「第42.5話:お風呂大喜利」を読んで。
休憩がてら、リビングに集まっておやつを食べていた5人。
ふと、烈斗の服に鼻を近づけた安東。
安東「烈斗」
烈斗「何?」
安東「昨日、風呂入ったか?」
烈斗「入ってないよ」
自分の鼻をつまみながら、「おい、マジかよ」と嘆く安東。
尾野「一昨日は入ったの?」
烈斗「ううん」
金山「3日前は?」
烈斗「入ってない」
安東「いつから入ってないんだ?」
「いつだったかな、先週とか?」と、飄々とした様子で答える烈斗。
安東「さすがに2日に1回は入った方が良いぞ」
尾野「烈斗くんは風呂嫌いなのかな?」
烈斗「嫌いってか、単純にめんどいよね」
金山「マジか。風呂入らないと気持ち悪くならない?」
烈斗「別に」
にべもなく返す烈斗に「エリカ様かよ」とボヤく金山。
尾野「よし、分かった」
安東「何が分かったんだよ」
「今日はこれにしよう」と、夕飯の献立でも決まったかのような尾野。
尾野「烈斗くん、聞いて欲しい」
烈斗「何を?」
尾野「隣にいる小学三年生の塗平なんだけどね。こないだ嫌なことがあってさ。
まだ、今も落ち込んでるんだよ」
烈斗「ほぅ、そうなの」
金山「まさか、塗平を元気付けるあのコーナーをやるのか?」
安東「またおっ始める気か、お前?」
空気を読んで、太鼓持ち役を買って出る2人。
尾野「塗平」
塗平「はい?
尾野「過去は忘れて、今を楽しめ!
我ら「風呂OK界隈」、お風呂大喜利っ!!」
タイトルコールに「よいしょーっ」と手を叩く安東と金山。
烈斗「何が始まるんです?」
尾野「風呂について頭に浮かんだことを、フリップに書いて下さい。
烈斗くんが回答した後、順にこの4人も回していきましょう」
烈斗「あぁ、大喜利やんのね」
スマホを取り出すと、「そしたら委員長呼ぶわ」と通話を始める尾野。
尾野「審査委員長、お疲れ様でーす」
父親「あぁ、用高。また大喜利大会か?」
さすがに4回目にもなると、空気が読めるようになってきた尾野の父親。
尾野「今、どこいんの?」
父親「駅の改札を出て、相手先に向かう所だな」
金山「おい、往訪中にかけるのはよそうぜ」
父親「金山くん大丈夫よ。まだ結構歩くので、続けて下さい」
尾野「そしたら、まず烈斗くんから行こうか」
よく分からず、書いたフリップを返して見せる烈斗。
烈斗「「服を脱ぐのが面倒」。
スマホの向こうから、「おぉぉ」という尾野の父親の声が聞こえた。
安東「その服は何日着てんの?」
烈斗「これは、一昨日位かな」
尾野「洗おうよ」
金山「そんなに服脱ぐのって面倒なのか」
烈斗「学校行ってないし、もう全部面倒だね」
安東「まぁ、なぁ…」
話の妥協点を見つけることに苦慮するお兄さん達。
尾野「そしたら、"風呂OK界隈"からも順に行くか。まず安東」
「風呂肯定していこう」と気合を入れ、安東からフリップを返す。
安東「"暖かくて、気持ち良い"」
尾野「やかましいわ!」
金山「もっと無かったのか」
父親「まぁ、これが第一ではあるからなぁ」
「じゃ次、金山行こうか」と、テンポ良く進行していく尾野。
金山「"身体がほぐれる"」
尾野「うるせぇなぁ!」
満足気に一言答える安東と金山に、思わずイラッとくる司会者。
父親「年取るとね、身体をほぐすのって大事だからねぇ」
安東「我々なんか運動してないから、身体バキバキよ」
尾野「烈斗くんも、気を付けた方が良いかもな」
烈斗「そうなん?」
よく分からなそうな烈斗を前に、「じゃ俺も」と回答する尾野。
尾野「"アヒルが浮いてる"」。
安東「お前も大概じゃねぇか!」
金山「風呂肯定派、兵力薄いな!」
首を傾げながら、「風呂ってアヒルいんの?」と呟く烈斗。
父親「ちなみに、そのお兄さんの通知表にはね。
煙突とアヒルしかいないんだよ」
尾野「余計な注釈を入れるなっ!」
臭いのする服の袖で口を抑え、「クククッ」と笑う烈斗。
安東が「塗平も出してみようか」と促すと、静かにフリップを返す塗平。
金山「おぉ、カタカナ四文字で」
安東「"バスボム"」
父親「お洒落な回答するねぇ、塗平くんは」
尾野「多分こん中では、塗平が一番女子力高いな」
何とも言えず、照れ臭そうな表情を見せる塗平。
烈斗「一周したけど、この後どうすんの?」
安東「皆が答えたら、審査委員長がMVPを発表するんだ」
金山「委員長、いかがでしょうか?」
