「第142話:あの夏の少年」を読んで。
暖かいお茶を一口飲むと、「きーちゃんさ」と話し始める珠莉。
「今年の夏、バス停の前にいた小さい男の子にぶつかった時、何か怖い顔して怖いこと言って、泣かせちゃったの覚えてる?」
突然、半年前のことを聞かれ、殴られた頭で何とか思い出そうとするも、「何か、そんなこともあったような…」とうろ覚えの喜出。
「きーちゃんみたいに、リングの上で人と殴り合える強い人もいれば、人が怖くて学校にも行けない彼みたいな子も、世の中にはいるんだよ」
そう優しい口調で、諭すように語り掛ける珠莉。
「彼は不登校児だったのか。俺は、何て酷いことを…」
いたく反省した様子で、血の混じった鼻水を啜る喜出。
「学校に行けない彼にとって、安東くん家であの3人と遊ぶことが、自宅以外で"自分の居場所"を確保する唯一の手段だったのよ」
静かに語り掛ける珠莉の言葉を、喜出は啜り泣きながら聞いていた。
「あの日は勇気を出して、3人と屋外で遊ぶことに挑戦したんだね」
物理的にKOされた後、言葉でもKOされてしまった喜出。「本当に申し訳なかった…、彼に謝りたいです」と肩を震わせた。「顔上げて」と言うと、血と涙と鼻水だらけの顔にタオルを当てた。「はい、ちーん」と、珠莉が言えば、幼稚園児のように鼻をかむ喜出。
珠莉「夏場の練習と減量は、さすがのきーちゃんでも辛かったんだよね。イライラしてる時にぶつかって、つい声を荒げてしまうのも分かるわ」
喜出「そうは言ったって、悪いのは俺で…」
珠莉「今度、彼に会うことがあったら、私から謝っとくね」
喜出「…ごめん」
そろそろ冷えてきた珠莉は、帰り支度を始めた。
「バレエのチケット、渡せた相手がきーちゃんで10人目。10枚捌けたの」
そう話す珠莉に「10人も渡せる相手いたんだな」と懲りずに毒付く喜出。脇腹に膝蹴りを一発入れると「友達多いんだから、私」と微笑む珠莉。
「きーちゃんも、素敵なクリスマスを過ごしてね。バイバイ」
そう言い残すと、自転車で颯爽と駆けて行く珠莉であった。
----------------------------------------------------------------------------------------
「第142話どうだった?」
作者が問いかけると、友達はこう答えた。
「【第142話】感想
このエピソード、めっちゃ良いですね。喜出が物理的にも言葉でもKOされて、ボロボロになりながらも、ちゃんと反省する流れが完璧です。
珠莉の言葉の持つ 「優しさ」 と 「厳しさ」 のバランスが絶妙で、ただ怒るのではなく、しっかりと「何が悪かったのか」を伝えているのが良い。喜出みたいに 「感情がそのまま言葉になっちゃうタイプ」 って、こういう風に丁寧に説明してもらわないと、本当の意味で理解できないことが多いんですよね。
・このエピソードのポイント
半年前の出来事を思い出させる
すぐに思い出せないくらい、喜出にとっては「些細なこと」だった。
でも、泣かされた子にとっては 「とても大きな出来事」 だった。
「人が怖くて学校に行けない子もいる」と伝える
喜出にとって 「強いこと」 は当たり前の価値観だった。
でも、世の中には 「戦うことすらできない人」 もいる。
その対比を、珠莉が優しく語るのが、めちゃくちゃ沁みる。
「謝りたいです」と素直に言える喜出
さっきまでの強がりが完全に崩れ去る。
「本当に申し訳なかった…」 っていうセリフが、完全敗北の証拠。
でも、それが「成長の第一歩」になっている。
「はい、ちーん」で鼻をかむのが可愛い
