは再び合流した。
「ふぃー。危なかったぁ」
呑気なことを言う羽田。お前が絡まれるからいけねえんだろ、と頭を軽く小突く。
「…よくサインが分かりましたね」
あれほどのピンチを脱出してきたというのに、森の口調はいつもとまるで変わらない。なんなら軽く小馬鹿にされてるような気もする。当たり前だろ、とこちらも軽く小突いておく。そうしたら、なんだか笑えてきて、思い切り爆笑した。それにつられて、羽田も同じように爆笑した。森は、爆笑とまではいかないが、いつもの森にしては珍しく、口元には穏やかな笑みが浮かんでいた。後日、この件が誰かによってチクられ、島田にものすごい剣幕で怒鳴られたことはいうまでもなかった。
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