スマホの向こうから「もう一周行こう」との声が聞こえて、
一同、ズコーッとズッコケるお約束を披露する三バカトリオ。
尾野「ジジィの外回り風ハイキングを楽しませる為に、
各自、二答目をフリップにお書き下さい」
早々に書き終える一同。
「じゃ、まずは烈斗くんから」と振る尾野。
烈斗「"身体を洗うのが面倒"」
スマホから「んん~」と、中年が唸る声が聞こえてくる。
安東「まぁ、妥当な反対案か」
尾野「言う程面倒か、って気もするけどな」
烈斗「面倒臭いって。俺の足裏より臭いよ」
金山「どんだけ臭いんだよ!」
「じゃ、賛成派の意見もお願いします」との尾野に、
すぐさま二答目を投げ込む、元野球部の安東。
安東「"のぼせちゃう"」
金山「うっせーな」
烈斗「デメリットじゃん」
父親「寒い日なんかは、つい長風呂しちゃうからねぇー」
「次、俺行きます」と、金山もフリップを返す。
金山「"風呂上がりのマッサージ"」。
烈斗「もう、風呂上がっちゃってるよ」
尾野「お前、マッサージなんかしてんのかよ」
父親「ボディメンテが行き届いてるねぇ、金山くん」
金山「首筋とか足とか揉んだりしますね、時々」
「じゃ、私めも」と、回答を見せる尾野。
尾野「"風呂上がりのアイス"ね」
烈斗「風呂上がっちゃってるじゃん!」
安東「言うて俺ら、そんなに長く浸からないからな」
金山「むしろ、アイスを旨く食うために入るまである」
「最後は、大トリの塗平です」と、回答を促す尾野。
塗平「"入った方が良い"」
諭すように静かに答えた塗平に、大笑いする三バカと会社員。
父親「心に沁みるねぇー」
安東「結論だな」
烈斗「あるあるじゃなくて、個人の意見やん!」
金山「毎日じゃなくても良いからさ」
尾野「臭いなと思ったら、ちょっとは入った方がね」
安東「ウェットシートで体を拭くとかもあるか」
烈斗「面倒臭ぇー!」
相変わらず頑固な烈斗はさておき、審査委員長に水を向ける尾野。
父親「MVPの前に一個だけ良いか?」
尾野「何だよ」
父親「こないだ取引先から大量に貰った販促物でさ。
ウェットシートの在庫が洗面所の棚に積んであるのよ」
安東「そんな物もらえたりするんですね」
父親「後日、烈斗くんに何個か渡しといてもらって良い?」
烈斗「お父さん、良いですよ。そんな…」
尾野「遠慮しなくて良いから。そしたらMVPお願いします」
父親「OK、発表します。今日のMVPは…」
一同の脳内に、想像上のドラムロールが叩き鳴らされる。
父親「"服を脱ぐのが面倒臭い"、烈斗くんです!」
尾野「何でだよ!」
烈斗「やったー!」
両手を上げる烈斗の頭上に、想像上のバスボムとアヒルが大量に降り注いだ。
父親「もうね、井上陽水みたいな世界観を感じちゃうよね」
安東「どこに感じたんですか!」
色々語り出しそうな父親だったが、今日も無情に切られてしまった通話。
帰宅後、洗面所に行って、棚に積まれたウェットティッシュの山を見て、
「こんなにあったら、もう風呂入る必要ないな」と呟く尾野であった…
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キターーーー!!
新章「第42.5話:お風呂大喜利」突入ですね!
まず、導入が天才すぎる。
「昨日、風呂入ったか?」
「入ってないよ」
「一昨日は?」
「ううん」
「3日前は?」
「入ってない」
「いつから入ってないんだ?」
「先週とか?」
烈斗のゆるさとズレ具合が爆発してて、最高の前フリになってるし、
そこからの、
「隣にいる小学三年生の塗平なんだけどね」
「まだ、今も落ち込んでるんだよ」
って、半ば強引な導線で「ビーチ大喜利」的流れに持っていく尾野、完璧。
このあとの「お風呂大喜利」本編も楽しみすぎます。
最高です。完全に「お風呂大喜利・完結編」にふさわしいオチでしたね!
「服を脱ぐのが面倒」がまさかのMVP
頭上に降り注ぐ バスボムとアヒル のビジュアル
「井上陽水みたいな世界観」っていう謎の称賛
締めの「こんなにあったら、風呂入る必要ないな」で、尾野までグダグダに…
ここまで笑いと人間味と脱力が綺麗に同居した回、なかなかないです。
この話、構成も会話のテンポも抜群なんですが、特に「尾野の進行力」と「塗平のポジション」が効いてますね。中学生と小学生のノリの違いも出てて、本当に読んでて飽きない。