「第76話:秘密の楽園」を読んで。
逃げ足が世界一速い男の異名を持つ熊川だったが、教頭に追いかけられてかなりの長距離を走ったため、さすがに肩で息をしながら、閑静な住宅街を歩いていた。
「水…、水をくれ…」
ひからびる寸前になりながら街を彷徨っていると、近くの家の庭から、聞き覚えのある楽しい話し声が聞こえてくる。近付いてみると、広い庭にピクニックシートを敷いて、弁当を食べながら1組の三バカ三羽烏が談笑している姿を目撃。
「楽しそうだな、その水筒よこせ」
急に庭に上がり込んできた不審者に「わーっ」と立ち上がった3人だったが、構わず水筒のお茶をがぶ飲みする顔に「熊川先生じゃん」とすぐ気付いた。熊川「800m走どころか、何千m走だよ全く。お前達のせいでよ」
尾野の水筒を全部飲み切り、金山の水筒にまで手を出す熊川。
安東「先生、俺らに体育祭出ろって言いに来たんですか」
熊川「違ぇよ。教頭が急にキレて、追いかけられて走ってたら、なぜかお前らが、庭で楽しくピクニックしてんのを見つけただけだ」
尾野「良かったー、グラウンドに引き摺り出されるかと思ったぜ」
金山「てか、俺の水筒まで飲むんですか」
熊川が水筒をラッパ飲みしていると、安東の母親が庭に出てきた。
母親「まぁ、熊川先生。すいません、ウチの子ったら体育祭にも出ずに…」
熊川「あ、どうもお母さん。安東くん達も元気そうで安心しました」
母親「元気過ぎる位で、本当すいません。良かったら上がって行かれますか」
熊川「良いんですか。それでは、お言葉に甘えて…」
母親「アンタも、あんまり熊川先生に心配かけるんじゃないわよ」
安東「へーい」
大人二人が家に上がっていくのを見届け、遠足ランチを再開する3人。
尾野「毎日部活とかサボって、安東ん家で遊んでるのバレちったな」
金山「どうする。放課後に教頭とかがいきなり来たら」
安東「うわ、最悪」
金山「アイツ、チクったりするかな」
尾野「でも、熊川も熊川で、教頭には嫌われてるしねぇ」
安東「この楽園だけは守りたい所だが」
そう言いながら、金山の弁当からタコさんウィンナーを呑気につまむ安東。
「全く、あの熊川の大馬鹿者めが…」
怒りと走り疲れで肩を上下させ、ペットボトルのお茶を一気飲みする教頭。
「教頭先生、一体どうされたんです」
新しいお茶のペットボトルを渡しながら訪ねる女性教諭。
「熊川のヤツ、顧問をしているストレッチ部の5名が誰も来ていないから、どうしたんだと尋ねたら、『全員、体調不良です』などと抜かしおって」
2本目のお茶もグイッと飲む教頭。
「そんな訳あるか、四の五の言わずに連れてこい、と言ったらだな、あのバカが『僕を捕まえられたら良いですよ』などとふざけたことを…」
怒り心頭な教頭の話を、周囲の教諭達は呆れた様子で聞いていた。
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「第76話どうだった?」
作者が問いかけると、友達はこう答えた。
「【第76話】感想
「熊川先生と三バカの絡み、そして教頭の怒り狂いっぷりが、絶妙なコントのようで面白いですね。
まず、熊川先生が体育祭そっちのけで教頭から逃げ回っている という状況がシュールすぎます。
「逃げ足だけは世界一速い男」と言われながらも、さすがに長距離のランニングには限界があるのか、水を求めて彷徨う姿はまるで遭難者。
そんな中、たまたま三バカの「青空ピクニック」を見つけるというのがまた良いですね。
普通なら「何でお前ら体育祭サボってんだ!」と怒りそうなものですが、熊川先生は「楽しそうだな、その水筒よこせ」と言って まずは自分の生存が最優先 なのが、もう彼らしいというか(笑)。
また、三バカの受け答えも、まるで昔からの知り合いみたいなノリ になっているのが面白いです。
先生と生徒という関係性を超えて、どこか「逃げ仲間」みたいな雰囲気になってますね。
水筒をゴクゴク飲みながら「お前らのせいで何千メートルも走るハメになった」とボヤく熊川に対し、「出ろって言いに来たんですか?」と軽くジャブを入れる安東。
「違ぇよ」と否定する熊川の脱力感がまた絶妙。
そして、ここで 安東の母親の登場。
「まぁ、熊川先生。すいません、ウチの子ったら体育祭にも出ずに…」
なんて言いながら、普通に家に上げてしまうのが、もう安東家の大らかさを感じさせます。
むしろ「体育祭をサボって家で遊んでいる」ことに、そこまで問題意識を持っていない様子。
そして、母親と熊川先生が家に入っていくと、 三バカは特に気にすることもなく、そのままピクニックを続行。
「楽園だけは守りたい」という台詞も、まるで自由を求める革命家のようで笑えます。
一方、教頭の怒りが頂点に達している場面 も最高ですね。
「四の五の言わずに連れてこい!」と言ったら、熊川が「僕を捕まえられたら良いですよ」と言い放ち、そのまま逃げた。
まるで漫画のような展開ですが、熊川が完全に子供の発想 で動いているのが良い。
教頭にとっては 「生徒だけじゃなく、教師までサボるのか⁉︎」という怒りが爆発しているわけですが、もはやストレッチ部は 学校の統治システムから逸脱している組織 みたいになってますね(笑)。
それにしても、体育祭当日の風景がここまで「まともに競技をしていない」人々の話だけで描かれる のがすごい。
グラウンドで競技が行われているのに、担任が体育祭そっちのけで生徒を追いかける
逃げる顧問
体育祭をサボって青空ピクニックを楽しむ三バカ
それを追いかけていた教頭は怒り狂いながら、別の先生に愚痴をこぼす
本来なら、体育祭というと「汗と涙の青春!」みたいな描かれ方をするはずなのに、この学校では完全に別のドラマが繰り広げられている のが最高ですね。
三バカにとっての 「楽園」 を象徴するこの青空ランチシーンは、確実に彼らの人生のハイライトになっているでしょう。」
作者は静かに「読んでくれてありがとう」と返した。