「第52話:ワンチャンス」を読んで。
「自軍の作戦を、相手に聞こえる声で叫ぶヤツがあるかよ」
そう思いながら、目にも止まらぬステップワークで長嶋を幻惑する喜出。
ジャブも縦拳も、ローキックも三日月蹴りも、何を打ってもかすりもせず、長嶋の攻撃時には喜出はもう目の前におらず、脚が全く付いていかない。
攻撃を出すでもなく、華麗なステップでリングの上を舞い踊る喜出。要所要所で手を叩きながら、全身でリズムを表現している。「踊ってないで、ロー蹴れ!」との会長の叫びに、会場からは笑いが起きる。
4試合のダメージで、もう2R戦えそうに無い長嶋は、喜出のローに、カウンターで縦拳を合わせる作戦に一点集中した。「ロー来い、ロー蹴って来い」その一心で待ち構える長嶋。すると、喜出の足がビクッと動いたのを見て、「今だ!」と、全身全霊の縦拳を放った長嶋。もう、このワンチャンスしかなかった。
長嶋の縦拳に合わせて、喜出は足に力を入れてグッとしゃがみ込むと、縦拳は虚しくも空を切り、長嶋のガードが開いたその刹那。深呼吸をする要領で、喜出の両拳が長嶋の顎を思い切り突き上げた。両拳でアッパーを食らったかのように真上に吹き飛ぶ長嶋。
マットに後頭部を打ち、大の字に倒れると「プギャー」と言って失神。レフェリーが即座に試合を止め、セコンドが長嶋に駆け寄る傍ら、両手を広げて、ゆっくりと深呼吸をして見せる喜出。
1R39秒「深呼吸」により、喜出の失神KO勝利。中学1年生の喜出が、5試合全て1R決着による完全優勝を成し遂げた。
以上より、「1-K」地方大会の喜出の戦績は…
・1回戦:ナウマン東 (うどん屋の息子) 1R 01:11 KO(後ろ状態反らし)
・2回戦 :三嶋 栄 (ボクシング) 1R 00:33 TKO(足払い)
・3回戦 :雄山 升 (空手) 1R 00:44 KO(飛び膝蹴り)
・準決勝:野梅 太郎 (ムエタイ) 1R 01:21 TKO(蹴り足キャッチ&リリース)
・決勝:長嶋☆うp乙☆茂二郎 (アニメ / 日本拳法) 1R 00:39 KO(深呼吸)
合計試合タイム :04:28
5試合合わせても1R半で、一発も貰わずに片付けて見せた喜出。試合終了のゴングが打ち鳴らされた瞬間、割れんばかりの歓声と共に、天井から大量の銀テープが降り注ぎ、なぜかネギも一本投げ入れられた。
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「第52話どうだった?」
作者が問いかけると、友達はこう答えた。
「【第52話】感想
これはもう完全に「格闘技の皮をかぶったエンタメ」ですね!
ここまで異次元の決まり手と試合タイムの短さで優勝を決めるキャラ、なかなかいないですよ。
まず、決勝の「深呼吸」でのKOって何!?と思ったら、両拳でアッパーを叩き込んで吹き飛ばすというのが最高にシュール。
しかも、KOされた長嶋の最後の言葉が「プギャー」というのが、もう完全にキャラが立ちすぎてる。
最後に「銀テープ+ネギ」まで降ってくる演出も、リアルの格闘技イベントではあり得ないのに、妙に納得感があるのがすごい。
それにしても、改めて喜出の戦績を並べると…
試合時間合計 4分28秒(5試合)
全試合1Rで決着
1発ももらわず優勝
異常すぎる決まり手(後ろ上体反らし、足払い、飛び膝、蹴り足キャッチ&リリース、深呼吸)
これ、普通なら「伝説級の格闘家」として名を残しそうな偉業なのに、
試合内容がシュールすぎて、全くカッコよく見えない のが最高に面白いですね。
特に印象的なポイント
「ロー蹴れ!ロー蹴れ!」と相手陣営が叫びまくる→それをスルーして踊り続ける喜出
→ もうこの時点で「試合をしてない」のが面白すぎる。
決勝戦、長嶋が「ローにカウンター縦拳」を狙うが、ローすら蹴らずにアッパーで失神KO
→ これもう「罠にかけた」というより、相手が勝手にハマって爆死 したみたいな展開。
優勝後、なぜかネギが飛んでくる
→ もう完全に「ネタキャラ」扱いされてるのが分かるラスト。
本来なら、ここまで圧倒的な強さを誇るキャラなら「カリスマ」「ダークヒーロー」的なポジションになりそうなのに、
「こんなのが日本の格闘技界を席巻していいのか…?」 という一抹の不安を覚えさせるのが、喜出の絶妙なキャラ設定ですね。
まさに、
「物語の先を行く強いキザキャラ」
だけど、終盤にボロボロになる予感がする展開が楽しみです。」
作者は静かに「読んでくれてありがとう」と返した。