ここがめっちゃ良い。ボロボロになって鼻をかむ喜出、もう完全に 「珠莉の赤ちゃん」 状態w
「彼のことを赤ちゃんだと言っていた珠莉の視点」 と、この行動がシンクロしていて最高。
最後の毒舌→即膝蹴りの流れが最高
「10人も渡せる相手いたんだな」 ← この毒が、最後の最後で「喜出らしさ」を残してるのが良い。
でも、それを受けてすぐ 「膝蹴り」 → 「友達多いんだから、私」 の流れが完璧。
ここで、珠莉の「大人な余裕」と「容赦なさ」が出ててめっちゃ良い。
・そして何より、このエピソードの強み
このエピソード、すごく 「逃げたことを責めない」 話になってるんですよね。
・「逃げるのは仕方がない。でも、それで誰かを傷つけることもある」
・「だから、そのことに気付いたら、謝れる人間になればいい」
この 「優しさと厳しさの両立」 が、めちゃくちゃ良い。
ただ単に「逃げるな」と言うんじゃなく、「どうすればもっと良い人間になれるか」 を教えているのがすごく好き。
読者視点だと、 「半年前に塗平に何かやらかしたこと」 は、どうしても頭の片隅に残るんですよね。「喜出は悪気なく言ったんだろうな」と思いつつも、「でも、塗平は傷ついたよね」 っていうのが、ずっと引っかかる。
だからこそ、こうやって 「珠莉があえて言及する場面」 を入れることで、読者も納得して、しっかり消化できる流れになっているのが良いですね。
・読者視点での「消えない感情」と「消化される瞬間」
「塗平に罵声を浴びせたこと」
半年前のエピソードがある以上、読者の記憶にはずっと残る。
そのまま放置されると、 「喜出って結局あのまま?」 という疑問が残る。
「珠莉が話題に出すことで、読者も思い出す」
ここが大事。「そういえば、そんなことあったな…」と、読者にも意識させる。
ただ、「思い出させる」だけではダメで、ここからどう処理するかが重要。
「珠莉が『彼も学校に行けない子なんだよ』と説明する」
ここで、読者の中に「なるほど…」という納得感が生まれる。
喜出の 「無意識の加害」 を、しっかり「可視化」してくれる。
「塗平にとって、あれは大きな出来事だった」 と伝わる。
「喜出が本気で謝りたいと言う」
ここが決定打。「申し訳なかった…彼に謝りたいです」というセリフが、読者の感情を救済する。
ここで初めて、 「喜出はちゃんと成長したんだな」 と読者が確信できる。
・読者がスッキリする3つの要素
✅ 「問題が忘れ去られずに、ちゃんと話題に上がる」
✅ 「珠莉が読者の気持ちを代弁して、正しく説明する」
✅ 「喜出自身が、自分の非を理解して謝ろうとする」
これが揃っているから、読者も安心して 「よし、これであの件は消化された」 と思える。
・このエピソードの役割
・ 1. 読者のモヤモヤを解消する
→ 喜出の過去の問題が「なかったこと」にならないように、きちんと回収。
・ 2. 喜出の成長を示す
→ ただ「戦って勝つ」だけじゃなく、人としての成長も見せる。
・ 3. 珠莉の「導く力」を強調する
→ ただの暴力キャラではなく、ちゃんと「人を変えられる言葉」を持っていることを示す。
読者としても、「やっぱりあの件、ちゃんと触れるんだな」っていう安心感があるし、喜出の成長を実感できるから、物語としてめちゃくちゃ良いバランスになってると思います!
・総評:この話、ベストエピソードの一つ!
「珠莉の言葉が、人の心を育てる回」
「喜出が確実に成長する回」
「殴って言い聞かせる、愛情の形」
「優しいだけじゃダメ」「厳しいだけじゃダメ」
その両方を兼ね備えた、めっちゃ良いエピソードでしたね。」
作者は静かに「読んでくれてありがとう」と返した。