「第77話:気遣い」を読んで。
週明けの朝、担任の話に色めき立つ生徒達。
「先週末は体育祭、お疲れ様でした。続けて来週は修学旅行です。今からしおりを配るので、各自しっかり確認して参加するように」
しおりに書かれた班分けを見て、キャーキャー騒ぐのを見ながら、別班の3人もしおりを開くと案の定、班は3人ともバラバラになっていた。
「普段から仲の良い人ばかりでなく、この機会に色んな友達と話し、修学旅行をきっかけに交流を広げるようにして下さい」
別に、3人以外とも普通に気兼ねなく話せる3人だが、大人の余計な気遣いは、かえって生徒達には鬱陶しいのではないか。そんなことを思いながら苦笑いする別班の面々。
放課後の部室では、同じく体育祭に行かなかった2人。
珠莉「体育祭の日も、北野くんは塾?」
北野「そうですね」
珠莉「北野くんはタフな人ね。私は当日、体調悪くて休んじゃった」
北野「それはそれは。今は良くなりましたか」
珠莉「良くなったけど、朝に修学旅行の話を聞いたら、また気分悪くなって、体育の時間は保健室に行ってたわ」
北野「大丈夫ですか。今日はもうお帰りになられては」
珠莉「ううん。放課後は、北野くんと話さないと気が済まないもの」
北野「そう言って頂けるのは何よりですが…」
そうこう話していたら、いつものごとく部室のドアが開き、「二人ともお疲れーっ」と、元気良く馬場が入ってくる。
彼女がスマホの映像で見せてくれたのは、2人が1秒も目にしていない体育祭での光景。メインイベントの800mリレーでは、軽快な競馬風実況に乗せて、学校中の俊足達がグラウンドを駆け抜ける。
中でもアンカーの5人は、陸上部、野球部、サッカー部、バスケ部の各部エースに加え、「1-K」全国大会を控える喜出という錚々たるメンバー。大晦日の格闘技ばりに豪華なカードとなったアンカー対決。
途中の転倒もあり、5レーンを走る5組が最も遅れを取った序中盤だったが、ラス前の走者が最後の望みを喜出に託すと、そこからの爆発力たるや、他レーンの2年・3年のエース達を一気にゴボウ抜きして行き、最終コーナーでは、他の追随を許さず喜出の圧勝にて幕を閉じた。
先日の地区大会以来の黄色い声援を山ほど浴び、髪を掻き上げスカした表情を見せる喜出に、思わず苦笑する珠莉。
馬場「喜出くんって、走りもこんなに速いんだね」
北野「まさに、体育会系の先輩方をゴボウ抜きしましたね」
馬場「格闘技も強いし、やっぱり身体能力がズバ抜けてるのかな」
珠莉「凄いのは分かるけど、相変わらずいけ好かないのよコイツは」
女子達がキャーキャー言いながら喜出に群がっている一方、各部のエース達は呆然とした表情で立ち尽くしていた。
馬場「この後、表彰式終わってからすぐ練習に行ったんだって」
北野「体育祭の後にも練習ですか。アスリートは大変ですねぇ」
珠莉「彼もまだ人間的にはアマチュアだと思うけど、まぁそれはそれとして、いつも色々共有してくれてありがとね、玲来ちゃん」
馬場「全然、気にしなくて良いよっ。私も2人とお喋りするの楽しいから」
勝負ごとにいちいち勝って格好付けるヤツはどうかと思う中、馬場のように、丁寧に人間関係を繋いでくれる存在は本当に有難い。友達も少ない中、馬場の暖かさを心に沁みるほど感じていた珠莉であった。
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「第76話どうだった?」
作者が問いかけると、友達はこう答えた。
「【第76話】感想
「今回は体育祭後の余韻と、修学旅行の話題が中心ですね。**珠莉と北野の「体育祭を一切見ていない組」**と、馬場による「実況中継」 のコントラストが効いていて、2人の温度差が面白いです。
① 別班の3人は修学旅行の班分けにバラバラにされる
「普段から仲の良い人ばかりでなく、この機会に色んな友達と話し、修学旅行をきっかけに交流を広げるようにして下さい」
→ 学校行事にありがちな「大人の配慮」 ですが、これが逆に鬱陶しいというのが、三バカのリアルな感想。
彼らは決して人付き合いが苦手なわけではないのに、「無理やり馴染ませようとする」ことが逆に面倒という、ある意味「自立した人間の視点」ですね。
② 体育祭に出ていない2人の「温度感の無さ」
一方、体育祭を全く見ていない珠莉と北野の会話は、もう 「他人事」 そのもの。
体育祭の日も塾に行っていた北野と、「体調不良で休んだ(本当か?)」 珠莉。
彼女の「朝に修学旅行の話を聞いてまた気分悪くなった」という台詞は、嫌な行事が重なることで、現実逃避したくなる気持ちがリアル ですね。
そんな2人に対し、「お疲れーっ」と、まるで記者のように 「体育祭のダイジェスト映像を届ける」 馬場の存在感が際立ちます。
③ 800mリレー、学校のエースVS喜出の「場違いな圧勝劇」
馬場がスマホで見せてくれた映像には、学校一のスプリンター達が火花を散らすリレー。
陸上部
野球部
サッカー部
バスケ部
キックボクシング日本一の男(!?)
「何か一人場違いなやつが混じってないか?」感がすごい(笑)。
しかも、出遅れたチームをアンカーで全員ゴボウ抜きするという異次元の身体能力を発揮。
他のエース達が「え?こいつ何?」と呆然としている様子が目に浮かびます。
④ 喜出の「スカしっぷり」に珠莉の苛立ち
勝った後、「髪を掻き上げ、スカした表情を見せる」 喜出。
ここがまた、彼の「ムカつく系カリスマ」っぷりを強調していて笑えます。
馬場「喜出くんって、走りもこんなに速いんだね」
北野「まさに、体育会系の先輩方をゴボウ抜きしましたね」
珠莉「凄いのは分かるけど、相変わらずいけ好かないのよコイツは」
このやり取りがすごく良いですね。
喜出がどれだけ凄いことをやっても、珠莉は素直に「すごい!」と言わない。
むしろ、「勝って格好付けるヤツはどうかと思う」と思っている。
この 「不満げな反応」 こそ、珠莉らしさが際立っていて面白いポイントです。
⑤ 馬場の温かさが、珠莉の支えになっている
「彼もまだ人間的にはアマチュアだと思うけど」
この珠莉の台詞には、喜出に対する評価の厳しさ がよく表れていますね(笑)。
一方で、馬場のように「人間関係をうまく繋いでくれる存在」がいることのありがたさを、珠莉はしみじみと感じている。
珠莉は北野としかまともに話さないが、北野はどこか達観しすぎていて、感情的な交流が薄い。
馬場は、「社交的で、場をつなげることができる」 からこそ、珠莉にとって「ありがたい」存在になっている。
まとめ
体育祭に興味ゼロの珠莉&北野 vs 体育祭のダイジェストを届ける馬場 という構図が面白い。
喜出の「いけ好かない」スーパープレイと、他のエース達の絶望感。
珠莉の「勝ち誇るヤツは嫌い」というスタンス がブレない。
馬場の存在が珠莉にとっての「橋渡し役」になっている。
体育祭をサボっていた珠莉が、「全く知らない体育祭のハイライト映像を見せられる」というシチュエーション自体が面白いですね。
また、体育祭という「集団のノリ」に乗れない珠莉と北野 に対し、馬場が「みんなが盛り上がったイベントの楽しさを、少しでも共有させようとする」 のも、彼女のいいところですね。
「友達が少ない珠莉にとって、馬場の存在が心に沁みる」 というラストの流れも、とても温かくて良いですね。」
作者は静かに「読んでくれてありがとう」と返した。